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行動を起こす
2013年06月26日
人は、どのように行動を起こすのでしょう?
次から次に行動できることもあれば、やろうと思いながら、なかなか第一歩が踏み出せないこともあります。
部下に行動させることは上司として大事な仕事です。
6月5日に行った読者アンケートは、「あなたが行動を起こすときは、どんなときか」について多い順に3つ選んで頂き、570人もの方がご回答くださいました。
1番目に選ばれた項目は、以下の結果になりました。
1位 自分で「やりたい」と思ったとき (182人、31.9%)
2位 必要性が高いと思えたとき (132人、23.2%)
3位 重要度が高いと思えたとき (100人、17.5%)
4位 上司から指示されたとき (54人、 9.5%)
5位 周囲から期待されたとき (38人、 6.7%)
6位 自分で「出来る」と思えたとき (32人、 5.6%)
7位 上司から期待されたとき (27人、 4.7%)
8位 その他 (5人、0.9%)
この結果からは、人が行動を起こすときは、自分自身が「やりたい」「必要だ」と思ったときの割合が高く、上司からの「指示」「期待」では行動は起きにくい、ということが言えそうです。
行動を起こすかどうかは、私たちが日常的に直面しているジレンマと捉えることができます。
行動を起こすには、それなりのリスクが伴うからです。
周りの人との交渉事は面倒だし、責任も生じる。それが新しいことであればなおさらで、失敗する可能性もあれば、自分の能力のなさを露呈してしまうかもしれません。
特に新たな行動など起こさずとも、明日もなんとかなるだろう、と無意識にも考えるのは、ヒトがリスクを避けて生存確率を高めるために身に付けてきた行動なのかもしれません。
では、日々、こうしたジレンマの中で行動を選択しているであろう部下が「やりたい」「必要だ」と思う関わりとはどんなものなのでしょう?
上司がどのような関わりをしたら、部下は自ら行動を起こすようになるのでしょうか?
イヌイットの人たちには、「頑張れ」という言葉が禁句だという話を聞いたことがあります。
「頑張れ」と言われると、人は力み、筋肉が収縮することがあるそうです。極寒の地では、特に避けたいことなのでしょうか。
そんな彼らは、クレバスを飛び越える時にお互いに冗談を言い合うそうです。
二人、あるいは数人で冗談を言い合い、リズムやテンポを作りながら、互いにリラックスさせ、危険を乗り越えていく。
この話には、危険やリスクを越えて行動するためのヒントがあるように思います。
「期待」や「指示」では(主体的な)行動が起きにくいというのは、「頑張れ」と言われて、力んで筋肉が収縮してしまうのと似ていないでしょうか?
コーチング研究所(CRI)の調査では、「部下が主体的な状態になる」ことと関係があると思われる上司の行動として、次の3点があることが分かっています。
「組織のビジョンを魅力的に語る」
「日常でもビジョンの話を持ち出している」
「従来のやり方にこだわらず、新しいやり方をとりいれている」
私のクライアントAさんは、ビジョンを語る達人です。部下の方々も主体性が高いように見えます。
Aさんがしているのは、会社のビジョンを伝えるだけでなく、それについてどう思うのかを聞くこと、さらに、部下自身はどんなことをしたいのか、個人のビジョンを聞くことでした。
部下も最初はなかなか話さないそうですが、時間をかけて、会社のことだけでなく、個人的なことも話題にするうちに、徐々に会社のビジョンやその背景を理解していくそうです。
「人はそれぞれ違う価値観を持っており、基本的には、会社のビジョンは理解していない」
という前提で始めないとうまくいかない、とAさんは言います。
Aさんのやっていることは、「対話」です。
平田オリザさんは、その著書『わかりあえないことから』の中で、「対話」には、冗長性が必要だと言っています。「対話」は、異なる価値観をすり合わせていく行為なので、当たり障りのないことを沢山話す必要もあるし、腹の探り合いも起こる、と。
Aさんは、時間をかけて
「僕はこう思うけど、君はどう思う?」
「こういう考え方はないかな?」
「君はどんなことに興味があるの?」
など、一見効率が悪いと思われることも話しながら、ビジョンや何のために何をするのかを共有し、ビジョンを実現するための「やりたい」という気持ちを起こさせているように見えます。
我々は、とかく、部下に「期待」を寄せることや、気合を入れるといったことが、行動力につながると考えがちです。
しかし、我々が、本当に「やりたい」と思って主体的に行動するのは、一見無駄が多いように思える冗長な対話を通してビジョンを共有し、行動を起こすためにリラックスした空気を作る方が、近道なのかもしれません。
イヌイットも、その場に直接関係ないような冗談を言い合いながら、お互いをリラックスさせるだけでなく、「生き延びよう」というビジョンを確認し合っているのかもしれません。
あなたの組織では、「対話」はどの程度行われていますか。
【参考資料】
『わかりあえないことから──コミュニケーション能力とは何か』(講談社現代新書)平田オリザ著
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