Coach's VIEW

Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。


『余白』の時間を作る

『余白』の時間を作る | Hello, Coaching!
メールで送る リンクをコピー
コピーしました コピーに失敗しました

『ヒトデはクモよりなぜ強い』(※1)によれば、1,500万の民を擁するアステカ帝国を滅ぼし、南米の大半を征服したスペインのコルテスが、北上するも破ることができなかったのが、アパッチ族です。

アパッチ族は、絶対的なトップが全体をリードする中央集権的組織ではなく、各所でたくさんのリーダーが小集団を引っ張る、分散型主体的組織でした。

どちらの組織が良いかは、その組織を取りまく環境によりますから、形態に優劣がつけられる話ではありません。ただ、一般的には、「リーダーは少数」「有能なリーダーはそう多く輩出されるわけではない」「真のリーダーはそれほどいない」という「イメージ」が主流であるように思います。

『海賊と呼ばれた男』がベストセラーとなり、スティーブ・ジョブズのカリスマ性が今なお賛美され、物事を前に強く進める政治家が登場すればメディアが喧伝する。私たちの中には、どこか、「偉大なリーダー」を待望する心境があるように思います。もちろん、それ自体は否定されるべきものではないですし、組織には常にトップがいますから、トップのリーダーとしての能力が高いにこしたことはありません。

しかし、ますます組織がグローバル化、広域化し、各所でそれぞれ複雑な状況に対応する必要がある中では、「少数のリーダー」ではもはや対応しきれないのも現実です。

「リーダーは少数」というパラダイムそのものをシフトさせ、物理的な「リーダーの数を増やす」ことが組織には求められているように思います。99点の少数のリーダーよりも、80点のリーダーを数多く作る。組織の目標に、ビジョンに、自ら主体的に取り組み、「ブレーク」を起こすことのできるたくさんのリーダーを。

では、どうすればそうしたリーダーを多く作ることができるでしょうか。

現在、ある大企業の社長のエグゼクティブ・コーチングをしています。この企業は、非常に短い期間で、年商1000億から2兆円に飛躍した会社です。会社に一歩足を踏み入れるだけで、社員のモチベーションは高く、皆意気揚々と働いていることがわかります。

ところが、社長は言います。

「昔のようにブレークスルーが起きない」と。

会社はとてもうまくいっている。一人ひとりはとてもよく働き、まじめで、会社に対するロイヤリティーも高い。しかし、ブレークスルーが起きない。

話していく中で、その原因は、「"きちんと"マネジメントがされているから」ではないか、という話になりました。

1000億から2000億、3000億と大きくなるうちは、業績を上げるために社員は必死で、そのためのアイディアを次々に生み出してきた。ある意味混沌としていて、きちんとしたマネジメントなどなかった。ところが、会社が成長し、大きくなると、間接部門が整備され、ルールが作られ、「抜け漏れのない会社」になる。マネジメントが精緻に機能しはじめ、会社の方向性にかなった「正しい動き」をする人が増える。そして、いつしか「まとまった」集団になっていった。主体的にあれをやろう、これをやろうと、とんでもないアイディアを出し、その実現に向けて奔走するリーダーが少なくなった。そんな認識が社長とのセッションの中で浮彫りになってきました。

ウォール・ストリート・ジャーナルの編集局次長を務め、3度ピュリツアー賞にも輝いたアラン・マーレイは、「マネジメントの終焉」という記事で、「正しいマネジメント」の弊害について述べています。

簡単に論をまとめると、「正しくマネジメントをし過ぎると、企業はブレークスルーの力を落とすことになる」と。(※2)

しかし、もちろんマネジメントをしないけわけにはいきません。どうすればよいのでしょうか?

3Mやグーグルの話は有名ですが、創造的企業には、働く時間のあるパーセンテージを自由に使うことを社員に推奨しているところもあります。企業だけでなく、2007年に日本物理学会会長だった坂東昌子さんは、「若手の研究者は、新たな挑戦に向けて仕事の20%を自由に使うべきだ」と提言しています。

私事になりますが、高校時代、ラグビーの県大会で優勝しました。監督にラグビー経験がなかったこともあり、練習には常に、マネジメントされない「余白の時間」がありました。そこで、他のどの高校もやらないような、奇想天外なサインプレーを仲間と編み出し、それが、チームがブレークを起こし、優勝する一つの要因となりました。

ある目的のもとに、限られた時間を「余白」として設定すると、どうも、人はその目的に向けて広く深く考える傾向が強まるようです。

「余白」は、緩やかに「マネジメントの外」にあり、人の思考を刺激する。この余白の時間こそが、ひょっとするとアパッチのジェロニモが生まれる時間であり、ブレークを可能にするリーダーが生まれる時間なのかもしれません。

会社単位でなくても、部で、課で、そんな時間を意図的に作る。もちろん、自分でも作る。

あくまでも一つのアイディアですが。

リーダーを作るために、リーダーになるために。

この記事を周りの方へシェアしませんか?


【参考資料】

※1 オリ・ブラフマン/ロッド・A・ベックストローム (著)、糸井 恵 (翻訳)、『ヒトデはクモよりなぜ強い』、日経BP社、2007年

※2 Alan Murray, "End of Management", THE WALL STREET JOURNAL

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

コーチング・プログラム説明会 詳細・お申し込みはこちら
メールマガジン

関連記事