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意志力を磨く問いかけ

意志力を磨く問いかけ | Hello, Coaching!
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仲間の存在が、勝利をあきらめない「意志の力」を引き出す

サッカー日本代表が、ワールドカップブラジル大会への切符を手にしました。

日本代表のキャプテン長谷部選手は、その著書で前回のアジアカップを振り返り、「心が折れそうになったこともあったが、まわりのチームメイトを見てたら、試合をひっくり返せるんじゃないかと思った」と語っています。

仲間の存在が、勝利をあきらめない「意志の力」を引き出したのだと思います。

ビジネスリーダーもグローバルな戦いの中で、心が折れそうになる時があるかもしれません。

リーダーとして勝利を導くために意志力を磨くには、どうしたらいいのでしょうか。また、部下の意志力を磨くためには、何ができるのでしょうか。

自己コントロール力に関する研究

ニューヨーク大学の心理学者、K.Fujitaらによる自己コントロール力に関する研究があります。

その研究では、無作為に選んだ学生を2グループに分け、一方には「なぜ、体の健康を維持するのか?」と「why」を問い続け、もう一方には「どうやって健康を維持するか?」と「how」を問い続けました。その後、すぐに手に入る報酬と、時間はかかるが大きな報酬のどちらかを選択させます。すると、「why」を問い続けられたグループの方が、短期的な報酬を我慢して、将来得られる大きな報酬を選択する人が多いことが判明しました。 また、ハンドグリップをより長く握り、肉体的な我慢にどれだけ耐えうるかを調べるリサーチでも、「why」の問いかけをされた方が、長く握っていられるという結果がでました。

つまり、「why」を問い続けられたグループの方が、「how」を問われ続けたグループよりも、何かを我慢したり、実行するための「自己コントロール力が向上した」というのです。なぜ、こうした結果が起こったのでしょうか。

この研究では、「why」を繰り返し問われ、それに回答し続けると、回答者の思考が徐々に長期的、かつ事柄の本質を考える「高い思考レベル」に引き上げられ、その「高い思考レベル」である状態が「自己コントロール力を向上させる」と説いています。

たしかに、「why」という問いかけには、不思議な力があります。たとえば、「なぜ、あなたはこの仕事を選んでいるのか?」と問われたとします。最初は、「お金が必要だから」といった答えからスタートする人もいますが さらに「why」を問われ続けると、「本来自分は何を求めてきたのか?」「自分が本当に実現したいと思っていることは何か?」 など、自分の内側と対面し、最終的には、「この仕事をすることで、自分の可能性を広げたい」など、仕事をしている理由や目的、意味も包含した答えになっていく場合があることを、これまでコーチとして多数経験しています。

人は、理由を求め、目的を求め、時に意味を求める動物です。ですから、「why」を問われ続けることで自分の内側と対面し、自分が求める理由、目的、意味をそこに顕現できたとしたら、その問いは、「自分が行っていること」に強い動機を与え続けることは間違いないことのように思えます。

「なぜ」を問うことで、単調な実験への意欲やゴールへの意志力が引き出される

私がかつてコーチングした、ある研究所の所長は、結果が出るまでに何ヶ月も要するような実験に、朝から晩まで取り組む若手所員と定期的に面談をしていました。

彼は、面談では、「いかにしてゴールを達成するか?」「実験方法はこのままでいいのか?」 も大切な問いではあるけど、「how」の問いかけだけだと、目の前の事に意識がとらわれ、相手の思考が閉じられていくように感じる場合があると言っていました。 そこで、意識的に「なぜ、私たちはゴールを達成することが大事なのか?」とか「なぜ、違う方法でしないのだろうか?」と、「なぜ」を問うそうです。

「なぜ」を問うことで、単調な実験への意欲やゴールへの意志力があらためて引き出されることがあるといいます。

弊社のリーダーシップ・アセスメントでも「部下に気づかせたり、自発的に考えさせたりする質問をしている」上司ほど、部下は「毎日前向きに仕事に取り組んでいる」「自分から積極的に目標をたてて行動を起こしている」 など、その背景に意志力を感じさせるような項目が高い傾向にありました。

ちなみに、先の長谷部選手は、「なぜ、サッカーを生業にしているか?」の問いには「みんなと日本のサッカーを強くしたいから」「人が喜んでいる顔をみたいから」そして、その「笑顔の記憶が仕事に対するモチベーションを高めてくれる」と語っています。リーダーは、メンバーの意志力を磨くために、時に、意識して「why」の問いかけをすることも一つの方法かもしれません。

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【参考資料】
K.Fujita,Y.Trope,N.Liberman,and M.Levin-Sagi,
"Construal Levels and Self-Control" Journal of Personality and Social Psychology 90(2006) :351-67

『心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣』 (幻冬舎)
長谷部誠著

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