Coach's VIEW

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管理職としての『熟練』

役職の昇進によって変わるのは
その立場だけではありません。
当然、一人ひとりに期待される成果や求められる能力も
変化していきます。

それまでは自分自身の実績を重要視されていても、
管理職になれば、
部下などとチームで成果をあげる力も求められます。

同様に、
直属にプレーヤーを持つ「指導層」と
直属にマネージャーを持つ「管理層」も、
似て非なる能力が要求されます。

今回は、この両者に求められる「能力」の違い、
そして管理職の「熟練」について考察してみます。

コーチング研究所で実施した、役職別による調査から
「人を通じて成果をあげる能力」について見出すことができました。(※)

比較したのは
「主任および係長」と「課長および部長」。

この結果について、
主任および係長を
指導層(現場の社員と近い立ち位置で活躍している)と、
課長および部長を
管理層(指導職を介して現場の社員に接している)として、
考えてみたいと思います。

まずは、指導層と管理層では
特に差を見出せなかった項目の一部が以下です。

------------------------------------------------------------
・目的を持って会話する
・やる気にさせる提案要望
・遮らずに最後まで聞く
・話しやすい雰囲気
------------------------------------------------------------

一方、次の項目は、管理層が指導層よりも、
目立って高く評価されている能力の一部です。

------------------------------------------------------------
・目標の進捗を話す
・まず相手の考えを尋ねる
・相手に考えさせる質問
・フィードバックを求める
------------------------------------------------------------

管理層は、
目標に向かって、部下との接点を維持しながらも、
相手に気づきを与えたり、
相手から学びを得る能力が長けていたりするようです。

つまり、指導層の能力を維持しながらも、
経験の中から、別の能力を開発してきている様子が伺えます。

実は、指導層から管理層へ移行する際に
こうした新たな能力を開発することは、
自らの「スタイルの変革」を伴う、難しい「挑戦」なのです。

この挑戦の具体的な例として、
大手消費財メーカーの国内販売部門のA氏の事例をご紹介します。

***

10年以上に渡り、
好業績を叩き出し続けてきたA氏。

しかし、後進を育てられずにいたことが、
今以上の成果を求める上での壁となっていました。

「私は、率先垂範・指示命令で、実績を上げ続けてきましたが、
 後に残ったのは、実績数字と指示待ちの集団でした」

これが動機となり、
A氏は、コーチングスキルを身につけようと思ったのです。

早速、「自律型人材を育てる」という決意を胸に、
「相手に考えさせる」スタイルへの変革に挑戦し始めました。

しかし、開始早々、
A氏にとって、あらゆることが「求める基準」に達しない部下たちを前に、
「"自分でやらない"決意」が揺らいでしまうほど、
次第に苛立ちは募っていきました。

しかも、業績は下降線をたどり始め、
A氏にとって初めての「未達」の2文字が
目の前にちらつき始めたのです。

「コーチングをやり続けていて、大丈夫ですか?」

いよいよ、「自分のスタイル」に戻す誘惑に負けそうになり、
A氏は何度も私に尋ねてきました。

しかし、そのことを同僚に相談すると、
きつい一言をコメントされたと言います。

「あなたの基準で100点の人間なんて、あなた一人だけなのでは?」

この言葉がきっかけとなり、
A氏は、従来の「自分中心・自分本位」のシステム・やり方を、
根本から見直すことにしました。

・人材配置を見直す。Yesマン化した部下に、新たな機会を与える
・60点合格主義とする。「そこそこ」でも、やらせてみる
・権限委譲をする。ビジョンは伝えるが、目標とやり方を考えさせてみる

また、次のように、「責任を求める」が、
「コントロールを失わない工夫」も組み込みました。

・ダイレクトレポートと、定期的に時間を取る
・目標に対する進捗と、次への対策は必ずレポートしてもらう
・課題に対して「どうすればいいですか」は禁止。「こうします」という提案をさせる

1年目の期末、結果はギリギリの予算達成でしたが、
それでも、A氏の喜びは大きいものでした。
その理由は、業績ではなく、人材の発見があったからです。

「将来を託せそうな人物が二人見つかった。
 配置転換をし、直属としてコーチングをやってみたところ、
 将来を期待できる人たちだと思った」

1年目の挑戦を通じて、
A氏が「やめたこと、始めたことは何か」を尋ねると、

・「この人はOK、あの人はNG」と考えるのをやめた。
 どうすれば「この人ができるようになるか」を考え始めた
・部屋に閉じこもることはやめた。
 ドアを開けてオープンコミュニケーションをし、メールもすぐ返し始めた
・業績一点集中はやめた。部下一人ひとりのことを考え始めた
・指示命令はやめた。質問をし、相手からアイデアを引き出し始めた

これらの変化こそ、
A氏が管理職として、
「指導層」から「管理層」へと駆け上がった証と言えるでしょう。

***

翌年には、過去最高の売り上げを見事達成し、
今度は、業績という具体的な成果に喜びを感じている様子でした。

「間違いなく、部下の力で達成した業績です。
 こんなにできるとは思わなかった。最高に嬉しい」

その言葉から、A氏の変化を強く感じました。

「自分仕様」に部下をコントロールすることに
必死になっていたA氏の姿は、もはやそこにはありません。

部下と、信頼関係と方向性をきちんと共有し、
それまで知らなかった部下の能力に目を細める。
そんな余裕と愛情に満ちた姿へと変わっていたのです。

「指導層から管理層」へのチャレンジは、
決して容易なことではありません。

これまでの自身のスタイルを見つめ直す。
そして、「変える」と決めたことに取り組み続ける。

チャレンジに直面している、または見守っている方々にとって、
こうしたA氏の事例は、大きなヒントになるのではないでしょうか。

※コーチング研究所調査「CSAplus 役職別にみた周囲評価の違い」
 調査対象:40社 1,935名(役職者343名の周囲)
 実施年度:2012年

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