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成長志向を促進させる
コピーしました コピーに失敗しました成功しているリーダーにインタビューすると、成功の要因として、修羅場体験や失敗からの学習が大きな成功へのスプリングボードになってきた、と回答するリーダーが多くいます。
そして、修羅場や失敗については、それらを目の前にしたときに、「自分にはこの修羅場を超える能力があるだろうか」と不安に感じるリーダーと、「この修羅場を超えることで自分は何を学び、手にするだろう」とワクワクするリーダーがいます。
スタンフォード大学の心理学教授キャロル・ドゥエックは、前者を固定的マインドセットのリーダー、後者を成長志向のマインドセットのリーダーとしています。
固定的なマインドセットの人は、知能や才能は生まれながらに決まっており、変えられないもの、と信じる傾向があり、自分の能力を確認する行為に走る傾向があります。
それが故に、自身のアィデンティティーを脅かすようなことを避ける傾向があるというのです。つまり、難問や修羅場体験を目の前にして、腰が引ける可能性が強い。
一方、成長志向のマインドセットの強い人は、難問を自身の能力を高めるものと解釈して、その難問に向き合い、楽しむ傾向があると言います。
さらに、ドゥエック教授によると、私たち人間は、どちらのマインドも持っているが、人によって、その割合が違う、と言うのです。
また、成長志向のマインドセットを強化することも可能だそうです。
部下の失敗に対しての関わり方について考えるとき、必ず思い出すリーダーがいます。そのリーダーは、今まで何十年と続いてきた、会社のビジネスモデルを変革するミッションを持ったリーダーです。
その人の部下に与えられるタスクは、長年なじんできたお客様へのアプローチ方法をがらりと変えるもので、部下にとっては、必然と日々失敗や躓き、新たな難問が目の前に立ちはだかります。
時には、失敗を恐れるあまり行動にブレーキがかかり、「自分にはこれを成功させる能力ない」と尻込みしてしまうような発言が飛び出すことがあります。
そのようなとき、このリーダーは、その失敗を1つの学習のチャンスとして、「この失敗から自分たちは何を学べるのか?」「今回はうまくいかなかったけれど、うまくいった体験は何か?」などと問いかけ、成長志向のマインドを刺激するそうです。
また、この方は、ほめ方にも意識を高く持っています。そもそも、タスクの性質上、結果が出にくいということもあるのですが、結果よりも、プロセスや取り組み姿勢をほめるのです。
「夜遅くまで、がんばっているね」や、「どうやってお客さまに喜んでもらえたのか教えてほしい」と部下に声をかけていきます。
このリーダーによれば、プロセスや取り組み姿勢を認めることで、リーダーである自分がいつも側にいて応援しているという意識を持ってもらえるからだと言います。
ドゥエック教授によると、能力や結果だけをほめると、困難な状況に対して受け身的になり、学習や成長の機会を低下させる可能性があり、一方で、問題解決に対してその努力や過程をほめると、課題に対して挑戦する意欲も高まり、ちょっとした困難にもめげず、学習や成長が促進される成長志向マインドの発達を促すそうです。
また、先のリーダーは、失敗や難問に対する関わり方を変えることを促すことで、部下は失敗や難問に対して前向きに挑戦するスタンスに変わっていく、といいます。
今一度、リーダーは自身の関わり方が、メンバーが困難や新たな行動に向かう成長志向のマインドを促進しているものかどうかを、棚卸してみるのもいいいかもしません。
最後になりますが、本メールマガジンの読者の方に、「部下をほめるとき、『能力』と『取り組みの姿勢』のどちらの側面をほめることが多いですか?」というアンケートを実施させていただきました。
結果は、
「取り組み姿勢がよければ能力が伸びる」
「能力は変えられないが、取り組み姿勢は変えられる」
「努力やプロセスのほうが大事」
と考える方が多く、ご回答いただいた約230名中、9割もの方が「取り組み姿勢」をほめ、約1割の方が「能力」をほめるという回答でした。
もちろん、リーダーと部下との関係性や状況により、効果的なほめ方は変わってくるものだと思いますが、本アンケートにご回答いただいていた読者の方は、ドゥエック教授のセオリーに沿うようなほめ方をするリーダーの方が圧等的に多いのかもしれません。
【参考文献】
『「やればできる!」の研究―能力を開花させるマインドセットの力』(草思社)
キャロル S.ドゥエック (著)、今西 康子 (翻訳)
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