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企業の経営者は、何に最も多くの時間を割いているのでしょうか。

将来の方向性を描き、ビジョンや戦略を組織に浸透させ、株主やアナリストに会社の状況を説明し、新聞やテレビで重要な決定について語る・・・こういった姿は、経営者の仕事の一部に過ぎません。経営者が最も多くの時間を割いているのは「社内の会議」です。

実際、私がエグゼクティブ・コーチングで出会う経営者の多くは、社内の会議に最も多くの時間を割き、情報収集や情報伝達、意思決定を行っています。

「経営者は会議に多くの時間を割いている」

こんな研究があります。経営学者のヘンリー・ミンツバーグはCEOの仕事を実際に観察し、論文にまとめました。その結果分かったことの1つが、「経営者は会議に多くの時間を割いている」ということでした。(※1)

この論文、実は1970年代に発表されたものです。それから40年以上が経ち、インターネットや電子メールのような技術が発達した現代でも、経営者が多くの時間を会議に費やしているのだとしたら、それはどうしてなのでしょうか。


ある大企業の社長のAさんが、こんなことを教えてくれました。「上司にとって最も重要なことは、『部下の様子』を常に知っておくことです。部下が自信をもって目標に向かって取り組んでいるか、部下は互いに協力し合っているか、体調は良さそうか、取り除くべき障害は何か・・・。

上司は、こういうことを常に把握している必要があります。相手の状態が分からずにマネジメントを続けるのは、マトを見ないでボールを投げるようなものだからです」

Aさんは続けます。「部下にとっても、『上司の様子』を知っておくことが重要です。上司は自分の成長を支援しようとしてくれているか、上司が今意識を向けていることは何か、この上司からエネルギーが感じられるか。

こういうことを知っておくことは、部下が仕事を進める上での安心感ややる気にもつながります。

会議は『互いの様子を知る場』

 こういった『互いの様子を知る場』として、会議はとても有効な時間なんですよ。人は相手を少し見るだけで、意外と、体調や仕事ぶりなどを感じることができるからです」

「私のような社長という役職は、現場の情報から最も遠いところにあります。だからこそ、役員や社員の『様子を見る』ための 努力を惜しんではなりません。

それだけでなく、自分の様子を『見せる』ための 工夫もしなくてはなりません。

そうでないと社長と社員とのギャップは あっという間に広がり、意思決定を誤ってしまいます。このギャップは残念ながら電子メールでは埋まりません。地理的に遠い職場があったとしても、出来る限りお互いに顔を合わせる機会を作る、ということが基本です」

エグゼクティブの多くは『相手の様子を直接見ること』を重要視する

以前、フォーブス・インサイトが興味深い調査結果を載せていました。テレビ会議のようなヴァーチャル会議は、果たして対面(face-to-face)でのやりとりに取って代わるのか、という記事でした。(※2)

調査の結果、企業のエグゼクティブ750名以上のうち、80%以上が『ヴァーチャルな会議よりも直接のやりとりを好んでいる』ということが分かりました。

そして、そのうちの77%が、直接のやりとりを好む理由として、相手のボディランゲージや表情を読めるから、と答えています。『相手の様子を直接見ること』を企業のエグゼクティブの多くが重要視していると考えられます。

ところで、相手の様子が見えると、相手の様子が見えない「電話」でのやりとりに比べて視覚情報がある分だけ情報量が多くなります。私達が対面よりも電話によるコーチングを数多く実施するのは、意図的に視覚情報を遮断することにより、相手の「話を聞く」ことに意識を集中させることを狙いとしています。

最近のコーチング研究所の調査では、「対面によるコーチング」よりも「電話によるコーチング」の方がコーチからのフィードバックが増えたり、不要なアドバイスが減ったりする、という結果が出ています。私達は、そのくらい視覚情報に大きな影響を受ける、ということです。

オフィスを「歩き回る」時間

さて、先のAさんが大切にしている時間は、会議以外にもあります。それは、オフィスを「歩き回る」時間です。

歩き回ることで、社員の様子を見て、自分の様子を見せるのだそうです。工場や海外の拠点を訪問したときも、出来る限り歩き回るそうです。「短時間であっても、社内を歩き回るだけで様々な情報が入ってきます。特に夕方は、社員同士が話していることが多く、雰囲気をつかみやすい気がします。

 以前、ある職場を通りがかったとき、なんとなくいつもと違う雰囲気を感じました。少し気になって、後で担当役員に声をかけたところ、それがきっかけで顧客との大きなトラブルを未然に防ぐことが出来た、ということもありました。

 普段は、上司と部下が集まって楽しそうに話している姿を見て安心したり、新入社員が頑張っている様子を見て、こちらが元気をもらったりしています。頻繁に社内を歩いていると、ちょっとした変化も感じられるようになってきます。もちろん、自分が見られていることも意識します。社長は元気そうだ、と見せたいですからね」

脳は「意識するよりも先に状況を把握している」

ノースウェスタン大学のアダム・ウェルツ教授らは、私達の脳は、実は「意識するよりも先に状況を把握している」と述べています。 (※3)

私達は、はっきりとした理由がわからなくても「おかしいな」とか「いけそうだ」と感じる時がありますが、最近の科学では、こういう感覚を意思決定に用いる重要性が明らかになってきたのです。

ウェルツ教授らは、「最近では、一瞬の感情をどこかに押しやるのではなく、意思決定プロセスに取り込むべきだということがわかっている」と述べています。相手の様子を見て感じることを積極的にマネジメントに活かしていくことは、科学的にも理にかなっているのです。

Aさんは言います。「私の場合、役員を中心としたキーパーソンとは、会議の中で頻繁に顔を合わせてお互いの様子を見るようにしています。会議は、参加者が『無駄な会議にしたくない』と 頑張りすぎてしまうと長時間化します。

『互いに顔を合わせるだけでも意味がある』ことを共有できれば、議論の必要がないときには、自信を持って早く終わらせることが出来ます。つまり、生産性が高まるのです」

「一方、会議で直接話すことの少ない社員の様子は、社内を歩きまわることで感じとろうとしています。多くの社員の様子を見て、そして私の様子を見せることが、現在の私と社員とのコミュニケーションです。本当は、歩き回りながら私から社員に声をかけるとさらに良いのかもしれません。ですが、私はもともと仕事中の部下に自分から声をかけるのが苦手でした。歩き回るだけだ、と思うと気持ちが楽になって続けられるのです」

Aさんは、社長を退任する日まで毎日社内を歩き回るそうです。

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【参考資料】

※1『マネージャーの仕事』白桃書房   ヘンリー・ミンツバーグ (著), 奥村 哲史 (翻訳), 須貝 栄 (翻訳)

※2 BUSINESS MEETINGS The Case for Face-to-Face,Forbes INSIGHTS

※3「ニューロサイエンスの新たな知見 脳神経ネットワークへの理解を組織に活かす」  アダム・ウェイツ、マリア・メイソン   DIAMONDハーバード・ビジネスレビュー 2014年3月号

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