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経験学習モデル
2014年04月09日
4月は多くの人にとって変化のある季節です。このコラムを読まれている方の中にも職場に新しいメンバーが加わった、自分が新たな役割に変わったという方がいらっしゃると思います。
こうした変化は、上手く利用すれば、リーダーシップを向上させる大きなチャンスとなります。新たな環境は、これまでのやり方では上手くいかないこともあり、自分のリーダーシップについて改めて考えるきっかけを与えてくれるからです。
環境の変化を、最大限リーダーとしての成長に活かすにはどうしたらいいでしょうか?
米国ロミンガー社が、リーダーに対してリーダーシップ能力の開発において役立ったことを調査したところ、現場の経験が70%、上司の薫陶が20%、研修が10%という結果となったそうです。
経験が70%と一番大きなウェイトを占めていますが、それは、ただ経験すればいい、ということではありません。経験をいかに学習につなげるか、ということが問われます。
米国のコルブ教授は、「経験学習モデル」を提唱し、経験を学習につなげるためには次の4ステップを循環させていくことが大事であるとしています。
1)試行: 自分の考えを行動にうつす
2)経験: 行動して体験する
3)振り返り: 経験したことの成功、失敗要因を考える
4)概念化: 自分なりに考えをまとめ方法論にする
新しい環境に身を置いたリーダーの成長にこのステップをあてはめて考えてみましょう。
「新しい部署の管理職として任命された」。
まず、方向性を示すのが大事だと考え、4月1日に部署全員を集め、自分の考えを30分に渡って伝えた。(試行)
20人の部下の表情は終始硬く、自分の話が理解されたのかされなかったのかよくわからず、不安になった。(経験)
現場で起こっていることをヒアリングすることなく、一方的に話したことがよくなかったのかもしれないと思った。(振り返り)
新しい部下を率いるときは、こちらから発信する前に、まず現場の状況を把握することが必要だ。(概念化)
再びこのサイクルを回し、
集めた部下一人ひとりから現場の状況を聞き、その後に自分の考えを発信した。(試行)
こちらの発言を部下が大きく頷きながら聞いてくれ、ほっとした。ただ、数人は納得のいかない顔をしている部下がいて気になった。(経験)
発信の前に受信することは効果がありそうだが、それだけでは対応できない人もいる。特に、分析的にものを考える部下には「+α」の対応が必要そうだ。(振り返り)
発信の前に受信。ただそれで全員が納得するわけではないから、個別のフォローは常に必要。(概念化)
このようにシンプルに書いてしまうと、リーダーとして学習、成長することはいとも簡単なことのようですが、現実には、新しい環境の中では、このサイクルを回すことが難しくなるようです。
それは、まず、「試行しない」。
試行は「意図を持った実験」であるといえますが、環境が変わってもこれまでのやり方、自分の勝ちパターンをそのまま持ち込んでしまう。
次に、「経験しない」。試行はしたとしても、「経験はしない」というケースです。行動を起こせば、自動的に経験はするだろうと思うかもしれませんが、 そうでないケースもあります。
例えば、自分が一方的に方針を話す。話すことにあまりにも一生懸命になり、部下が面白くない顔をしていても、そのことに気づかない。つまり、「部下が面白くない顔をしている」という状態を自分の経験にできていない。薄々気づいていたとしても、はっきりと認識することがなければ、行動を改善するまでの「情報」として扱えない経験となります。
あるいは、「振り返らない」。
経験をしっかりしたとしても、そのことについて振り返らないということです。仕事が忙しかったり、経験に向き合うこと自体が苦痛だったりして、振り返りをする時間をきちんと持たない。
最後は、「概念化しない」。
振り返りまでしても、最終的に概念としてまとめあげることをしない。そのため、わかりやすい「定理/公理」として持つことができず、次の状況にうまく適用も応用させることもできない。
さて、みなさんは、普段、どのステップまで進めていますか?
新しい環境に入った時はどうでしょう? みなさんの部下、あるいは上司はどうでしょうか?
まず、自分にあてはめて考えてみてください。誰かと時間を取って、振り返るサポートをしてもらってもいいかもしれません。それができたら、次は、自分の部下とこのステップを追って話をしてみてください。周りの人たちについてもどうでしょうか。みなさんが、新しい環境をリーダーとしての成長の機会として 大きく活かされることを願ってやみません。
【参考資料】
『企業内人材育成入門』(ダイヤモンド社)
中原 淳 (著), 荒木 淳子 (著), 北村 士朗 (著), 長岡 健 (著), 橋本 諭 (著)
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