Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
理想の社員
コピーしました コピーに失敗しました先だって、同じ日に対象的な2社を訪問しました。両社とも製造会社。
最初の企業は、飛ぶ鳥を落とさんばかりの勢いで伸びているオーナー企業で、非上場のプライベートカンパニー。その社長にはじめてお会いできるということで、経営の要諦が一体何なのか、秘密の一端を探るべく、わくわくして出かけました。
社長は、大事なのは、「人をどう見るか」という経営者のスタンスだといいます。
―そもそも、人は誰しも完璧ではない
―55良いところがあれば、45悪いところもある
―だから細かいことに目くじらを立てずに、大らかな気持ちで社員に接することが肝要
―10人採用しても1人しかものにならないこともあるが、そういうもの
―だから、どんどんチャレンジしてもらって、失敗してもらって、会社全体として成功するまでやり続ければいい
―社員に求めているのはチャレンジする精神に尽きる
次々に新鮮な切り口を投げかけ、勝負しているこの会社の原動力は、社長のこの人間観にあるのだ、ということがとてもよくわかりました。
もう1社は、老舗の大企業。人事部長との面会でした。人材開発の体系を見直したいので相談に乗ってほしい、という依頼でした。
1時間近くディスカッションしましたが、どうも会社としてのスタンスに軸がないような気がして、そのことを正直に伝えました。
部長は、「当社にはこういう人材が必要である」という人材観が社長の口から出てこない。「何か新しい人材開発要綱を作れ」という指示はあるものの、その根幹となる「人に関する哲学」を社長自身が打ち出せていない、と。
社長の中に「社員に求める人材像」の基軸がなければ、人材開発体系を構築することなど、到底難しいでしょう。
私のこれまでの経験では、社員にどういうスタンスで働いてほしいか、どういう人材であってほしいか、といった人材観を明確に示しているのはオーナー系企業の方が多く、サラリーマン経営者がトップの大企業は、どちらかというとそれが不明瞭であることが多い印象があります。
この10年間の企業の時価総額の推移をみると、オーナー経営者が率いる企業の多くが価値を増大させている一方で、トップがサラリーマン経営者の企業の多くが価値を減衰させています。
ひょっとすると、社員にどんな風にあって欲しいか、というメッセージを明確にし、それが発せられているか否かが、少なからず業績に影響しているかもしれません。
もちろん、大企業もその創業期には、「このような社員であってほしい」という人材観が示されていたのではないでしょうか。ところが、創業者が他界し、時を経る中で、だんだんと、その根幹の部分が薄れていく。業績が悪くなると、創業者の想いに立ち戻ったり、逆に時代遅れだと判断し、これまでと全く違う人材観を打ち出したりするわけですが、いずれにしても軸が定まらない。
確かに、トップの立場にあっても、任期に期限のあるサラリーマン社長が、歴史とともに積み重ねてきた社内の様々な価値観を乗り越えて、「人とはこうあるべき」という基軸を打ち出せるかというと、よほどの強いリーダーシップがない限り難しいことなのかもしれません。
本メールマガジンの読者に行った「あなたの会社では、『どういう社員になってほしい』という人材像が明確ですか?」というアンケートでは、51%にあたる67名の方が「ある」、49%にあたる65名の方が「ない」と回答しています。
業績や、オーナー系か非オーナー系かなどの関係性は見ていませんが、社員に「どうであるべきか」を明確にしている会社は、私の予想以上に少ないということがわかりました。
話は変わりますが、先月、ラグビー日本選手権の決勝でサントリーサンゴリアスが3連覇を飾りました。2003年のトップリーグ発足以来、史上初めての無敗による完全優勝という快挙でした。
就任1年目の大久保直弥監督は、試合後のインタビューで「誰がどんな状況で試合に出ても、自分たちのラグビー、自分のやるべきことをしっかり理解し、実行できる点がサントリーの強み」と述べています。
試合であれ、練習であれ、選手一人ひとりが、いつでも、どこでもアグレッシブかつハングリーにベストを尽くすことをとことん求める。
日本選手権の前日に、控えの選手11人全員が、筋力トレーニングでベスト記録を更新していることからも、その徹底ぶりは伝わってきます。
企業においても、社員にどういう人であって欲しいか、どう動いてほしいかを明確にし、それを社員に伝えることは、経営者の責務であり、それこそが強い企業組織を作るための大前提であるように思えてなりません。
アンケートでは、「会社が求める人材像を明確にしている」と答えた人に、さらに、「その人材像に向けた人材開発のために、会社では、どのような施策が取られていますか?」と自由回答で伺っています。
いろいろな回答結果から、その傾向をまとめると、次の5つの流れに大別されそうです。
1. 人材像、コンピテンシーの明確化
2. 人材像、コンピテンシーについての周知、発信
3. 研修/勉強会/セミナー/OJTなど、人材像、コンピテンシーに関する「対話の場」の創出
4. 評価軸の整備
5. 見直し、1.に戻る
1から5のフローを実践しているか、この途中までやっている、というケースが多く見られました。
このフローの中で、おそらく、なんと言っても大事なのは最初の1番で、さらに、これをどれだけの想いとエネルギーをもってトップが語れるかがキーなのでしょう。
昨今、経営陣にリベラルアーツを学ばせたい、哲学を学ばせたいという話を人事の方から聞くことがあります。
人間についてもっと知って、深めて、独自の人間観を打ち出してほしいという想いがそこにはあるのかもしれまん。
そもそも人間とはどういうものなのか、何が人の成長や能力の開花を促すのか、どんな関係性がお互いの間に築かれることが、組織のパフォーマンスを最大化するのか。
こういった問いについて徹底的に考え、自分なりの人間観、人材像を打ち出すことが、今のリーダーには強く求められているように思えてなりません。
価値観が多様化する今だからこそ。
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