Coach's VIEW

Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。


真ん中に立つリーダーシップ

真ん中に立つリーダーシップ | Hello, Coaching!
メールで送る リンクをコピー
コピーしました コピーに失敗しました

組織のエグゼクティブは、コーチングを受ける過程で、何を手に入れているのでしょうか?

コーチング研究所が、コーチングを受けたエグゼクティブ85名に、効果を実感した項目について、アンケート調査を実施しています(※1)。

その結果、全21項目の中で上位に挙がったのが、次の5項目でした。

1.ビジョンの明確化
2.フィードバックの受容
3.自己認識の向上
4.新しい方法への挑戦
5.組織目標の明確化

今回は、これらについて、リーダーの行動や職場への影響といった観点で、具体的なケースをもとに、ご紹介したいと思います。



新規ビジネスの創出を期待される、サービス業界大手の事業部長A氏。それまでは、幅広い経験と人脈を活かし、数々の成果を上げてきましたが、新しい事業部では、何もかもが初めての経験です。

新しい組織をリードする立場になったものの、思うようにチームを牽引し切れずにいました。

「部下たちの前でビジョンを語っても、伝わっている実感がない」
「議論を見ている限り、彼らの視野が狭いように感じる」
「いつでも自分に相談できるように部屋のドアを開けているが、誰も来ない」

前に立って未来を示し、後方からチームの方向性を確認し、常にオープンマインド。リーダーとしての「志」や「何とかしよう」という気持ちは、偽りないものとして伝わってきます。しかし、同時に自身の理想と現実のギャップに「困惑」しているようでもありました。

その「困惑」の理由を、私が目の当たりにしたのは、ある会議に同席させてもらった時のことです。

A氏と、事業部のキーパーソン5人が参加。一見、活発な意見交換が行われているように見えましたが、数分後、漠然と違和感を覚え、まもなくその原因に気づきました。

誰もが、お互いの顔を見て話さないのです。リーダーであるA氏の顔すら見ない。

私がそのことを指摘すると、気まずい沈黙が流れた後、突然、ある女性メンバーが口を開きました。

「メンバーと一緒に仕事をしている実感がない。実はAさんに対してもそう感じていて、自分にとって身近ではない気がするんです」

ミーティング後、「彼らの現場の中に、僕はいないということか」と、A氏は肩を落としながらも、その言葉は、何かを確信しているようにも聞こえました。

そして、A氏自ら、ある取り組みを行うことを決め、結果、その取り組みが職場に変化をもたらすことになります。

A氏は、女性メンバーのフィードバックをきっかけに、自身のリーダーとしての「ポジショニング」について考えを巡らせたそうです。

チームの前に立って方向性を示し、チームの後ろから様子を確認することはしていても、チームを真ん中から「実感」する機会が、あまりに少ないのではないか。

そう考え、ある方法を思いついたのです。

「事業部のフロアの真ん中に、自分のデスクをつくりました。引っ切りなしに繰り返されるお客様や他部門との交渉、部下同士のケンカもよく聞こえますよ。まさに、現場のリアルを『実感』できるんです」

こうして、A氏はオフィスの真ん中で、『絶え間なく会話の中に居る人』(※2)になりました。

そして、自分は現場から何を必要とされているのか、というリーダーとしての「新しい役割」を徐々に見出せるようになったのです。

「現場が見えたことで、自分の役割が明確になり、メンバーとともに、ビジョンに向かって行動できるようになった。会話や相談も活発になり、メンバー自身のモチベーションも向上している」

社員とともに現場を「実感」しながら、時に、前に立ってビジョンを語り、時に、後ろに回って集団の方向性を把握する、そんな存在へと変わっていきました。

コーチングを通じて、A氏は「真ん中に立つリーダーシップ」というポジションを見出し、メンバーとともに、新規ビジネス開発に向けた取り組みを加速させています。

みなさんは、どのように自分のリーダーとしての立ち位置をとっているでしょうか? A氏の事例が、それを振り返るきっかけになれば幸いです。

【脚注・参考資料】

※1 「エグゼクティブコーチングの効果」(コーチング研究所調査)
調査対象: エグゼクティブコーチングを受けた85名
調査期間: 2013年1月~2014年3月
調査方法: コーチングの効果に関するアンケート調査(全21項目)

※2 『協働するナラティブ 「言語システムとしてのヒューマンシステム」』(遠見書房)、(P51より)
   ハーレーン・アンダーソン(著)、ハロルド・グーリシャン(著)
   野村直樹(著・翻訳)

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。

この記事を周りの方へシェアしませんか?


※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

コーチング・プログラム説明会 詳細・お申し込みはこちら
メールマガジン

関連記事