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感情を『実況中継する』リーダー
コピーしました コピーに失敗しました精神状態によって、人の視線の動きはどう変化するのか。
実際に視線を追跡した実験で、人は否定的な精神状態になると、視線は狭まり、一点に集まりやすくなることが分かったそうです。(※1)
逆に、ポジティブな精神状態になると、視野は広がり、全体の状況を見られるようになる、という結果も出ています。
ポジティブな精神状態のサッカー選手は、仲間の位置や攻め込めるスペースがよく見える
今夏のブラジルワールドカップでブラジルの代表選手はドイツを相手に、わずか6分間で4点も失ってしまいました。
もしかしたら、彼らは試合の中で過度のストレス状態となり、否定的な精神状態に陥ってしまったのではないでしょうか。
その結果、視野は狭くなり、体は固くなって、集中力は低下していく。そうして、何をしていいのか分からない状態になってしまったのかもしれません。
同様に、ビジネスリーダーも、グローバルで競争の激しいフィールドに立ち続ける上で、精神的に大きな負荷がかかっているはずです。
そんな中にあっても、優れたリーダーは、自分の精神状態をうまくコントロールできる「情動のアジリティ(敏捷性)」を身に着けていると、ハーバード大学のSusan Davidは言います。(※2)
また、ロンドン大学のFrank Bond教授らは、「情動のアジリティ(敏捷性)」が「ストレスを軽減させ、ミスを減らし、創造性や業績の向上に影響している」とも報告しています。(※2)
では、どうやったら、リーダーは、「情動のアジリティ」を高めていけるのでしょうか。
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どうしたらリーダーは、「情動のアジリティ」を高めていけるのか
ある企業の役員は、突然、自社が買収した海外企業へ赴任することになりました。
海外経験はありましたが、その赴任先は、彼にとって初めての国。加えて、買収した企業の事業内容は、今まで経験したことのない領域でした。
赴任からしばらく経って、彼はあることに気づきます。
赴任前の自分だったら、決して怒らないような状況で、つい部下を頭ごなしに怒ってしまったり、顧客対応で妙に不安を覚えたりしていたのです。
私とのコーチングがスタートしたのは、彼がそんな状況にあった時でした。
コーチングの中で、彼自身の変化について対話し、次のことを決めました。
怒りや不安といった感情にそのまま巻き込まれないようにする。そのために、まずは自分の中に起こった感情と「間」を置こうと。
そこで、彼が心がけたことが、自分の思考や感情のプロセスを、頭の中で実況中継をすることでした。
たとえば、
「翌朝までに提出してほしいとリクエストした企画書を、部下がまだ持ってこない。私は、自分がないがしろにされた気持ちになり、段々と怒りが込みあがってきている」
などと心の中で、自分の思考や感情を実況中継します。
そうして、感情と意識して「間」を持つことを実践していったのです。
当初は、反応的に怒ったり、不自然に怒りや不安を抑えたりしていましたが、次第に実況中継が上手くなっていきます。
すると、不思議なことに、
「私はなぜ怒っているのか?」
「不安になる以外に方法はないのか?」
「怒ることで本来の目的を達成できるのか?」
という問いが、自分の中に自然と生じたそうです。
そうなってから、反応的に怒ったり、過度に不安になったりすることが徐々に減っていったと言います。
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人の脳をスキャンしてみたところ、否定的な情動状態にある脳に、言語などの情報が加わると、情動が収まって、気分が改善され、決断力も高まることが分かっています。(※3)
これは、感情や思考を言語化するプロセスで理性を司る前頭前野が活性化し、否定的な情動を沈めてくれるからだろうと考えられます。(※4)
現代は、ビジネスリーダーも一流のアスリートと同様に、否定的な精神状態から肯定的な精神状態にいち早くシフトする力「情動のアジリティ」の向上が求められています。
否定的な情動に巻き込まれたら、まず、自身の思考や感情を実況中継してみるのもひとつの方法かもしれません。
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【脚注】
※1ショーン・エイカー, 高橋由紀子 訳, 2014, 『成功が約束される選択の法則』, 徳間書店
※2スーザン・デイビット, クリスティーヌ・コングルトン, 2014,
『ネガティブな感情をコントロールする方法』, P118〜P125,
ハーバードビジネスレビュー,2014年10月
※3ショーン・エイカー, 高橋由紀子 訳, 2011, 『幸福優位の7つの法則』, 徳間書店
※4エレーヌ・フォックス, 森内薫 訳, 2014, 『脳科学は人格を変えられるか?』, 文藝春秋
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