Coach's VIEW

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部門の壁を越えたコミュニケーションは、なぜ重要か?

「あなたが所属する会社では、
部門の壁を越えたコミュニケーションは活発ですか?」

コーチ・エィが先日実施したアンケートの結果は
次のようなものでした(回答者285人)。

 とてもそう思う     13人 (4.6%)
 少しそう思う      78人 (27.4%)
 どちらとも言えない   45人 (15.8%)
 あまりそう思わない   129人 (45.3%)
 全くそう思わない    20人 (7.0%)

一方、「部門の壁を越えたコミュニケーションは活発なほうが良いと思いますか?」の
回答結果は以下の通りでした。

 とてもそう思う     222人 (77.9%)
 少しそう思う      44人 (15.4%)
 どちらとも言えない   13人 (4.6%)
 あまりそう思わない   5人 (1.8%)
 全くそう思わない    1人 (0.4%)

メールマガジンの読者という、限られた範囲ですが、
「部門の壁を越えたコミュニケーションは活発なほうが良いと思っているが、
 実際はそうではない」と感じている人がとても多いことが分かりました。

このギャップの大きさは、我々の想像を超えるものでした。

私が担当しているエグゼクティブ・コーチングのクライアントの中には、
「部門の壁を越えたコミュニケーションをもっと活発にしたい」という
経営トップの方が何人もいらっしゃいます。

では、部門の壁を越えたコミュニケーションが活発になると、
会社の経営にはどのようなメリットがあるのでしょうか?

私がメリットとして最も強調したいのは、

「部門の壁を越えたコミュニケーションは、
 経営会議の"意思決定の質"を高める可能性がある」

ということです。

特に、部門の代表者である役員同士のコミュニケーション量は、
役員会議の「意思決定の質」に大きく影響します。

「部門の壁」の最たるものが、「役員同士の壁」だからです。

集団の意思決定に関する興味深い研究があります。

ガロルド・ステイサーとウィリアム・タイタスは、
「個々のメンバーが他の仲間が持っていないような独自の情報を持つ」場合に、
集団がどのような意思決定をするかの実験を行いました。(※1)

この実験では
「個々のメンバーは自分だけが知っている情報を他のメンバーに分かち与える必要」
がありました。

しかし、実験の過程で分かったのは、

どのような集団も、意思決定をする際に、
全員が既に知っている「共有情報」だけで議論が行われる傾向がある、
ということでした。

個々のメンバーだけが知る「非共有情報」は、
たとえそれが全体での意思決定に重要なものであっても、
会議の場では、議論に出されなかったり、
出されても十分には扱われないことが多いのです。

実際、この実験における多くのケースにおいて、
集団による意思決定の質は、
メンバーが個人で出した意思決定の質よりも劣っていました。

この研究をふまえると、
部門の壁が高く、部門のトップ同士の日常のコミュニケーション量が減ると
お互いが知っている共有情報が減るだろうということは容易に想像できます。

そして、「共有情報が少なければ少ないほど、
"意思決定の質"が低下してしまう」と考えられるのです。

ブライアント大学のマイケル・A・ロベルト教授は、
「企業の経営チームの多くがそうであるように、
 集団のメンバーの目標や目的の一部に違いがある場合、
 集団としての意思決定の結果はより悪化する」と述べています。(※1)

では、皆さんの会社の経営会議はどうでしょうか?

もし、それぞれの部門を代表する役員が、
他の役員は知らないが本当は意思決定に重要な情報を「隠し持ったまま」、
あるいは、自分が知らない他の役員の意見を「無視したまま」に
議論を進めているとしたら、経営会議における意思決定の質は高くないはずです。

では、どのようにすれば、
役員会議で「非共有情報」が出されるようになったり、
ちゃんと扱われたりするのでしょうか。

役員会議の中で「非共有情報」を意識して取り扱うような
進行を心がける方法も考えられますが、
高いファシリテーション能力が必要であるだけでなく、
役員間の関係構築がよほど進んでいない限り、
活発な「非共有情報」が出るとは思えません。

そこで、私が最も重要だと思うのは、
「役員間の日常のコミュニケーションの絶対量を増やすこと」です。

なんだそんなことか、
忙しい役員同士の時間をとるのは難しい、
と思われるかもしれません。

しかし、役員同士の日常のコミュニケーション量を増やし、
お互いに自分の担当領域に直接関係がないと思われるところまで知っていくことは、
自然とお互いの「共有情報」を増やします。

そして、それが、意思決定機関として最も重要であるはずの
「経営会議における"意思決定の質"そのものを高める」と私は考えています。

ところで、そうは言っても、
欧米に比べ、日本は元々部門の壁を越えたコミュニケーションをしやすいのではないか、
日本人は集団主義の傾向が強いので、
部門を越えて会社全体で一致団結しやすい民族なのではないか、
という考えもありそうです。

しかし、むしろ日本人は部門の壁を作りやすい民族かもしれません。

ニューヨーク州立大学の入山章栄氏は、
著書の中で国民性に関する研究をいくつか紹介しています。(※2)

マーストリヒト大学のヘールト・ホフステッド教授の調査によると、
69か国中、最も「個人主義」的傾向が強いのはアメリカでした。

日本は32位で、2位のオーストラリア、3位のイギリスらに比べると
やはり「集団主義」的傾向は強いようです。

ところが意外なことに、ブリガムヤング大学の
レナード・ハフとハワイ大学のレーン・ケリーによる研究では、
自分のグループ以外の人を最も信用しやすいのは
「個人主義」で1位のアメリカ人だったのです。

そして、日本人はグループ以外の人を信頼する傾向が
「最も低い」国の1つだったのです。

この結果について入山氏は、
「グループ内の結束が強ければ強いほど、グループ外の人たちとの
 協力関係を築くのが心理的に困難になる可能性がある」
という考えを紹介しています。

部門を代表する役員の様子は、
当然ながら、部門のメンバーに大きな影響を与えます。

役員同士で部門を越えたコミュニケーションをとっていくことは、
やがては、部門の壁を越えたメンバー同士の
コミュニケーションにもつながっていくでしょう。

もし、メンバー同士のコミュニケーションが
部門を越えて活性化していないのだとしたら、
それは、そもそも、「役員同士のコミュニケーションに問題がある」と
いうことではないでしょうか。

時々、部門の壁を越えたコミュニケーションを活性化しようと、
ミドルの管理職や若手だけを対象としたプログラムを実施する企業がありますが、
大きな効果が期待出来ないことは言うまでもありません。

「報連相」(ほうれんそう)と言えば、
かつては、部下から上司に対する報告、連絡、相談のことでした。

これは「縦の情報伝達」を重視した発想です。
しかし、技術の発達によって、
「縦の情報伝達」の不足は急速に解消されつつあります。

これからは、縦ではない、部門の壁を越えた「横の報連相」を
いかに実現するかが経営の成否をも左右するのかもしれません。

【参考資料】

※1 『なぜ危機に気づけなかったのか ― 組織を救うリーダーの問題発見力』
   マイケル・A・ロベルト、 飯田 恒夫 英治出版 (2010)

※2 『世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア』
    入山 章栄 英治出版 (2012)

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