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リーダーは『Xスポット』をつくる

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マラソンでは、「Xスポット」という特異な地点があると言います。

それは、42.195kmにもおよぶレース終盤の42キロ地点。ゴールまであと数百メートルという中で、ランナーの脳内に、ある変化が現れるそうです。

痛みや疲れを軽減するエンドルフィンなどの化学物質が、脳内に分泌され始めるのです。すると、ランナーたちはすでに疲労困憊しているにも関わらず、ゴールへのスピードが加速されるといいます。

また、こんな実験もあります。

あるカフェで「コーヒーを10杯飲むと1杯無料」というサービスを提供することにしました。1杯飲むごとにスタンプを押し、お客様がどれくらいのペースで、コーヒーを飲みに来店するのかを調べるのが目的です。

すると、面白いことが分かりました。

10杯目に近づくにつれ、来店する間隔が短くなる傾向があったのです。「1杯が無料になる」という目標達成に近づくほど、「目標達成への意欲」が強くなり、行動のスピードが増していったと考えられます

これを心理学では「目標勾配効果」と言います。

人は「目標に近づけば近づくほど、その目標に価値を感じる」ようになり、そして、自分の中で目標の価値が高まれば、「その目標を達成したい」という想いが強くなっていきます。

「もう無理だ」と思っても、「目標達成まであとわずかだ」と認識できれば、「もう少し頑張ってみよう」と新たなエネルギーが湧いてくるというのです。

どうやら、人は目標に近づくほど、目標達成を実現していこうとさらなる心身の力を得られるようです。

さらに言えば、「目標までの距離感が変わること」でも、同じ効果を期待できます。

ポジティブ心理学の第一人者、ショーン・エイカーは、「Xスポット」を意図的につくることで、相手が持つ、ゴールまでの距離感と目標の価値に影響を与え、目標達成をより促進できると語っています(※1)。

実際にそれを実践し、部下の目標達成を加速度化させているリーダーがいます。

* * *

とあるメーカーの営業リーダーをコーチングしていた時のことです。

従来の、商品力をウリにした営業スタイルではなく、お客様の課題を深堀し、提案していくソリューション型営業スタイルを、営業組織へ浸透させていく改革に頭を悩ませていました。

従来の営業スタイルからなかなか脱却できない部下に、「まだ、そんな営業をしているのか」という言葉をつい、部下にも、自分にも、投げかけているような状態でした。目標のベンチマークである提案件数の数字も伸びず、リーダーとして、苛立ちは募るばかり。

そこで、コーチングでは、「できていない点」ばかりでなく「ささやかでも、すでにできている点」にもフォーカスを当てていくことにしたのです。

たとえば、

「スタート時と比較して、今実現できていることは何だろうか?」 「部下の行動で変化したことは何だろうか?」

など、すでに起こっているポジティブな変化やその兆しをたくさん取り上げていきました。

すると、達成できていないことばかりに目がいっていた営業リーダーの中に、「部下が起こしている変化や、すでに実現しつつあることもある。目標への到達を急かし過ぎたせいで、部下たちは、目標を果てしなく遠くに感じてしまっているのかもしれない」と、新たな気づきが生まれたのです。

そこで、彼はあることをを決めました。

目標のベンチマークを、「提案件数」から、営業活動のステップとしては提案の前段階である、「どれくらいお客様から課題を引き出せているか」に変更したのです。

つまり、最終ゴールに向けた指標を、それまでよりも数ステップ手前に置くことにしました。

同時に、部下への問いかけを「もうここまでできているか」「すでにできていることは何か?」といった言葉に変えていったそうです。

営業リーダーの部下に対する関わり方の変化が、部下の目標意識に影響を与えていきました。それは、次のような部下からの報告からも伺えます。

「以前に比べ、ゴールが手前に見えているので、軽やかに動ける感じがする」

その後、ソリューションスタイルの提案件数は3.4倍も向上し、新しい営業スタイルも徐々に浸透されていったそうです。

* * *

リーダーは、意図的に、

・目標への距離を短く見せる
・すでに達成したことを大きく見せる

そんな工夫が求められることがあるかもしれません。

「Xスポット」をつくり出すことは、目標達成への可能性やスピードの促進に貢献できるのですから。

【参考文献】

※1 ショーン・エイカー(著)/高橋由紀子(訳), 『成功が約束される選択の法則』,徳間書店, 2014,311p

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。

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