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コーチングの熟練者に学ぶ

コーチングの熟練者に学ぶ | Hello, Coaching!
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私は、社内でコーチのトレーニングを担当することがあります。そこで気づくのは、コーチの初心者とベテランコーチの間には、コーチングのアプローチに特徴的な違いがあることです。

この違いは、クライアントが得る「気づき」の領域や深さに影響し、同じ時間でも、対話のもたらす効果に大きな差が生まれることが容易に想像できます。

今回は、初心者とベテランの違いを分析しながら、コーチとしてのスキルアップの視点、より効果的なコーチングのヒントを探っていきたいと思います。

■初心者とベテランの「質問」の違い

社内でのコーチトレーニングの中で、初心者とベテランの双方に、 「グローバルにビジネス展開する上で必要な自分のリーダーシップについて棚卸ししたい」という私自身のテーマについて、全員に同一の条件でコーチをしてもらいました。

以下は、初心者とベテランのコーチによる質問をそれぞれにまとめたものです。さて、双方の質問やアプローチから、どのような違いを見出すことができるでしょうか? また、どちらが初心者で、どちらがベテランの事例でしょうか?

<グループA>

  • グローバルビジネスのビジョンは何ですか? いつまでに何を達成したいのですか?
  • 目標に対する現状はどのようなものですか? 何が起こっていますか?
  • 現状の問題点は何ですか?
  • その問題点は、なぜ起こるのですか?
  • どのようにしたら解決できると思いますか?

<グループB>

  • どうしてその話を話題にしようと思ったのですか?
  • 今、これを扱うことは、どんな価値があると考えたのですか?
  • なぜ、「マネジメント」という言葉ではなく、「リーダーシップ」という言葉を使ったのですか?
  • あなたは、自分のリーダーシップをどのように表現できますか?
  • あなたは、この役割を、キャリアの中でどう位置づけようとしているのですか?

双方に違いがあることはお分かりかと思いますが、何が違うのでしょうか? また、皆さんは、コーチをする際、どちらのグループの質問を用いる傾向があるでしょうか? そうした質問を用いる動機は何でしょうか?

■初心者とベテランの「焦点」の違い

ご想像の通り、グループAは初心者、グループBはベテランの「質問とアプローチ」です。

ポイントとしては、初心者は、「状況を解明する」質問を多用する傾向があります。また、アプローチも「課題解決」を進める方向に真っ直ぐ展開する特徴があり、場合によっては、最終的に課題の解決策をコメントして完了することも発生します。

また、初心者の質問はどれも「日常的」で、「答えやすい」ものですが、私の実感では、普段と同じ脳を使いながら、「容易に」答えられてしまう印象でした。

一方、ベテランは、直面している状況や課題を話題にすることはあっても、そこに終始することはありません。むしろ、状況に対する「捉え方」や、その前提となる「考え方」の探求へと深く進んでいきます。更に、直面している目の前のチャレンジと長期的なキャリアの関係にまで話は広がりました。

ベテランの質問は、「非日常的」であり、「意外」なものが多く、反射的には答えづらいものでした。時に、自分が無意識に前提や限界としていることに直面しながら、自分を丸ごと振り返る対話へと深化していきました。

初心者のコーチングの焦点は、「状況や課題の解決」に向けられているのに対し、ベテランのコーチングの焦点は、その人の「スタンス」や「能力の開発」に向けられている、というのが、特徴的な違いであると言えそうです。

そして、興味深いのは、コーチングのプロジェクトを導入されている我々のクライアントへの調査結果も、「目前の状況の解決」よりも、より広い視点での「能力開発」がなされた点にコーチングの成果を実感する傾向があることを示していることです。

■クライアントは、「コーチングの効果」を何と捉えているのか?

我々のリサーチ機関、コーチング研究所がコーチングを受けたクライアントに行った調査では、クライアント自身が「コーチングの効果として感じた」とするポイントの高い項目と低い項目は以下の結果になっています。(※「コーチングの満足度」に関する項目は除外)

<コーチングの効果 ポイントの低い項目>

  • 問題になりそうなことを先に見つけ、未然に対処できるようになった
  • 苦手な人に対しても、自分から関わりを持てるようになった
  • 価値観や意見の違う人とでも信頼関係が築けるようになった
  • 状況の変化や新しい出来事に、より早く対応できるようになった
  • どんな状況においても、自分が出来る最善の行動を考え、実行できるようになった

<コーチングの効果 ポイントの高い項目>

  • 自分の方向性やビジョンがより明確になった
  • 他人からのフィードバックを事実として受け取れるようになった
  • 今までとは違うやり方を選択できるようになった
  • コーチングを受けていないときよりも、目標をより早く達成できた
  • 組織の目標と私個人の目標の繋がりが明確になった

コーチングを受けたクライアントは、「目前の状況に対する解決」よりも、より広い視野で自分の仕事を再解釈できるようになったこと、あるいは、思考や行動の柔軟性を手に入れたことを「コーチングの効果」として強調しているように読み取れます。

この調査結果は、直接的には初心者とベテランの違いを表現しているわけではありませんが、ベテランコーチが「狙っている」ことと、クライアントが「価値を感じる」ことが、近いものであることを説明しているように思います。

■熟練者の意図と戦略

初心者は、コーチングの軸足を「目前の課題解決」に置くことで、意図せず「一過性」「揮発性」の高い効果をクライアントにもたらしてしまうリスクがあります。一方、ベテランは、そのリスクを熟知しており、コーチングがクライアントに「もたらし得る効果を最大化」しようと努めています。

即ち、より根源的で持続性のある変化を、クライアントが自ら起こし続けるための「成長エンジン」を開発することに主眼を置き、そのことを意図しながら戦略的にコーチングを展開し、質問を選択しているのです。

先に紹介した質問群も、より短い時間で、永続性のある、レバレッジの利いた成果をもたらすために熟慮された知恵の片鱗なのかもしれません。

皆様が熟練したコーチを目指す上で、熟練したベテラン達のノウハウが参考になれば幸いです。

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【参考文献】

※「コーチングの効果を最大化するコーチの行動・構造とは何か?
(コーチング研究所調査結果、2013年)

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