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笑う会議
2013年10月02日
「これまでにない全く新しいアイデアで革新的な商品やサービスを生み出したい」
これは多くの経営者の願いです。
組織全体で新しいものをつくり出す能力、すなわちクリエイティビティ(創造性)を高めるには、一体どのような方法があるのでしょうか。
近年、このテーマは多くの場所で語られ、そして、関連する書籍も多く出版されています。しかし、「うちの組織はクリエイティビティが高まった」という話は、残念ながらあまり耳にしません。
最近、私が組織のクリエイティビティを高めるために見逃せないと感じているのは「会議」です。
これまでのエグゼクティブ・コーチングの経験では、クライアントの多くが、業務時間の半分以上を何らかの会議に費やしていました。このメールマガジンの読者の中にも、同じくらい、またはそれ以上に会議が多いという方が相当数いらっしゃるのではないでしょうか。これだけ多くの時間が会議に割かれているのなら、組織全体のクリエイティビティ向上に、会議が大きく影響していても不思議ではありません。
ある会社の役員Aさんは、「会議には笑いが必要だ」と部下に伝えています。Aさんは、これまで複数の新規事業を立ち上げ、数年間で合計数千億円のビジネスに育てた人です。
Aさんは次のように言います。
「新しいことに次々と挑戦しなくてはならない私達のような仕事では、会議はポジティブな雰囲気でなくてはなりません。会議によっては、ネガティブな感情や言動が効果的な場合ももちろんあります。しかし、よく聞いていると、そうではないような会議でも、言う必要のないネガィブな発言がかなりあるものです。ネガティブな発言を少しでも減らしてポジティブな発言を増やす努力をみんなですれば、会議の中でたくさんのアイデアが出ます。私達にとっては、これが事業を成功させる肝なのです。
"会議が終わる頃には全員が笑っている"
それが私が理想とする会議のイメージです」
興味深い研究があります。
ビジネス界の優れたマネジメントチームの特徴を研究してきたマーシャル・ロサダという人がいます。ある時、ロサダは「チームの業績と会議中の発言」の関係を調べました。業績に応じてチームを「上位」「中位」「下位」の3つに分け、それぞれのチームの会議を長期に渡り詳細に分析し続けたのです。その結果、ロサダは面白いことを発見しました。
業績が上位のチームは、会議におけるポジティブな言動とネガティブな言動の比率が「6:1」、中位のチームは「2:1」、下位のチームは、ネガティブな言動がポジティブな言動を上回っていました。
ロサダはさらに分析を進め、チームのパファーマンスが上がるか下がるかの境目となるティッピング・ポイント(閾値)を割り出しました。それは、「ポジティブな言動:ネガティブな言動」がちょうど「3:1」の時でした。
この結果から、ロサダは、チームのパフォーマンスは、「ポジティブな言動がネガティブな言動の3倍を超えたときに初めて向上する」という仮説を立てました。
やがて、様々な研究者によってこの仮説が正しいことが確認されていきました。
ノースカロライナ大学のバーバラ・フレドリクソン教授は、「ポジティブな言動が多い人もネガティブな言動が多い人も、遺伝的な要素は少なく、自らのトレーニングで変えることが出来る」と言います。そもそも感情はその状況をどう解釈するか、つまり状況の意味付けであり、自分自身が選択した結果です。すなわち、解釈を変えれば感情を変えることが出来る、と彼女は述べています。
先のAさんは、こんなことを教えてくれました。
「会議の中でポジティブな発言を無理に増やそうとしてもうまくいきません。実は、会議を成功させるには日常の関係性が大切なのです。普段からコミュニケーションをとって互いを良く知っていれば、会議の中で、不要なネガティブな発言は減ります。つまり、関係性が変われば会議も変わるのです」
インターネットで「会議 効率化」や「会議 生産性」を検索してみると、多くの情報が手に入ります。会議の生産性向上を専門としたコンサルタントや関連書籍も見付けることが出来ます。一方、「会議 創造性」や「会議 創造力」と検索しても、それほどの情報は得られません。
これは、私達が会議の「クリエイティビティ(創造性)」よりも、会議の「プロダクティビティ(生産性)」を優先している結果なのではないでしょうか。しかし、会議のクリエイティビティは、組織のクリエイティビティを向上させる「重要な入口」なのかもしれないのです。
【参考文献】
※『ポジティブな人だけがうまくいく3:1の法則』
バーバラ・フレドリクソン (著)、植木 理恵 (監修)、 高橋 由紀子 (翻訳)
日本実業出版社 (2010)
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