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海外駐在は、グローバル人材への近道か?

海外駐在は、グローバル人材への近道か? | Hello, Coaching!
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早くも、今年1年を振り返るタイミングとなりました。私どもの今年の挑戦は、「日系企業に対するグローバル化支援」でした。

国内外で数々のプロジェクトを経験する中で、グローバルで活躍するリーダーがどのように開発されるのかを考え続けてきました。

今号では、下記の2つの視点からグローバル人材の開発について考察したいと思います。

視点1:海外駐在は、グローバル人材への近道か?
視点2:本社でグローバル人材は育てられるのか?

■視点1:海外駐在は、グローバル人材への近道か?

海外に赴任されている方との会話の中で時折感じるのは、「本社は、私たちが『特殊な環境にいる』ということを理解してくれていない」という不満のようなものです。

確かに、多くの方が「特殊な環境の中」で大変苦労されていると思います。

一方で、本社が「グローバルな視点を持ちながら成長して欲しい」と期待して派遣されながら、現地視点の「限定的な見方」に陥ってしまい、その土地の事情に終始してしまうのでは、何かとても惜しい気もします。

上海支社にいる私の同僚は今、米国に在住する社外の米国人コーチをつけています。同僚は、そのコーチングについてこのように語っています。

「自分のコーチは、上海にいる私に、会社全体が成長するためにはグローバルな視点で何が必要なのか、そこにどう貢献するつもりなのかを聞いてくる。また、今回の駐在で、上海や中国から何を学べるのかを何度も問いかけてくる。コーチの問いかけから、自分の意識が普段、上海や中国のことに内向していることに気づかされる」と。

異なる土地の外国人からの問いかけだからこそ、自分を客観的に見つめる機会になっているようです。

海外拠点にいながら、拠点の発展だけではなく、本社の発展をも意識し、そのためにできる具体的な貢献を考え続ける。これは、海外に出るとついつい忘れてしまいがちな視点かもしれません。

日本から派遣される前には、こうした視点、つまり本社からの期待もある程度は伝えられているでしょう。しかし、海外赴任経験の方向づけは、拠点に着任した後、その場でどのように期待値が伝えられるかによって、大きく決定づけられるようにも思います。

コーチ・エィの調査機関であるコーチング研究所(CRI)が海外駐在員に行った調査では、「後任が日本から赴任するとしたら、日本にいる間に何を備えておいてほしいか?」という問いから、「柔軟性」「強い意志」「実行力」「スピード」「社交性」という要素が浮かび上がってきました。


これらは、日本との繋がりやコミュニケーションパスを持った前提で、早期に拠点人材として活躍してほしい、という即戦力への期待が背後にあるのだろうと推察されます。

しかし、拠点での戦力化への期待が強くなり、次第に本社への貢献の意識が薄くなると、いつしか「自分達は特殊な環境にいる。それを本社は分かってくれない」という意識が芽生えてしまうのかもしれません。

グローバルな視野を持つことを期待した海外派遣が、逆に視野を狭めてしまうことは避けたいところです。

そこで、今一度、

・長期的な観点でどんな人材になってほしいのか
・拠点での駐在を、キャリアにどのように役立てることができるのか
・グローバルで活躍していく上で、本社や他拠点にどう貢献することを期待するのか

という観点で、赴任後の時点で改めて期待値をすり合わせることは、有益な取り組みとなるのではないでしょうか。

■視点2:本社でグローバル人材は育てられるのか?

我々は、コーチングの過程で、海外現地法人のナショナルスタッフの皆様にインタビューをする機会があります。

何によってリーダーシップを感じるのか、それを聞く中で出てくるのは、

・会社のビジョンや方向性を理解し、発信できること
・現地では知りえない幅広い情報や深い知識を持っていること
・本社と強い関係と交渉力を持っていること

というリーダーへの期待です。

私自身、先日、海外拠点で採用したばかりの中国人社員から、「我が社が提供しているサービスの本質的価値は何か? それを信じることができるのはなぜか?」と、単刀直入に問われました。とても貴重な質問だと思いました。

私は、この会社に参画して以来学んできたこと、その中で感じ取っている我々の風土、サービス発展の歴史や市場でのユニークさ、自分自身の決意などを伝えました。

海外拠点で働くナショナルスタッフは、「本社では何が大切にされ続けているのか」また、「全社の大きな船はどこに向かおうとしているのか」を理解することで、自らがここにいる理由を見出すのでしょう。そのために、私達が自社の普遍的な価値、向かう未来を自分の言葉ではっきり語ること、そのために自社について深く理解していることの大切さを改めて思い知らされました。

この点について、私のクライアントが語った言葉は、記憶に残っています。彼は、日系ヘルスケア企業の米州トップとして活躍しています。

「この会社には様々なビジネスシーズを開発する力があり、また、自らの創意でビジネスにしていく気概と自由があると思っています。これは、本社で長年培われてきた文化であり、誇りであると自分は信じています。米州は今、我が社で新製品を生み出す上では、世界で最も可能性のある場所と見ています。我が社の精神をもった人々が、米州の土地で新しい製品を生み出し、世界に発信していく。それを実現したい。これが私のミッションです」

彼の中には、会社の起源や精神が宿っており、頭の中には世界地図が描かれているようでした。

彼の経歴の大半は本社勤務ですが、日本に居ながらにして、常に海外のことを意識していたそうです。

また、海外経験の中では、本社で学んだことが大きく活きていると語っていました。彼からは、本社対拠点という対立構造の話は、聞いたことがありません。

本社と海外拠点。それぞれでしか体験できないことはあるのだと思います。

一方で、「グローバルで活躍する人材を育てる」ということを考えた時、たとえどこにいたとしても、「会社の歴史や精神への深い理解、世界地図の上におかれた羅針盤」は、世界で活躍する上での最強の武器となるのではないでしょうか。

グローバル人材の開発を再考するひとつの参考となれば、幸いです。

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