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毎日前向きに仕事に取り組めていますか?

組織の生産性の向上は、そこで働く人々が
どのくらい主体的な意識を持ち、行動できるかにかかっています。
職員、職場の満足度調査や環境調査などは、
それを測るための尺度です。
「毎日前向きに仕事に取り組めていますか?」
この問いは、主体性を測る代表的な質問です。
この問いに、「Yes」と答える社員が多いほど、
その会社の生産性は高いと言えるでしょう。
3月11日配信号のメールマガジンでは、
読者のみなさんにこの問いを投げかけたところ、
296名の方が回答くださいました。
7段階評価で、上位2つの「とてもよくあてはまる」と「あてはまる」
を選択された方をマネージャー以上とマネージャー未満に分けた集計結果は、
次のようになりました。
その差は、なんと26%。
数字上で見るかぎり、マネージャー以上の立場の人と
マネージャー未満の人の間の回答結果には、
思いのほか、大きな差があります。
この傾向は、コーチング研究所が実施した、
他の職場満足度に関するリサーチでも、
全く同様の傾向が見られます。
組織の生産性を高めるには、
当然のことながら、マネージャー自身が主体的であることはもちろん、
マネージャーがどれだけ部下の主体性を引き出せるかが
大切なポイントの一つだと言えます。
ここにもうひとつ興味深いデータがあります。
最近、病院経営の現場でもコーチングの導入が進んでいますが、
コーチング研究所の職場満足度調査結果を、
病院系の上司と部下、一般企業の上司と部下とで比較してみたものです。
【職場満足度調査全9項目の結果】
この結果からは、
病院の部下の立場の人の職場満足度が
一般企業に比べてかなり低いことがわかります。
患者さんや家族と接する機会が多い医療現場のスタッフの職場満足度は、
そのまま、患者や家族の満足度に影響していることは容易に想像できます。
病院経営の視点から見れば、この満足度の低さは
大きな課題だと考えられます。
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名古屋第二赤十字病院では、昨年から「最高の病院」をつくることを目的に、
全病院規模でコーチングを導入しています。
第一期生として、院長をはじめ、医師、看護師などのコメディカル、
事務の各領域のマネジメント層25名とその部下にあたるスタッフ128名、
合計153名がこの取り組みに参加しました。
マネジメント層25名のコミュニケーション・スキルを、
取り組み前後の他者評価で比較したところ、
トレーニングの前後で、大きく向上しました。
【上司のコミュニケーションスキル全24項目の測定結果】
非常に興味深いのは、25名のトレーニング前後では、
部下であるスタッフの職場満足度も、上昇していることです。
【部下の職場満足度全9問の測定結果】
すなわち、上司のコミュニケーション・スキルが上昇すると、
部下の職場満足度が高まる。
つまり、両者の間に相関があることが予想できます。
プログラムに参加した医師たちからは、
次のようなエピソードを聞くことができました。
「数年前、若手の医師たちに
自分で研究対象を見つけるように指示したところ、
それができた医師は半数にも満たなかった。
その原因は、これまでは、自分が研究対象を決めて
若手医師たちに与えてきたために、
彼らを『受身』にさせてしまっていたこと。
原因が自分にあるのだからそれを何とか変えたいと思ったが、
どうしたらよいか分からなかった。
そこに今回のコーチングという人材開発の手法にめぐり合って、
これだ!と思った。
若手医師たちにコーチングを実行してみると、
研究のアイデアや、業務改善の提案が驚くほどたくさん出てくる。
今まで自分がいかに押さえつけ、
話を聞こうとしていなかったかということにあらためて気がついた」
「コーチングの取り組みによって、
部下のビジョンを聞くことができるようになった。
部下の医師とのコーチングの中で、
『神経内視鏡センターをつくり、
そこに若いドクターが全国から集まってくる』
というビジョンの発案があり、
それが来年度実現することになった。
コーチング的なアプローチをしていなかったら、
部下からアイデアそのものが出てこなかったと思う」
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過去に弊社が関わらせて頂いた
一般企業と医療系におけるコーチング導入の効果を
導入前後で計測すると、一般企業の伸び率を100とした場合、
医療系は110という上昇率を示します。
一般企業に比べて、医療系の事後の数値が大きく上昇するのです。
トレーニングの事後上昇率からみると、
医療系へのコーチングの導入効果は一般企業よりも高く、
組織が目に見える形で大きく変化する可能性を秘めているのです。
現代の医療においては、チーム医療、医療安全、離職、患者満足度など、
病院内のコミュニケーションが大きなテーマとなっています。
つまり、職員満足度は「組織の生産性」に直結する、
そのすべてを支えるもの、と言っても過言ではありません。
病院へのコーチングの導入は、
医療の質そのものの向上を十分に期待させるものだ
ということができるでしょう。
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