Coach's VIEW

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リーダーの機会損失

先日、メールマガジンの読者の方に実施した、
組織内の「リーダーシップ開発」に関するリサーチでは、
270名を超えるご回答を頂き、皆様のリーダーシップ開発に対する
関心の高さを実感しました。

リサーチにご協力頂きましたことに、
この場を借りて御礼を申し上げます。

さて、本リサーチでは、次のような興味深い結果が得られました。


■回答者の「リーダーシップ発揮」に関する、
 所属する会社からの期待と、自身の意欲について、

・8割以上の人が、会社から「リーダーシップを発揮することを期待されている」と感じている
・9割以上の人が「リーダーシップを発揮したい」と思っている

■上司の、回答者への「リーダーシップ開発」への関わりについて、

・「会社からリーダーシップを発揮することを期待されていると感じる」と回答した人のうち、
 上司が回答者のリーダーシップを開発していないと感じている人は、57%に達する

・「自分はリーダーシップを発揮したいと思っている」と回答した人のうち、
 上司が回答者のリーダーシップを開発していないと感じている人は、41%に達する


このアンケート結果を見て、
私はリーダーシップの「機会損失」に着目しました。

それは、育てられないことによる、「部下側」のリーダーシップ発揮の機会損失ではなく、
「開発する側」である「上司側」にとってのリーダーシップ発揮の機会損失です。

後進のリーダーシップ開発にチャレンジしないことで、
上長は、自らのリーダーシップ発揮の機会を失っている、という点は、
意外と見過ごされがちなのではないかと思います。

かつてGE社のリーダーシップ開発に携わった
ノール・M・ティシーは、著書『リーダーシップ・エンジン』の中で下記のように指摘しました。

「リーダーは教育を通して他者をリードする。
 リードとは、他者に現実を直視させ、現実にどのように対処しなければならないかを理解させ、
 必要な時に組織を前進させられるよう、彼らに行動を起こさせることである」

この指摘は、リーダーにとって、後進の育成は
「リーダーシップ発揮の機会」であることに気づかせてくれます。

自分は、人を育てることを通じて、
いったいどれだけの人達をリードできているか、
そんな問いが生まれてきます。

実際、我々が、数々のコーチング・プロジェクトを通じて気づくことは、
組織内で上長による部下へのリーダーシップ開発が手薄になることの影響は、
組織風土にも影響を与えるということです。

我々の調査機関、コーチング研究所のリサーチ結果では、
モチベーション、ロイヤリティ、目標達成意欲に関する「組織の状態」は、
リーダーの、メンバーへの成長支援や、成果に向けた関わり方などと、
強い相関が認められています(相関係数=0.70)。

すなわち、リーダーが、後進の育成をうまく進められないことで失うのは、
後進へのリーダーシップ発揮の力に留まらず、
組織風土・組織の活力にも影響が及ぶということが言えるでしょう。

一体、これはどういうメカニズムなのでしょうか?

そもそも、人の成長の過程には、
「新しい挑戦」や「失敗・成功の体験」への直面が伴います。

そして、こうした挑戦や体験は、
本人にとって成功の保証のない「不確実なチャレンジ」でもあり、
言いかえれば、期待と不安の入り混じった感情を伴うプロセスです。

そしてこのプロセスは、育てられる側と同様に、
育てる側にも起こる精神状態と考えられます。

必死にもがく部下を見て、厳しさを示すべきか、
今ここで安心を与えるのか、そんなことで日々、心が揺れるのです。

残念ながら、そこには論理的で「確実な」回答が存在しないため、迷いが生まれる。
こうして、育成する側、される側の双方に「不確実」な状態に置かれるのです。
しかし、そこにヒントがあるようです。

「不確実性は感情を活性化させる」

これは、脳科学者の茂木健一郎氏の指摘です。

即ち、挑戦の伴う育成行動は、互いの「関係」の中に感情を介在させ、
「育成行動に満ちた」組織には熱気が充満する。
そんな風に言えるのではないでしょうか。

そして、こうした関係が、
組織のどの範囲・面積で成り立っているのか、
それこそが、組織変革のエンジンの潜在力を示すのかもしれません。

ある大手企業のCEOは、自らがコーチングで得た成果を次のように語りました。

「コーチングの会話・過程をコピーできた。
 これまでよりも、相応しい形で役員たちを育成できるようになった。
 それは役員の提案数の増加と、彼らの前向きで挑戦的な行動によって分かる」と。

大半の役員は、コーチング前後でのCEOの自身に対する影響力の変化を認め、
以前に比して、自分自身の「役割認識」が深化し、
ビジネスプラン達成への自信を口にしていました。

CEOがリーダー開発のトリガーを引いたこの組織では、
今では育成の連鎖と活力が、滝のように組織の上から下に流れ始めています。

今号では、リーダーは、後進を育てることで、
リーダーシップ発揮の「機会損失」を回避できることを紹介しました。

また、リーダーは人の育成によってフォロワーをリードできること、
人の育成によって組織に活力を持ち込むことができることについて
考察しました。

最後になりますが、私自身は、
こうした連鎖の起点は高ければ高いほど、
組織の持つリードの力と活性化の力は勢力を強くする、と考えています。

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