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弱いつながりが生みだす価値
2014年09月24日
ある国家試験予備校の講師に、
「最近は、どのような生徒が国家試験に合格するのですか」
と聞いたことがあります。すると興味深い答えが返ってきました。
「顔が広い子ですね」
詳しく聞いてみると、予備校内で、学生同士や職員、講師などと幅広く関係を築いている生徒の方が、合格率が高い傾向にあるそうです。
その講師は、怪訝そうにこう続けました。
「誰かと特段親しいということではありません。浅く広く、人と付き合っているようなのです」
こうした、人と人との結びつきの度合い、いわゆる「強弱」と、その人が生み出す成果の間に関係性はあるのでしょうか。
ちなみに、「顔が広い」とは、付き合いのある誰とでも気軽な相談や最新情報の獲得をできるような、多様な付き合いを持っていることと考えることができます。先述の予備校生が持つつながりは、おそらく、顔見知り程度の「弱いつながり」と言えるでしょう。
このような弱いつながりが、組織のイノベーションを生むことを示唆した 興味深い研究をご紹介します。
エモリー大学のペリースミスらの研究によると、アメリカのある研究所で働く97人に対して、各メンバーとどのくらい頻繁に交流をしているかを調査しました。
ごくたまにしか話さないなら「弱い結びつき」、頻繁に会ってプライベートのことも交えて話すなら「強いむすびつき」と分類し、所内における研究員同士のネットワークを計測。
同時に、研究所のスーパーバイザーたちに、それぞれの研究員を次の観点で評価してもらいました。
・どれくらい新しい革新的なアイデアを生み出したか
・どのくらいクリエイティブな成果を研究で残したか
すると、弱い結びつきの人間関係を多く持っている研究員の方が、クリエイティブな成果を多く残していることが明らかになったのです。(※1)
もちろん、「弱いつながり」では、信頼関係に基づいた安心感や満足感は得られないでしょう。ただ、日常的に接する仲間たちと違う視点を得ることは、新たな機会の価値を提供してくれる可能性を高めると思われます。
オクスフォード大学のラシュワースらのサルに関する研究によると、社会性を司る脳の部位が発達しているほど、そのサルは、集団内で上のポジションにいると言います。(※2)つまり、社会性の脳機能が発達したサルは、社会的に"成功できた"と言えるでしょう。
人間社会ではどうか。
仕事で成功するために必要なのは、技術能力の高さだけではありません。他者と協力したり、目的遂行のために他者を説得したり、といった、他者と関係を築こうとする能力も重要です。
より多くのコミュニティーに所属し、新しい価値を創出する機会を得ることで、 目指すゴールへとステップアップしていくのかもしれません。
冒頭の予備校生にも直接話を聞いてみました。
「毎日いろいろな人に挨拶して、そこから会話が始まります。予備校という場なので、合格に必要な最新情報が自然と入ってくるんです」
おそらく、その生徒は弱いつながりを通じて、学生や職員、講師からさまざまな知識を効率的に手に入れたことで、合格への最短の方法を見出せたのかもしれません。
「強いつながり」は、信頼と安心感を充足しますが、一方で、知識の同質化を生むことになり得ます。
もしあなたが、組織に新たなイノベーションを生み出したいと考えるのなら、部署や職位を越えた弱いつながりを組織内の至るところにつくりだしていくことが、効果的なのかもしれません。
明日から何をスタートしましょうか。
先ほどの学生さんにならうならば、まずは挨拶から、というのも一手かもしれません。
【脚注】
※1 Perry-Smith.,Jill E, 2006, 'Social Yet Creative:The Role of Social Relationships in Facilitating Individual Creativity.', Academy of Management Journal, 49(1):85-101
※2 Sallet,J.st.al., 2011,Social network size affects neural circuits in macaques.Science,334.697-700
【参考文献】
金井良太, 2013, 『脳に刻まれたモラルの起源』, 岩波書店
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