Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
新しい職場でのマネジメント
2013年04月03日
4月は、日本企業では新入社員の入社や人事異動が多い時期です。海外赴任者も交代の時期です。新しい職場で新しいチームを率いることになる方、また、新しい上司の下で新しい仕事に取り組まれることになる方も多いと思います。
このように新しい職場で、新任のリーダーがいち早く成果を上げるために行われる「トランジション・コーチング」のビジネスインパクトを測った調査では、その投資対効果が非常に高いことが明らかとなり、あるFortune50企業では、ROI値が1,400%にもなったことが報告されています。(※1)
組織の業績と人の成長にとても重要なこのタイミングで、実際にどのようなことが行われるとよいのでしょうか。
3月6日配信のメールマガジンで読者の方々に「新しい職場での能力開発」についてお聞きしました。
ご回答くださった226名の方の結果では、各質問にYESと答えた方の割合は、以下の通りでした。
Q.1
最初から、あなたの(新しい)役割について、上司と共有が充分にされていた 38%
Q.2
最初から、あなたの成長に関する3~5年後の中期ビジョンを上司と共有できていた 16%
Q.3
あなたの成長について、上司と話をする場が継続的にあった 38%
Q.2で、「YES」と答えた方が少ないのが目立ちます。なお、約半数の47%の方が、3問全てに「No」と回答されました。
また、自由回答の「Q.4 あなたが新しい職場に異動、または新しい会社に転職したときに、自分が成長していくために上司にしてほしいことは何ですか?」という質問に対しては、
・約半数の方々が「会社が自身に期待すること、自身の役割を明示してほしい」といった「役割の明示」を上げており、その7割の方が、Q.1で「No」と回答しています。
・次いで、「組織がどこに向かおうとしているか、どうやって行こうとしているか、そして、自分はその中で何を期待されているかについて話し合い、目標を明確にして共有してほしい」と、「組織や個人のビジョンや成長の共有」に関するコメントが多く(約25%)、その9割以上は、Q.2で「No」と回答した方でした。
新しい環境では、新しい役割や目標、その人の成長についての共有は、部下が望んでいるほど行われていない現状があるようです。
日系企業でコーチングをしていると、上司が部下に対してどうなってほしいか、どうしてほしいかということを、部下に伝えていないケースが非常に多いことに驚きます。
聞いてみると、部下に対する期待を持っていないわけではないのですが、どうやら、伝えていないのです。
これとは対照的に、外資系企業では、上司が部下に対して期待を伝えるということは比較的よく行われているようです。
私の香港人の友人で米国系企業に勤めるSさんは、昨年、異動から数か月で昇進を果たしました。
彼の上司だった同じく香港人のCさんは、Sさんが配属されたその日から、Sさんの目標や何をすべきか、3年後にはどうなっていてほしいかなどについて、とても明確に話す時間を取ってくれたそうです。
2012年にコーチング研究所(CRI)が行った調査でも、「上司が部下と目標を共有すること」が「上司が自分の成長を支援してくれていると部下が感じること」と強い相関関係(n=1979、相関係数0.67**)にあることが、わかっています。
私たちは、部下の成長にとって、こうした上司の行動、関わりが望ましいことを知っています。
では、日本人の多くが、このことを頭では分かっているのにできないのは、なぜなのでしょうか?
部下に対して期待を抱いているにもかかわらず、そのことを伝えたことがない理由をクライアントにもお聞きすることがあるのですが、これまで、何人もの方が「それは、部下に自分自身でやってほしい」とお話しされます。
「背中を見て学べ」「技術は先輩から盗め」とはよく使われるフレーズです。しかし、こうした職人気質のような考え方が、本当の理由でしょうか? 職人気質は、日本独特のものではなく、世界中に存在します。
私は、日本人の「曖昧さ」を好む気質が関係するのではないかと思っています。日本人は、比較的物事をはっきりさせず、曖昧にすることによって、協調し、社会を作ってきた面があるように思います。
はっきりものを言うことは、時に「おせっかい」であり、「余計なお世話」であったりします。はっきりさせないことが「美徳」とさえ受け取られます。
こうした背景から、私たち日本人は、物事を明確にすることに漠然とした恐れを抱いているようにも思います。
はっきりものを言ってしまうと、関係が崩れるのではないか、組織が保てないのではないか、どこかでそう思っているのではないでしょうか。
上司が、部下と目標やビジョンを共有する、それが望ましいことだとわかっていながら出来ない背景には、こうした心理がないでしょうか。
特に、異動してきたばかりのような新しい部下に対しては、その傾向がさらに強くなっても不思議はありません。
日本人がグローバル環境で活躍していくためには、こうした心理とどう付き合うか、ということがひとつの鍵になるのかもしれないとも思います。
コーチ・エィ香港は、この4~5月に3人の新人を迎えることになりました。日本人にアメリカ人、オーストラリア人、香港人が加わり、ダイバーシティに富んだ環境になります。
「曖昧さ」のトラップを乗り越え、彼らに自身の成長マップを描かせて、我々自身の成長マップも更新させることが私にとって、この数週間の最重要課題の一つとなります。
【参考文献】
※1 "New Leaders Should Start New Year with Transition Coaching"
CareerSmart Advisor, January 24, 2005
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