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Everyone needs a coach.
コピーしました コピーに失敗しました"Everyone needs a coach."(誰にでもコーチは必要です)
ビル・ゲイツ氏は、今年、TEDカンファレンスでの講演を、この言葉でスタートしました。(*1,2)
ワクワクしながら録画を見続けると、「より良い仕事をするためのフィードバックをほとんど全く得ていない人たちがいます。とても大事な職業なのに...」と続いていきます。
こちらは、職業柄、間違いなく彼が、「それは企業のエグゼグティブです!」と言うのかと期待していると、
"I'm talking about teachers."(それは、教師です)
と。
同氏によると、ほんの最近まで98%にのぼるアメリカの教師が得た唯一のフィードバックは、「satisfactory(十分)」。
これでどうやって教師は成長できるのか、というわけです。
彼は、メリンダ夫人と教育向上を目的とした財団を作り、アメリカの教育システムを変えることに取り組んでいます。
「教育の質の向上には、どうしても教師に対する効果的なフィードバックが必要だ」
講演からは、そんなパッションが伝わってきました。
もちろん、フィードバックが必要なのはアメリカの教師だけではありません。日本の教師も同じように必要なのかもしれませんし、そして、やはり企業のエグゼグティブも。
ひとたび権威を持つと、フィードバックに触れる機会が減ってしまうのは、どの世界でも同じようです。
たしかに、周りの人たちに自由にフィードバックさせると、自分の権威が脅かされる可能性がありますから、どうしてもフィードバックに対する防衛が働きます。
フィードバックに耳を貸さずとも、うまくいくのであればそれでもいいのですが、やはりリスクは大きくなります。
フィードバックを受けないでいるのは、「ソナーシステムを持たない潜水艦」
しかし、フィードバックを受けないでいるのは、「ソナーシステムを持たない潜水艦」のようなものでとても危ない。
潜水艦は、時に水深1000メートル近い真っ暗な深海を航行します。当然、周りを視認できませんから、音波を出し、その跳ね返りを利用して自分の位置を確認します。もしソナーシステムがなければ、あちらこちらにぶつかるでしょうし、目標地点にいち早く近づくこともできない。
教師やエグゼグティブも潜水艦と同じように、自分の言葉や行動に対して、周りに「どうだ?」と尋ね(=音波を出し)、フィードバックを得ながら(=音波の跳ね返りを確認し)、そのままその行動を続けるのか、あるいは変えるのか(=真っすぐに進むか、方向を変えるか)を判断できるといいのですが、これがなかなか難しい。
なぜなら、フィードバックを受けると、自分が過去に築き、保ってきた権威が一気に崩れるかもしれないから(本当はそんなことはないのですが...)。
エグゼグティブ・コーチングに興味がありながら、最後の一歩を踏み切れない企業の経営者の本音は、要するに、「周りからいろいろ言われたくない」というところにあるようです。
人に言われるのは、痛い。心が痛む。それは味わいたくない、と。
でも、どこかではそれが必要だということもわかっていますから、興味は持つ。でも、やはり痛いものには触れたくない。その狭間で、悶々とするエグゼクティブの方が、意外と多くいらっしゃいます。
では、どうすればフィードバックを受けることができるようになるでしょうか?
私自身の話ですが、昨年1年間、71歳のアメリカ人のコーチをつけていました。
ニューヨーク在住の彼は、2ヶ月に1度、私をコーチするために弊社にやってきます。
3日間オフィスに滞在し、その間、20人近くの弊社の社員である私の部下たちにとことんインタビューし、ひたすら、私へのフィードバックを集めます。
Suzukiは、リーダーとしてどうか?
Suzukiには、マネジメント能力はあるのか?
Suzukiの社長としてのプレゼンスについてどう思うか?
フィードバックの大切さは重々わかっているつもりでも、やはり20人分のフィードバックには質量感があります。
最初のうちは、「できれば聞きたくない、耳を閉ざしたい」という気持ちとひたすら葛藤しました。コーチのくせにそう思っている自分に愕然としながら。
2時間ぐらいかけて部下たちからのフィードバック内容を全部聞くと、とんでもなくエネルギーを消耗します。
最初は、「もう二度と、フィードバックは聞きたくない」と思ったものです。
そして、律儀にまた20人にインタビューして、ああだこうだと伝えてくるわけです。
ところが、これを3回も繰り返していると、明らかに自分に変化が起きるのがわかりました。だんだん、フィードバックを冷静に聞けるようになってくるのです。
「フィードバックは、周りの人からの"贈り物"」
良いことも悪いことも、自分の「社長」という役割に対して投げかけられた、社員それぞれの捉え方であって、何も鈴木という「わたし自身」を否定しているわけではない。「社長」という役割をうまくやれているかについての情報を送ってくれているのだ、と。
そんなことは、もちろん、コーチとして常々クライアントのエグゼクティブたちに言ってきましたし、わかっているつもりなのに。
私のコーチはハンフリー・ボガードのような声で言いました。
「フィードバックは、周りの人からの"贈り物"です。今のあなたの役割をさらに洗練させるために社員が送ってくれる"贈り物"です」
この時の経験から、フィードバックは、シャワーのように浴びることが重要なのだとつくづく思いました。そのためには、2ヶ月に一度コーチがやってくるような、「フィードバックを受けざるを得ない構造」を作る。コーチを雇うでもよし、部下と面談のスケジュールを定期的につくり毎回フィードバックをしてくれるようお願いしておくもよし。
自分の気持ちを奮い立たせなくても、向こうからフィードバックがやってくるような仕組みを作ってしまう。
そして、とにかくそれを受け慣れる。
フィードバックを普通に受けられるようになるのは、実はとてもすごいことです。
成長が促進されるということももちろんありますが、何よりも、人から何か言われることがあまり怖くなくなります。
人から何か言われることが怖くなくなるというのは、毎日が楽しくなるというのとほとんどイコールであるようにも思います。誰かに何か言われることに怯えていては、楽しさは毎日の中から減っていきますから。
改めて、ゲイツ氏が言うようにEveryone needs a coach (and feedback.)だと、つくづく思います。
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【参考資料】
*1 TEDは、"ideas worth spreading(広める価値のあるアイデア)"をスローガンに、様々な分野の人を集め世界的講演会を主催しているグループ。TEDが主催する講演会の名称をTED Conference(テド・カンファレンス)という。
*2 Bill Gates: Teachers need real feedback
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