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チェックリストの可能性
2014年04月23日
皆さんは、ご自分の「チェックリスト」をお持ちでしょうか?
ここで言うチェックリストとは、「自分なりの仕事のノウハウや気付きをまとめたもの」で、「自分が仕事で陥りやすいミスについて自己点検するもの」といったものです。優れたチェックリストは公開されているものもありますので、すでに取り入れている方も多いと思います。
たとえば、ブレーンストーミングを考案したA.F.オズボーンのチェックリストは、「新しい発想を生むため」のものとして広く知られています。
・他に使い道はないか(Put to other uses-転用)
・他からアイディアが借りられないか(Adapt-応用)
・変えてみたらどうか(Modify-変更)
・大きくしてみたらどうか(Magnifty-拡大)
・小さくしてみたらどうか(Minify-縮小)
・他のものでは代用できないか(Substitute-代用)
・入れ替えてみたらどうか(Rearrange-置換)
・逆にしてみたらどうか(Reverse-逆転)
・組み合わせてみたらどうか(Combine-結合)
また、ある方は、「上司から仕事を命じられた時のチェックリスト」を持っています。
・期限は確認したか?
・他の仕事との優先度は共有したか?
・アウトプットイメージは合っているか?
・この先にどういうステップがあるか、最終ゴールは何か確認したか?
・途中経過の報告はどのくらい必要か?
・自分の理解を自分の言葉で伝えてみてズレはなかったか?
この方は、上司への報告の際に「自分の考えていたイメージからズレている」「もっと途中経過を頻繁に相談してほしかった」など、過去に言われてきたことを少しずつ書き足していき、今の形になりました。
老舗の鰻屋のタレのように、その時その時の「気付き」や「新しい視点」を継ぎ足し継ぎ足ししながらリストをアップデートさせていると、自分自身の成長と変化の跡が感じられてとても愛着の湧く「自分だけのツール」になっていきます。
私も、40代に入った頃に当時のコーチに薦められた本をきっかけに、独自のチェックリストを作りました。
最初の頃のリストには、「すぐにわかったと思い込まずに、最後まできちんと相手の話を聞いたか?」といった当時、私がコーチングでテーマにしていた項目が並んでいます。自分自身に投げかける「問い」という形で日々の言動を省りみたり、視点を変えたりするツールとして、今でもこのリストを更新しながら使っています。
ところが、最近、チェックリストにはもっと色々な可能性があるのではないか? と思うことがありました。きっかけは、我々コーチが、クライアントとセッション後に、毎回振り返りで使うチェックシートでした。
コーチングで使うチェックシートには、
・コーチはクライアントの話を遮らずに最後まできちんと聞いたか?
・コーチは上からの立場でアドバイスをすることはなかったか?
など、「コーチ側」の言動に関する項目だけでなく、
・セッション中になんでも気兼ねなく話せたか?
・コーチングによってこれから取るべき行動が明確になったか?
といった、「クライアント側」に問う項目も含まれています。
このチェックシートが出来たばかりの頃は、クライアントの方と、それぞれが自分の項目について自己点検をしていたのですが、段々と、相手の項目に対しても「自分はこう感じたが、なぜあなたの自己採点はこういうスコアなのか?」など、互いに対する議論が始まるようになったのです。
こうした議論を何度か重ねた後、チェックシートを使ったこの振り返り方法について、どう感じているのかを聞いてみました。
「最初はマニュアル的にやっていたが、コーチと互いに共通の項目に注意しながらコーチングを進めていくことで、目指すものが明確になり、安心感が持てるようになった」
「自分では成長や変化の度合いが『この位かな』と思っていたことが相手からは違うように見えることが頻度高くわかり、そのズレを発見できる度合が高まった」
確かに、チェックリストを一人で使うときには注意が自分の内側に向き、あくまでも自己点検をしているのに対して、一緒にお互いの採点のズレがどこから来るのかを話していると自分と相手の関係性や視点の違いにも意識が向き、考察がさらに深くなるのを感じます。
また、チェックリストという共通の「たたき台」があるせいか、お互いに「更にこういうことをしてほしい」「ここも大事に考えている」という提案や要望がスムーズに出やすくなっているようにも感じました。
クライアントからは、「繰り返し使うこと」についてこんな意見もありました。
「毎回同じものを見ながら繰り返していることにも意味がある。それは、二人の間に共通した理解やルールを積み重ねている、二人で育てている感じがするから」
冒頭でご紹介した、「上司から仕事を命じられた時のチェックリスト」を作った人も、思い切って自分の秘蔵のリストを上司本人に見てもらったのだそうです。すると、その上司は自分の何気ない発言にこんなにも真剣に向き合っていることにびっくりして、「ここはこういう風に確認してくれるとより安心できる」「この表現は正確ではない。自分としては、こういうつもりで言っている」など、自分なりの意見を加えてリストの充実に協力してくれたのだそうです。
それだけでなく、日々の会話の中で、「ここは大事なポイントだから、例のチェックリストに入れておいて」と言われるまでになったとか。
「リストの共有をきっかけに、あきらかに会話が増え、上司との相互理解が進みました」と話していました。
自己点検のためのチェックリストを、あえて誰かと共有して、自分の見方や取り組みが的外れでないかを確認する。あるいは、チェックリストを「間」におき、会話を繰り返すことでその人との関係性を深めていく。
リストの活用は、さまざまな可能性がありそうです。あなたは誰とチェックリストを共有してみますか?
【参考資料】
『アナタはなぜチェックリストを使わないのか? ~ミスを最大限に減らしベストの決断力を持つ!~』(晋遊舎)
アトゥール ガワンデ (著), 吉田 竜 (翻訳)
『テンプレート仕事術―日常業務の75%を自動化する―』(東洋経済新報社),信太明著
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