Coach's VIEW

Coach's VIEW は、最新のコーチング情報やリサーチ結果、海外文献の紹介を通じて、組織改革や人材開発、リーダー開発グローバルビジネスを加速させていくヒントを提供するコラムです。


"私"の目的

「ハーバード・ビジネス・レビューで、
企業におけるハイ・ポテンシャル社員の割合は、
その企業の全社員のトップ3~5%だといわれている」
というデータが紹介されていました。(※1)

中国の日系企業現地法人でも、また中国系企業でも、
次の世代を任せられるリーダー候補者の数不足は大きな経営課題です。

このデータに、体感をもって頷く経営者も少なくないでしょう。

しかし現実問題として、たった3~5%の社員に期待しているようでは、
企業の望ましい成長スピードには間に合いません。

次世代を任せられる人材をより早く、
より多く開発する為に、工夫できることはないものでしょうか。


近年、遺伝子学研究が進む中で、

いかなるスポーツにおいてもアスリートが出す結果は

彼らの遺伝子的優位性によるものではない、

という説が講じられています。

フロリダ州立大学の心理学教授であるAnders Ericssonの研究でも、
「熟達したパフォーマンスとは、『生まれつきの特性』 に
根付いているわけではなく、激しく、集中的な『訓練』により、
後天的に習得したスキル、知識、生理学上の適応力に根付いている」
とされています。(※2)

極端ですが、わかりやすくいうと、
「誰でも『集中的な訓練』を経ることでアスリートになれる」
ということになります。


リーダーも、一昔前までは「生まれもった才能」によるもの、

と思われる傾向もありました。

しかし今では、必要な能力を磨き経験を積むことで

誰しもリーダーになれる、と考えられています。

リーダーに関しては、遺伝子学ほどの根拠があるわけではありません。
しかし、多くの経験値から、現在その考えが取り入れられているわけです。

その前提に立つと、アスリートを開発する「集中的な訓練」の有用性は、
リーダー開発にも適応すると考えてもよさそうです。

更に、Ericsson氏の言葉によれば、「集中的な訓練」の構成要素は次の5つです。(※2)

1. 明確なゴールの設定
2. 「結果」と同時に、
3. 「技術」へのフォーカス、
4. 延々と果てしなく続く苦しい「繰り返し」に、
5. 継続的なフィードバック


これは、OJTと呼ばれる企業内で行われる

人材育成のサイクルにも類似しています。

思えば、OJTを徹底的に実践してきた日系企業では、
確かに優秀な人材が豊富に育っています。
力強い中間管理職層が組織を支えているのも事実です。

ただ、それでも、なぜか次の「リーダー」が不足しているのです。
一体何が足りないのでしょうか。


私は、ワシントンに住むアメリカ人コーチのコーチングを受けています。

最初に、私の上司からコーチへ「私に期待する成果」が伝えられ、

コーチを通して上司からの期待を聞く、というセットアップがありました。

中国で現地法人を立ち上げて3年、
まだまだ売上げ・利益共に大きな成長が求められています。
そのような環境にいる自分への期待は、業績以外にない。
そういう想定が、私にはありました。

しかし、上司から私への期待は
「エグゼクティブコーチとしての成長」でした。

その期待はとても新鮮で、私の新たな成長に向けた方向性が
提示されたように感じました。

おそらく、聞く機会がなければ知ることのなかった、
そのような期待を聞けただけでも、
コーチングの価値はあった、とさえ思いました。

その時、コーチが不意に聞きました。
「それで、あなたは何のためにそれに取り組むのですか?」

・・・何のために?

この質問で、私は、自分が反射的に、
敢えて強い言い方をすると、「何の主体性もなく」
上司の期待に応えようとしていたことに気がつきました。

その質問により、このコーチングは今までになく
多くの体験と成果を得る機会となりました。


何を得たいのか

それが得られたら自分はどうなるのか

それは組織の目標にどんな影響を与えるのか

自分にとって最終的にどのような価値があるのか


こうしたことを徹底的に考えるセッションは、

「私の目的」を明確にする機会となったからです。


管理職の役割は、会社の目標に対して、

組織のパフォーマンスを最大限に引き出し、達成することです。

ただし、常に立ち戻るべき目的・目標は
あくまで、会社から「与えられたもの」であることが一般的です。

そうすると、「外から与えられるものに対して成果を出す」というパターンが、
成功パターンとして染み付いてしまっても不思議はないでしょう。

一方、経営層や次世代を担うべきリーダーには、
組織の成長に向けた目標そのものを創りだし、
人を巻き込んで推進していく「主体性」が求められます。

次期リーダー候補者を早く育てたいのなら、
早い時期に、この二つの大きな違いを埋める必要があります。

目的・目標を「自分のもの」とし、
その実現にむけて成功する経験を積む。

こうした機会を組織内で創りだすことが、
次期リーダー候補者の数に反映されるのではないでしょうか。

その為にも、「1.明確なゴール設定」において、
「その人のゴール」とするための会話が必要です。

そして、その会話を仕掛けることこそ、
現場で業務を共にする上司の役割ではないでしょうか。

オリンピックに出場するアスリートも、
過酷な練習が続く日々を、他人に与えられた目標のみで
やり遂げているとは考えられません。

そこに自分の目的が重なりあっているからこそ、
「集中的な訓練」をやり通せるのではないでしょうか。

「1.明確なゴールの設定」の「明確な」は、
本人にとって、確かにそれが「"私"の目的」となること、
というニュアンスを含んでいるように思えます。



※1 "How to Keep High-Potential Employees" by Ladan Nikravan,


   MediaTec Publishing Limited


※2 "The Great Performance Debate

   ~Is it innate talent or hard work that makes athletes great?

   Or is it something else?", The Korn/Ferry Institute


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