Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
今日からできるアジア新興国赴任対策
2013年02月13日
将来、もし、アジアの新興国に赴任することになったら、どんな能力を身につけていると赴任の成功に繋がると思いますか?
今は日本にいるみなさんも、バンコクやジャカルタに赴任する可能性は今後、いよいよ高まってくるでしょう。
「いや、自分に限って、アジア赴任はないだろう」「うちは、海外事業は関係ないから」と思われている方こそ、可能性があるかもしれません。
これまでは国内事業しかなかった会社も、急速に海外展開を推進している時代です。実際、いま赴任されている方も、「まさか、自分が海外赴任するとは思わなかった」という人が意外と多い、というのが実感です。
海外の赴任先では、現地のローカル社員と一緒に働くことになります。彼らとうまくやっていくことが赴任成功の一要因であることは議論の余地がないでしょう。
そこで、将来海外に赴任するときに備え、今から「ローカル社員と働く上で役に立つ能力を身につけておく」そんなことはできないでしょうか?
何か手がかりはないかと思い、コーチング研究所の「リーダーシップ・アセスメント(LA)」(※1)のこれまでの実施結果をひも解いてみました。
その中から、日本で働くリーダー957人と、海外で働くリーダー161人について、その上司や同僚、部下といった周囲の人に行った「対象者(リーダー)に必要だと思うリーダーシップの要素は何か? 10個の要素から3つ選んでください」という質問の結果を分析しました。その結果、周囲の回答が40%を超えた要素は、日本で働くリーダーであっても海外で働くリーダーであっても同じだったことがわかりました。
・周囲の人のモチベーションを上げること
・人を育成するという強い意志を持つこと
・大きな方向性を示すこと
・広い視野で考え、判断すること
大きな傾向として、「日本でリーダーに期待されていることは、海外でも同様に期待される」ということが言えるようです。
異なるのは、海外の場合、それが「ローカル社員からの期待」であるということ。
一方で、海外赴任者側にお話を伺うと、「ローカル社員のモチベーションが低い。彼らにもっと自発的に動いて欲しい」と、多くの方が「ローカル社員のモチベーションの希薄さ」についてお話されます。
日本でも海外でも、「周囲がリーダーに期待することは、ほぼ同じ」ということを認識しつつも、海外に赴任する際は、「より一層の覚悟」を持っていた方がよいかもしれません。
アジアに赴任したら、「自分と異なるバックグランドを持つローカル社員と関わり、動機づけていくこと」が「避けられない課題」になりうる、ということを。
アジアに赴任しているみなさんにより突っ込んでお話を伺ってみると、こんなことをおっしゃる方が意外に多くいらっしゃいます。
「現地では、管理職やベテランと言われる社員であっても、日本の社員と比べると、入社数年の若手並みの能力と同程度であることが多々あるんです」
もちろん、どこの国でも、有能なローカル社員はたくさんいるでしょうし、有能なローカル社員が活躍している日本企業もたくさんあると思います。
ただ、一方で、上記のような状況に直面している海外赴任者も多い、という現実も私たちは忘れてはならないと思います。
もしそれが現実だとしたら、引き合いに出された日本の若手社員と日々対峙している「日本のリーダーの行動」には、海外赴任者に望まれる行動と重なる部分があるのではないでしょうか。
ローカル社員には、日本で若手社員に関わるように関わる。それが機能するのではないか、と。
ふとそんなことを思い、メルマガの読者のみなさんにアンケートで「若手社員のモチベーションをあげるために、コミュニケーション上、工夫していることは何ですか?」と伺ってみました。
100件近い回答の中からその代表例を紹介します。
・「どんなに些細なことであっても、新しいことにチャレンジする兆しがあるときには、精一杯応援する」
・「仕事が終わったら、いつも『今日はどうだった?』という声がけと、『ありがとう』という感謝をこまめに伝える」
・「できるだけ声をかけ、仕事の話だけでなく家庭や趣味の話なども行う。次に話すときはその部分での変化についても会話できるよう記憶しておく」
・「困っていそうであればこまめに声をかける。『あなたは重要、コアの役割を担っている』と言うメッセージを頻繁に投げかける」
私たちがバンコクやジャカルタで海外赴任者をコーチするとき、ローカル社員にインタビューし、海外赴任者リーダーへのフィードバックを聞くことがあります。
そこでよく出てくるのが、「海外赴任者の方からもっと話しかけて欲しい」「接点の頻度を高く持ちたい」ということ。
今回の読者アンケートでみなさんが挙げてくださった内容は、私がこれまでインタビューをしたアジアのローカル社員が駐在員に望んでいることと重なる部分がたくさんありました。
文化や言葉の違いもあり、ローカル社員との接点はよほど意識していないと、より限定的なものになりがちです。
だからこそ、ローカル社員からの願いは切実なのだ、という印象を私は受けています。
過去、上司である海外赴任者の指示に「正しく従う」ことを教えられ、期待されていたローカル社員が昨今では「自ら考える」ことが期待されています。
そうしたことからも、日本で若手社員が安心してチャレンジできる環境を作るプロセスと、海外のローカル社員の自発性を引き出すプロセスは相似形だと思います。
若手社員と関わり、動機づけを実践する。
日本で日々、意識し、実践していることは、確実に、アジアの新興国でリーダーとして活躍するための能力開発につながっていると言えるのではないでしょうか。
来るべき「アジア赴任」を念頭に置きながら、今日、この瞬間から、目の前にいる若手社員との関わり方を見直してみる。
グローバル化の時代、この経験が海外でも生きる日が、きっと来ると思います。
【参考資料】
※1 「リーダーシップ・アセスメント(LA)」(コーチング研究所)
この記事を周りの方へシェアしませんか?
※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。