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役割に徹する

役割に徹する | Hello, Coaching!
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タイには古くから日本企業が進出していますが、近年さらに進出する企業が増えています。

そこでの課題のひとつは、日本人とタイ人の文化、習慣の違いや、タイ人スタッフのマネジメント。具体的には、タイ人とのコミュニケーションをどう取るのか、そして、タイ人のモチベーションをどうしたら上げられるか。

現地のマネージャーからよく聞くのは、「タイ人のことがよくわからない。理解できない」という言葉です。

先日、弊社の若手スタッフが、バンコク周辺の工業団地に直接足を運び、約90社の日系企業で働く日本人マネージャーにインタビューを実施しました。

「あなたは、タイ人に何を求めていますか?」

この質問には、ほとんどのマネージャーがとうとうと答えます。

・もっと責任感を持って働いてほしい
・できないことはできないと言ってほしい
・時間を守ってほしい

などなど。

ところが、「タイ人の部下は、あなたに何を求めていますか?」この質問には多くのマネージャーが答えることができません。

数値にすると、

 分からない     55%
 給与/ポジション   20%
 意思決定/技術指導  20%
 その他        5%

55%が、「分からない」という衝撃的な結果です。

こちらの要求は伝えているが、相手のことはよく知らない。コミュニケーションが一方通行的になっているのです。

言語の違いという壁が影響していることはもちろんですが、おそらくこれは、タイに限ったことではなく、日本でも同様に、上司と部下という「関係」がそうさせていることは想像に難くありません。

あるマネージャーに「この結果を見てどのように思いますか?」と尋ねました。

「部下を前にすると、どうしても、見るに見かねてああしろ、こうしろと言ってしまう。頭では部下の話を聞いた方がいいことは分かっているが、どうすればいいのかわからない、というのが現実です」

私は、ニューヨーク在住のアメリカ人で、国際コーチング連盟(ICF)のマスターコーチのコーチングを受けています。彼のコーチングは驚くほどICFのコンピテンシーに忠実で、クライアントである私に徹底して話をさせようとします。これでもか、これでもかというくらいに、私に話をさせようと、質問を繰り出します。

この時間をどのように使いたいですか?
このコーチングの目的は何ですか?
コーチの私に期待することは何ですか?
それを明確にするために何ができますか?
そのプロジェクトを成功させるために、誰と話しますか?

などなど。

ある時のセッションの終了間際、私には既に十分、有意義なセッションだったので、今日はこれで終わり、と思ったときのこと。

彼は、「あと5分あるけど、この5分間で話したいことは何?」

私に話させようとする、その徹底ぶりは見事というしかありません。

これだけ「徹底」できるには、その背景としての大前提があります。

「私とコーチ」という関係の中では、コーチは質問し、クライアントである私が答える。この二人の役割がお互いに「明確に」同意されています。この大前提があってはじめて、コミュニケーションを「徹底」することが可能となるのです。

しかし、実際のマネジメントの現場では、上司が聞き役に徹することは至難の業といえるでしょう。

上司は、部下に対して、

指示する
自分の経験を伝える
教える
判断する
決定する
許可する...

などなど、多くの役割を持っているわけです。

さらに、「上司と部下」の関係の中では、部下に話すだけ話させて上司が聞くことだけで済ませるわけにはいかないことも多々あります。もし部下が間違った判断をしそうであれば、上司には即座にそれを否定、修正することも求められています。結果として、上司が、部下の話を「徹底して聞くこと」は、私たちが頭で考えている以上に難しいことなのです。

これをマネジメントで実現するには、「上司はコーチ」、「部下はクライアント(ステークホルダー)」という「役割に徹する」ことについて両者が同意する必要があります。

具体的には、コーチングの時間を決め、その時間内だけはこの役割に「徹する」。

たとえば、使える時間が30分の場合、前半の15分はコーチングをする。上司がコーチ、部下がクライアントという役割のもとに、上司は部下の話を聞くことに「徹する」。そして、後半の15分間は、その役割を離れて、コーチングで話された題材に関して二人で自由にディスカッションをする。

このように、前半は「役割に基づくコーチング」、後半は「前半で話された題材に基づくディスカッション」というように明確に役割と時間を区別するのです。

前半のコーチング部分では、上司は問いかけ、肯定的に聞くことを徹底します。部下に徹底的に話させるのです。その会話の中では、部下の実力や行動の背景を見出すこともできるでしょう。部下が何を考え、何を求め、何が課題なのか、聞くことに徹することで、初めてそれらを知ることができるのです。そこで話される部下の生身の情報は、上司には宝の山です。

後半のディスカッションは、前半で話されたことを題材に話します。そこでは、コーチとクライアントの役割を解放して、両者が自由に話します。部下にとっては、上司の意見を聞きたかったり、判断を仰ぎたかったりすることもあるかもしれません。

コーチングによって部下の目標や行動が明確になり、それが会社、あるいは上司の方向性と一致していれば理想的ですが、必ずしもいつもそうとは限りません。軌道修正が必要なこともあります。話の内容によっては、上司の経験を教えたり、アドバイスをした方がいいときも当然あるわけです。

役割を明確にし、時間を決めることで、部下に話させ、聞くことに徹することができる。「徹底的に聞く」ことが、部下を理解するための第一歩だと思うのです。

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