Coach's VIEW

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コーチングは、対面が効果的なのか?

我々は、コーチング研究所を中心に、
コーチングがより効果的に機能する条件を調査し続けています。

例えば、クライアントがコーチングを初めて受ける場合、
「安心感」という点で対面でのコーチングを望む方が多いのではないかと
推測しますが、実際には、対面で行う場合と電話で実施する場合では、
どちらの方が効果が高いのか。

そうしたことを調査しながら、
よりコーチングの機能を高めることを追及しています。

今回は、この「対面」と「電話」によるコーチングの
違いについて考察してみたいと思います。

コーチング研究所の調査では、
「対面」と「電話」でのコーチングでは、
コーチとクライアントの間に、それぞれ「異なる種類の関係性」が
生じることがわかってきています。(※1)

別の調査でも、対面でコーチされた場合と、電話でコーチされた場合、
前者のクライアントは「コーチングの成功はコーチのお陰」と感じる人が多いのに比べ、
後者は「自信の向上・自己効力感・自律性を実感する」など、
クライアント自身にフォーカスする傾向が高いことが指摘されています。(※2)

確かに、対面コーチングを実施した後のアンケートには、
「コーチの人柄が...」、「コーチの豊富な経験が...」といった
コーチ側の影響力に作用されたことを指摘する記述が
多い印象があります。

コーチング研究所の調査は、このコーチとクライアントの間に
生まれる「異なる種類の関係性」に着目し、
コーチが対面と電話、両方の方法を用いた場合、
それぞれが相手にどのような影響をもたらすのかを調べたものです。

調査では、以下のような違いが出ることが分かりました。(※1)

 1.電話でのコーチングでは、対面時よりもコーチが指示やアドバイスをしない
 2.電話でのコーチングでは、対面時よりもコーチが気づいたことをフィードバックしている

つまり、対面の場合、コーチはやや「介入的」になり、
電話の場合、コーチはより「客観的な立場に立つ」
ということが言えるようです。

この違いは、クライアントに
何をもたらすと考えられるでしょうか?

私は、対面では、無意識のうちに、コーチの側が高い立場に立つこと、
その結果、クライアント側がコーチに「依存」するのではないかと
ということを危惧します。

人間関係と脳の機能に関する研究では、
目の前に現れた人物に好意を抱いた場合、
感情を高揚させる興奮物質、ドーパミンが
全身に放出されることは、既によく知られています。

また、ドーパミンの放出は、興奮物質の放出に止まらず、
「愛情ホルモン」という「オキシトシン」の分泌を促し、
人と人とを結び付け、互いの間に愛情を形成するとも言われています。

もちろん、コーチングでの対面と電話の効用の違いと
脳の機能の相互関係に言及するには、より厳密な研究が必要だと思います。

しかし、対面のコーチングが、クライアントに
「コーチへの依存度」を高めること、
そしてそれが続いたり、過度になることによるコーチング上の「リスク」を
考慮する必要がありそうです。

即ち、私達コーチは「深い結びつき」が、
コーチとクライアントという関係の中で
お互いの快感になり過ぎないよう、
自制していくことが必要ではないかというのが私の仮説です。

私の米国駐在のA氏とのコーチングは、
電話とスカイプ中心に行っています。

却ってこれがクライアントにコーチングのメリットを
もたらしていると実感しています。

A氏は、セッションの中で私が投げかける質問に、
長い時には20秒ほどの沈黙と思考に没入することを、
毎回のように繰り返しています。

返事の内容は、
「考えてみました。しかし、まだ分かりません」
ということもあります。

一方、
「ああ...、全く自分でも忘れていましたが...」という言葉と共に、
深い洞察を得て「戻ってくる」ケースも多々あります。

勿論、対面のセッションでもこうした現象は多く体験しますが、
大事なのは、電話の方が、クライアントが
「コーチの存在を気にしていない」ことです。

私には、電話での方が
「クライアントが一人旅をする自由」を
得ているように感じています。

「今、そもそも自分がなぜこの仕事に就いたのか、
 30年ぶりに動機を振り返っていました...」

「30代前半の時に出会った人に強烈に叱られたんですよね...
 今、こうして思い出したら、愛情と恐怖を感じましたよ。
 思い出しながら、汗が出てきました...」

こうしてA氏は、自分で自分の時間と空間を
占有するのです。

コーチは、その時間や空間の入り口までは付き合いますが、
その後は、A氏は一人で旅をする必要があるのだと思います。

そして旅から帰還したA氏が、
自らに対する新しい認識と、新しい行動のアイディアを持ち帰る、
そこにコーチは同伴せず、視界に入る必要はない。
そう考えます。

コーチとの親密感が強くなりすぎると、
目の前の私の存在に意識が向かい、
場合によっては私を気遣い、私を喜ばせることを考えてしまう、
そうした「コーチへの依存的な気持ち」が生まれることは、
コーチングの目的ではないと思います。

さて、改めて、対面と電話では、
どちらがコーチングの効果が高いのか?

最終的な結論は、今後の調査や
研究の結果を待つ必要があるかもしれません。

ただ、コーチが、何を目指し、どのような基軸で
クライアントと関係を構築するのか、そこが焦点と考えます。

私は、クライアントが「1人で、自分について洞察を得る旅」
を体験してもらうこと、
そのために必要な関係を築くこと、
そこにポイントがあると考えています。

因みに、私はこの基軸を元に、
下記のようにコーチングを実施しています。

・対面でのセッションは、コーチングの初期段階の
  関係構築に必要な場合に実施する
・関係構築が進んだ段階では、電話やメールでのセッションを増やす
・対面を継続する場合でも、データや情報を間においた対話を創り出す
・スカイプでは、互いの映像は使わない

皆様のコーチングの参考になれば幸いです。

【参考資料】
※1:コーチング研究所調査「電話と対面のコーチングは何が違う?」
   調査対象: 世界のコーチ 14ヶ国
   調査人数: 308名(対面 104名、電話 204名)
   実施年度: 2013年

※2:Kim Lamoureux,"Coaching as a Valuable Means of Developing Leaders
   -Driving Performance at Informatica-"
   BERSIN & ASSOCIATES,2007

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