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柔軟さ、創造性、その出所は...

柔軟さ、創造性、その出所は... | Hello, Coaching!
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いま、グローバルを意識する環境におかれることが多くなってきています。

グローバル化とは、国や地域の枠組みがあるようでない状態。物事の常識やこれまでの知識・経験が通用せず、安定や安心感からは、いよいよ遠ざかっているような気がします。

みなさんは、このような状況下でも「成長し続け、成果を出し続けるチーム」はどのような状態にあると思われますか?

先日、読者の皆さまにご回答頂いたアンケートの結果を順にご紹介します。(回答者数361名)

■成長し続け、成果を出し続けるチームとは、どのような状態のチームを言うと思いますか? 以下より最も重要だと思うものを3つ選んでください。

  1. ビジョン・目標が共有され、皆が同じ方向に向かっている  76.2(%)
  2. 一人ひとりが創意工夫をしながら仕事に取り組んでいる  39.6
  3. 一人ひとりが自分の将来の目標やビジョンを持っている  33.8
  4. 有用な情報・経験を積極的に共有している  31.3
  5. 次のリーダーとなる人が育っている  22.7
  6. 評価基準が明確であり、評価理由もしっかり伝えられている  19.9
  7. 強みが共有されている  16.1
  8.  業務以外の話題、会話をする事が多い  15.2
  9. リーダーの能力が高い  15.0
  10. 価値観や得意領域が全く異なるメンバーで構成されている  9.7
  11. 侃々諤々の議論をしている  5.8
  12. 弱みが共有されている 2.2

みなさんは、この結果にどのような印象をもたれたでしょうか。

グローバル化が加速するいま、確かに私たちは不安定、不確実な環境の中にいます。しかし、なんの枠もルールもないからこそ、「柔軟で創造的な発想」をもってゲームのように楽しむ。私は、これができる組織こそが、グローバル環境で成長し続け、成果を出す組織ではないかと思います。

では、「柔軟で創造的な発想」とは、どのようにしたら生まれるのでしょうか?


右脳はクリエイティブ、芸術的、直感的な事柄を処理し、左脳は分析的、論理的、合理的にものを考える役割を担う、という話を聞かれたことはあるでしょうか。

これは、1981年にノーベル賞を受賞したアメリカの神経心理学者Roger Sperryが提言した「脳の2つの側面」として知られています。

ところが、この説はその後覆されています。

コロンビアビジネススクールのWilliam Duggan教授は、論文"How Aha! Really Happens"(※1)で興味深い説を紹介しています。

ひとつは、Kandelら(1998)3人の説(※2)で、以下のことが提示されています。

・「分析」と「直感」は、脳の中で、一緒に同時に活動しており、 右脳や左脳が存在するわけではない
・脳にあるのは、「学習」と「想起」の2つのみで、脳全体の中で両者が多種多様な「組み合わせ」を起こしている

もうひとつは、神経科学者のBarry Gordon(2003)の説(※3)で、以下のことが提示されています。

・人間の脳は、この世に生まれた瞬間から、「情報を取り入れ」「分類し」「棚に並べる」という行為を毎日行っている
・新しい情報が入るたびに、既に脳の記憶に貯蔵されている他のどの情報とフィットするか「検索」を始める
・マッチするものがあると、貯蔵されていた古い記憶は、新しい情報と「組み合わ」され、それが、「思考」と呼ばれるものだ

こうした2つの論点に基づいて考えると、ある発想は「とても柔軟で新しい」と感じられても、実はそれは、元々その人の中に眠っていた情報が外側からの別の情報とマッチングされ、新しい組み合わせが起こったものである、ということになります。

だとすると、「柔軟で創造的な(と感じる)発想」を生み出す可能性は、過去に物事を経験したり考えたりした「在庫の量」と、外側からの「新しい刺激の量」の掛け算によって生まれるということになるのです。

さらに思います。

過去の在庫の量を急に増やすことはできなくとも、与える刺激は、工夫次第で増やせるはずだ、と。ということは、柔軟で創造的だ(と感じる)発想は、刺激を増やすことで飛躍的に増やしていけるのではないか、と。

自分の頭の中だけでの自問自答では想定範囲内の質問となり、たどり着く在庫も同じものとなり、飛躍的ともいえる「新しい組み合わせ」が起こる可能性は低いでしょう。

でも、全く異なる視点からの質問は、「新しい刺激」となり、「柔軟で創造的な(と感じる)発想」につながるのではないでしょうか。


ここで、人の脳から「組織」に話を戻しましょう。「柔軟で創造的な(と感じる)発想を生める組織」はどうしたら創れるのでしょうか。

先の2つの論点から推測すると、

・経験豊かなメンバーがそろっていること
・メンバー同士が異なる視点から対話や議論し、刺激し合える組織であること

ということになるのではないでしょうか。

これらの観点で、あらためて冒頭にご紹介したアンケート結果を振り返ると
「10.価値観や得意領域が全く異なるメンバーで構成されている」や「11.侃々諤々の議論をしている 」といった項目は、もっと上位に選択されてもよいように思われます。

しかし、私たちは、「多様性に富んだチームや、対話や議論などのコミュニケーションが豊富なチームが、新しい発想を生みやすい」ということを、すでに、ある程度、体験的に知っているのではないでしょうか。

それなのに、日常では案外逆の行動をとってしまっているようにも感じます。

海外でも、日本人同士で付き合うことが多かったり、自分に同意する人だけを周囲に集めてしまったり、議論を避けるために反対意見をたしなめてみたり。

理由はいくらでもあるのだと思います。
・反対されたくない
・議論をしている時間がない
・単純に議論や対話は面倒

けれども、グローバルビジネスを進める中で何が正解かわからない以上、どんな取り組みが功を奏するかわからないのです。

リーダーとして、チームに新しい視点やちょっと面倒な議論をチームに常に持ち込むことが、目標の達成や組織の成長に向けて、そして何より、「グローバルビジネスを楽しむため」に柔軟で創造的な(と感じる)発想を引き出す刺激になるのかもしれません。

【参考資料】

※1 William Duggan"How Aha! Really Happens"(Booz & Company, 2010)

※2 Brenda Milner, Larry Squire, and Eric Kandel
  "Cognitive Neuroscience and the Study of Memory."
  (Neuron,1998)

※3 Barry Gordon & Lisa Berger
  "Intelligent Memory: Improve the Memory That Makes You Smarter"
  (Viking, 2003)

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