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『あいまいさ』を『スペース』と捉える
2012年11月21日
私の駐在しているシンガポールでは、アジア地域の経営企画機能部門を新設する日系企業が増えています。
新設部門に配属される方たちのミッションの多くは、アジア地域戦略の立案。「これまでになかったものを生みだす」仕事です。
本社から100%任されているのならば、まだやりやすいでしょう。でも、企画していたことがちゃぶ台返しにあうようなことも。
また、アジアと一言で言っても、各国はすべて違う国です。これまでも、国を跨いだ連携を取ってきたわけでもないので、各国の社長と地域戦略の議論で感情的にぶつかることも少なくないようです。
そもそも、地域戦略を立案したところで、関係者は実行してくれるのか。
本社と現場の間に挟まれ、宙ぶらりんな状況にフラストレーションを感じる方が多くいらっしゃいます。
では今、海外で活躍するリーダーに望まれる能力とは何でしょうか?
Korn/Ferry Instituteが実施した調査(※1)では、アジアで成功するために望まれるリーダーシップコンピテンシーのひとつとして「あいまいさへの対応能力」を挙げています。
「あいまいさへの対応能力」とは、以下のようにブレイクダウンされています。
・変化に効果的に対応することができる
・方向転換を快く行うことができる
・全体像が見えていなくても、決断し行動することができる
・物事が未解決であっても、感情的にならないでいることができる
・完了していないことがらにとらわれず、次へと進むことができる
・リスクと不確実性にスムーズに対応することができる
これらをふまえて、今一度アジアに駐在するリーダーたちが置かれている状況を見ると、変化が大きく、全体像も見えづらく、未解決なことも、未完了なことも多く、リスクと不確実性に包まれている。まさに、「あいまいさへの対応能力」が望まれていると言えます。
一方で、日本人は、そもそも「あいまいな状況」への対処を好まない、という議論があります。
オランダの人類学者、ヘールト・ホフステードの国別比較リサーチによると、日本人は、不確実なことに対して回避行動を取る志向性が高く、それに対し、シンガポール人やタイ人などは、不確実性回避の行動を取る志向性が低いそうです。(※2)
アジアの駐在員から「ローカルスタッフは、驚くほど計画を立てることができない」といった不満をこれまで何度も伺ってきました。
ホフステードの言うことが全て正しいかどうかは分かりませんが、日本人の不確実性回避の志向性の高さを裏付けるコメントであるようにも感じます。
「あいまいさへの対応能力」は、リーダーとして成功するための要件。でも、そもそも、不確実性回避志向が高く、あいまいさへの対応は苦手。
少し乱暴かもしれませんが、仮にそう言えるとすれば、日本人がアジアで活躍する上では、「あいまいさへの対応」は大きなチャレンジです。
先日、そんなあいまいな状況の中で奮闘する日本人リーダー数名で、会食をする機会がありました。
現状打破に苦悶するリーダーたちを前にして、米系企業で活躍されている方が、これまで、新しい局面に直面したときに、どのように向き合ってきたのかを話してくださいました。
それは、一言にすると、「目の前には、スペースが広がっている、と思うことにする」というものでした。
その後の会食の場は、それまでとは全く違った議論の場になりました。きっと、それぞれの中で、「あいまい」としか捉えられていなかった状況が、違う風景に見えてきたのでしょう。
目の前に「スペース」が広がっているとしたら、そこで何ができるのか。
インドネシアの社長を味方につけ、合宿を組んで、議論しようと思う。プロジェクトチーム組成に向けて、メンバー候補に声をかけてみる。上司の巻き込みを念頭に、上司の立場に立って、企画書を作ろうと思う。
それぞれが、「あいまいさ」をポジティブに捉え、今の環境の中にスペースを見つけ、前進することを決めたようでした。
アジア各国で駐在している日本人リーダーたちは、アジアで成功するリーダーの要件である「あいまいさへの対応能力」を日々身に着けている、その真っ只中にいます。
【参考文献】
※1
"Lessons from the Asian C-Suite:
Building Global Talent and a Culture for Success"
by Michael Bekins
The Korn/Ferry Institute
※2
Geert Hofstede, Gert Jan Hofstede,
Cultures and Organizations: Software of the Mind
McGraw-Hill Book Company
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