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ビジョンは、ビジョンを語る人に浸透する

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コーチングの基本は、「問いかけて、聞く」ことです。

たとえば、上司が部下に対して、
「問いかけて、聞く」ことができれば、
部下は話しながら、
自分の話を咀嚼し、考えが整理され、
腑に落ち、新しいアイデアに気づいていく。
このようなオートクラインが起きやすくなります。

ところが、上司が部下に対して、「問いかけて、聞く」というのは、
シンプルでありながら
とても難しいコミュニケーションの一つなのです。

なぜなら、上司にとって
「問いかけて、聞く」ということは、

・指示しない
・教えない
・否定しない

ことでもあり、
それはつまり、上司としての役割あるいは武器を
一時的とはいえ、放棄することになるからです。

もし、部下の答えが、
上司の思い通りのものであれば「聞く」ことができるでしょう。

ところが、
部下から思い通りの答えが返ってこない時、
上司は即座に、部下の言葉を、否定し、指示し、やり方を教えることになります。
それが、上司の仕事だからです。

つまり、往々にして、
上司は部下の話を「聞く」ことができていないのではないでしょうか。

***

ここに興味深いデータがあります。(※1)

この結果によると、
上司による「メッセージ伝達」の平均値は5.8と高い評価を得ています。

「メッセージ伝達」の数値は、
以下のような複数の質問をもとに算出しています。

・周囲の人に対して納得できる説明をしている
・周囲の人に対して話の背景や前提条件を説明している
・会議で自分の意見を明確に伝えている

一方、「方向性の提示」の平均値は5.1で、
「メッセージ伝達」に比べて低い評価となっています。
つまり、多くの部下が、自分の上司に対して
「方向性の提示」が弱いと認識していることが分かります。

「方向性の提示」の数値は、

・周囲の人に魅力的なビジョンを伝えている
・部下に対して会社のビジョンと仕事とのつながりを伝えている
・部下に明確な目標を提示している

といった質問から算出しており、
上司による、ビジョンの提示や浸透について評価したものです。

この二つのデータから

上司は、部下にメッセージは伝えているが、
部下にビジョンは浸透していない

と読み取ることができます。

この要因について、
上司の部下に対する「方向性の提示」そのものが少ない

そして、
上司が提示していても、部下がそれを認識できていない

などが考えられます。

***

さらに興味深いデータがあります。(※2)

方向性の提示に関する質問
「上司は、自らが管轄する組織のビジョンを周囲の人に魅力的に語っている」

コミュニケーションに関する質問
「上司は、自分の考えを伝えるだけでなく、部下の考えも尋ねている」

この二つの質問について
上司に対する部下からの評価の相関値が0.7と、
とても高い値を示したのです。

つまり、

「部下に話させているリーダーは、
 方向性を提示していると認識されている」

ことが分かります。

***

多くの上司は、
目標に向かって組織を動かすために、
一生懸命、部下に自分のビジョンを語っているのではないでしょうか。

ビジョンを語る上司自身の中にオートクラインが起こり、
自分のビジョンがより明確なものとなっていく。

ところが、一方的に聞いているだけの部下は
上司のビジョンを自分のものとすることはなかなか難しい。

すると、上司は自分のビジョンが部下に伝わらないので、
その不安からさらにビジョンを一方的に語る。
再び上司の中にオートクラインが起こり、
ますます上司にとって自分のビジョンは強固なものとなっていく。

これでは部下との差は広がるばかりです。

ではどうするか。

上司は、自分のビジョンを部下に伝え、
そのビジョンを聞いて部下はどう思ったか、
つまり、部下のビジョンを聞いてみるのです。

部下は自分のビジョンを語ることで、
上司のビジョンを自分のものとして捉える。
そうして、部下は、上司とビジョンを共有したと認識できます。

つまり、上司は自分のビジョンを伝えるだけでなく、
部下にもビジョンを話させる必要があるのです。

指示したり、教えたり、否定したりするのは少し後回しにして、
まずは「問いかけて、聞く」ことに徹する。
5分でも、10分でも、
その時間だけは部下にとっての良い聞き役になる。

ビジョンを浸透させるためには、
上司がビジョンを語るだけでなく、部下にもビジョンを語らせること。

ビジョンは、ビジョンを語る人に浸透するのです。

【脚注】

※1 コーチング研究所調査「部下からみた上司のリーダーシップ 評価平均」
   調査対象:Leadership Assessment (LA) リーダーシップ53項目(7段階評価)
   調査人数:4,075名(上司755名の部下)
   実施年度:2014年

※2 コーチング研究所調査「部下からみた上司のリーダーシップ 相関関係」
   調査対象:Leadership Assessment (LA) リーダーシップ53項目(7段階評価)
   調査人数:2,021名(上司360名の部下)
   実施年度:2013年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。

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