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『解釈』と上手につきあう

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「部下の動き方がどうにもスローで腹が立って仕方がない」という方がいました。よく聞く不満であり、よくあるシチュエーションです。

少ししつこく「何にそんなに腹が立つのですか?」と繰り返していると、最後に出てきたのは、

「過去の私にできていたことと今の彼らの差が大きいことです」
「つまり、どういうことですか?」
「私の期待値とのズレですね」

とのこと。

相手への期待と現実のズレこそが怒りや悩みの元であり、部下の行動そのものが原因なのではない、ということがわかりました。

私にも、こんなことがありました。リーダーシップが非常に強いと言われている社長の元で仕事をしていた時のことです。

私自身は会社のために良かれと思って様々な提言をするのですが、社長はまったく聞き入れません。

思わず、私は当時の自分のコーチに愚痴を言いました。「あの社長は人の話に聞く耳を持たない」と。

すると、コーチからは意外な問いが返ってきました。

「社長さんは、なぜあなたの意見を聞き入れないといけないのですか?」
「だって、このアイディアはグローバル展開する会社には絶対必要なんです。それなのに社長はちゃんと聞いて理解しようとすらしないのです」
「社長さんには、あなたはどう映っているのだと思いますか?」

何を聞かれているのかわからないまま15分ほど四苦八苦し、やっと言い換えることができたフレーズは、「この社員は、社長である私を理解させ、納得させるアイディアを持ってこない」というものでした。

言葉にしながら、私は非常にショックを受けていました。それまで、「上司たるもの、部下の話に耳を傾け、理解しようとするのは当然だろう」という、自分の「期待」の中で実際に起きていることを解釈していたからです。

冒頭のエピソードの方も、「部下は私の若い頃と同等に動けて当然だ」という「期待」から怒りが発生していたのでした。さらにたちの悪いことに、私もその方も、「相手のためだ」という使命感に基づいて自分の「正しさ」を微塵も疑っていませんでした。

ニーチェの言葉に、「事実など存在しない、存在するのは解釈のみである」というのがあります。

絶対的な「事実がある」という前提にたつと、つい、どちらが正しいとか、どちらが間違い、ということを論争しがちですが、所詮は、どのような「解釈」をするか次第である、ということを説いたものです。

常に落ち着いている人、思慮深いと言われる人達は、この「解釈」と上手に付き合っているように見えます。いつもではないかもしれませんが、「存在するのは解釈のみ」というスタンスに立ち戻ることができるのでしょう。相手の立場(視点)に立って自分の感情を「再解釈」したり、「自分も正しいが、相手の言っていることも正しい」と解釈の許容範囲を「拡げ」たり、期待値を相手に明確に伝えた上で互いの解釈の「ズレ」について建設的に「対話」したりしているようです。

職場で、あるいは家庭でどうにも満たされない思いや怒りの気持ちや不安が増えてきたら、一度その相手に対して持っている自分なりの「解釈」を見直してニュートラルな気持ちで、その人との関係性を考えてみるのはどうでしょうか。

ちなみに、これは相手に対するものだけではありません。

スポーツにおけるメンタルコントロールの領域では、「自分はもっとできるのに」「こんなはずじゃなかった」といった自分への期待と現実のギャップから勝手にアガってしまったり、プレーとプレーの間にあせりが増幅し、パフォーマンスの低下につながったりすることが指摘されています。

物事の考え方、捉え方、解釈がいかに人の行動に影響するかは対象が相手、自分を問わない、ということが言えそうです。

自分の中の「解釈」と、どのようにつきあっていますか?

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