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ストレッチ

ストレッチ | Hello, Coaching!
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先日、アンチエイジングのクリニックへ、血液検査の結果を聞きに行きました。肝臓の数値がいつもより良かったのですが、看護師さん曰く、

「肝臓は使い過ぎると硬くなっていきます。そうすると、うまく機能が果たせなくなってしまいます」
「血管もそうです。硬くなると破れる可能性が高くなります」
「ついでに、筋肉も柔らかい方が、代謝がいい。人の体はとにかく柔らかい方がいいんです」

(そうか、すべて柔らかい方がいいのか)と妙に納得しながら聞いていると、

「人の頭もそうですよね。『硬い』と壊れやすい。柔らかい方が対応力があります」

なるほど、その通り。

「硬い」「柔らかい」にとても感度が立った状態で、翌日、五十肩の治療に整骨院に行きました。

院長先生は、私の体に触るなり、

「鈴木さん、かったいですね、カラダ。こんなにかったいと、肩だけでなく、あちこち動かなくなりますよ」

温和な声ながらも、しっかり脅してくれたのでした。

先生によると、そもそも筋肉は柔らかいものだそうです。その筋肉が硬くなっている、というのは、要するに筋肉が緊張していて力が入っている状態。力を入れたら、その後に必ずストレッチをして柔らかくする必要があります。

硬いままにしておくと、可動域が狭くなる。速く動けない。「次」に向けて動くのがおっくうになる。重いものを持ち上げるには太い筋繊維が必要ですが、次の行動へ速やかに動こうと思ったら、筋肉は柔らかくなくてはいけません。

この筋肉の話、どうもそのまま"組織"にあてはまりそうです。

社員に過剰に負荷をかけ、「とにかく目標を達成しろ」といった、「リニアな」コミュニケーションばかりを取り続けていると、社員は常時緊張した状態となり、組織全体が「硬く」なっていきます。

その硬さが恒常的なものになると、だんだん社員は動く範囲が狭くなり、速く動けなくなり、「次」に移動できなくなり......要するに、変化に対して機敏に対応できなくなっていくのです。いわゆる「硬直的組織」のできあがり。「柔軟性の高い機動的な組織」からはかけ離れていってしまいます。

では、どうすれば、組織の硬さを取り、柔らかく機動的な状態を取り戻せるでしょうか?

ブーズ・アンド・カンパニーのシニア・ヴァイス・プレジデントであるゲーリー・ニルソンと、スペシャル・オリンピックスで会長兼CEOを務めるブルース・A・パスタナックは、変化に対応できる組織は、柔軟性を持つ「しなやかな組織」であり、次のような特徴を兼ね備えていると述べています。(※1)

・想像できないようなことを思い描く
・水平的に思考する
・過去の栄光にあぐらをかかない

つまり、しなやかな組織は、メンバーが何でもできうるという自由な発想をし、組織を、縦だけでなく横にも見て、積極的に他部署を支援し、成功体験に縛られず常に新しい何かを模索している、ということになります。

人の思考は、「"今ここ"に居着く」という傾向があります(武道で「居着く」というのは、何か心を奪われ、瞬時に動くことができない状態をいいます)。

その特徴は、「しなやかな組織」の逆で、

・今の仕事のことだけしか考えていない
・今属している部署の利益の最大化しか頭にない
・今の成功に酔っている

"今ここ"に居着けば居着くほど、頭は硬くなり、「新しいもの」への関心は薄くなります。であれば、人を、組織を、柔らかくするために、しなやかにするために、リーダーができるのは、メンバーを"今ここ"に長く居着かせないこと。

「しなやかな組織」の特徴になぞらえれば、

・どんなあり得ないことをやってみたい?
・隣の部署の仕事をどうサポートできる?
・今回の成功を10倍にするためにはどうしたらいい?

などの問いをメンバーに向けて発し、"今ここ"でないものに意識を向けさせる。それが人の頭にとっての「ストレッチ」になるのかもしれません。

もちろん、メンバーを"今ここ"にコミットさせることはリーダーにとって大事な仕事です。ただ、それだけではメンバーの頭は硬くなってしまいます。

メンバーの頭を硬くしないために、"今ここ"に長く居着かせないために、組織の柔軟性を高めるために、ぜひ「ストレッチ」をメンバーとのコミュニケーションの中に時折、取り入れてみてはどうでしょうか?

五十肩になって苦しむ前に。

【脚注・参考資料】

※1 『いちばん強い組織のかたちとは』(PRESIDENT Online)
   ゲーリー・ニールソン(著)、ブルース・A・パスタナック(著)
   ディプロマット(翻訳)

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