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到来する新たな『鏡』

2014年02月12日

「ビッグデータ」という言葉をよく耳にするようになりました。
ビッグデータが利用される領域は、
気象予測やヒトゲノム、マーケティングなど様々ですが、
組織運営においても活用が進んでいます。
例えば、ヒューレッド・パッカードは、
全世界33万人以上の従業員一人ひとりについて、
離職する確率「フライトリスク」を算出しています。
フライトリスクは、過去2年分の昇給や
ジョブローテーションなどの実績と
離職した社員の情報から算出されるもので、
同社ではこれを活用し、3億ドルのコスト削減に成功しているそうです。(※1)
また、スマートフォン等のモバイル機器を用いて、
「人と人の関わり」を計測し可視化する、という取り組みも進んでいます。
MIT(マサチューセッツ工科大学)では、
人の動き、発話量、相手との距離等を測定するデバイスを開発し、
それらがチームの生産性や仕事の満足度にどう関係しているかを研究しています。
例えば、その測定結果から、互いの影響力に基づいた
「実質的な」組織図を描くことができるといいます。
研究結果によると、同じチームのメンバーは、
コミュニケーションパターンが似ているため識別可能であり、
チームリーダーのパターンが、チームのパターンを決める
ということも分かっているそうです。(※2)
こうした活動はまだ一部のものですが、
時代が進むにつれ、私たちの日常にも登場してくるでしょう。
例えば、気象予測は、今では当たり前のように利用されていますが、
3日後の予測については、過去5年間、95%の正確性を誇っているそうです。
しかし、100年前に6時間後の天気を予測する試みがなされた時は、
計算に6週間かかり、その予測もほとんど当たらなかったそうです。(※3)
変化のスピードが速まっていることを考えると、
自分のリーダーとしての影響力を数値でリアルタイムに確認できる、
といったことが可能になる日は、それほど遠くないのではないでしょうか。
ただ、自分に関する情報は、気象予測のようなケースとは違う点があります。
気象情報の場合、人が気温を測定し認識しても、
気温自体が変化することはありません。
台風の進路を予測できても、その進路を変更することは
今のところ、実現できていません。
一方、自分に関する情報は、ひとたび認識すると
自身へのフィードバックとなり、行動に変化をもたらします。
分かりやすい例としては、
鏡に映る自分を見て髪型をなおす、といった具合です。
リーダーシップ開発において、
自己認識を高めることは重要な要素です。
自分の影響力や考え方の傾向、
よく相談する相手、敬遠している人物、、、、など、
自分に関する特徴を様々な側面から認識し、
現実を見て対応していくことで、
より効果的なリーダーシップを発揮することができます。
コーチ・エィのコーチングでは、コーチとクライアントの間に
リーダーシップや組織の現状に関するリサーチ結果をおき、
それを使って対話を進めます。
リサーチ結果という情報に直面することで、
クライアントは、新たな視点をもって
物事を考える機会を得ることができます。
これからビッグデータの活用が進むにつれ、
新たな視点によるフィードバックを受け取る機会が増えるでしょう。
これまで見えなかった角度で映る自分を見ることになります。
これら新しいフィードバック手法の到来は、
より効果的なリーダーシップ開発を実現する
大きな可能性を提示してくれています。
【参考資料】
※1 『ヤバい予測学 ― 「何を買うか」から「いつ死ぬか」まで
あなたの行動はすべて読まれている』 (阪急コミュニケーションズ)
エリック・シーゲル (著) / 矢羽野薫 (翻訳)
※2 『正直シグナル ― 非言語コミュニケーションの科学』 (みすず書房)
アレックス(サンディ)・ペントランド (著) / 安西 祐一郎 (監修, 翻訳) / 柴田 裕之 (翻訳)
※3 『バースト! 人間行動を支配するパターン』 (NHK出版)
アルバート=ラズロ・バラバシ (著)/ 青木 薫, 塩原 通緒 (翻訳)
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