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失敗する条件をつくる
2014年11月12日
近所のクリーニング屋さんを利用した時のことです。
このお店には、受取日を自分で指定し、その通りに受け取りに来ると、通常の2倍のポイントをもらえる、という仕組みがあります。
ポイントのことは気にしていなくても、自分で受取日を設定すると、何だかその日に行かなくてはならないという気になります。
その日、偶然、他に誰もいなかったので、店員さんに聞いてみました。
「指定通りに受け取りに来る人は、どのくらいいますか?」
「ほとんどの方が受取日にいらっしゃいますよ」
印象的だったのは次の言葉でした。
「でも、『今回、この人は指定日には来ないだろう』というのは、大体分かります」
「なぜですか?」
「『ムニョムニョ~』があるんです。『来週は忙しくなりそうで......』や『最近なんだか体調が悪くて......』などとムニョムニョ~と言いながら受取日を指定する人は、大抵その通りにはいらっしゃらないんです」
と、店員さんは笑いながら答えてくれました。
前もって言い訳をつくることを「セルフ・ハンディキャッピング」と言います。(※1)
人は、「失敗する可能性がある」という不安を感じると、あらかじめ失敗する理由をつくろうとする傾向があります。
「『自分のせいではない』と思い込むことで自尊心を守る」
これがセルフ・ハンディキャッピングの目的です。
心理学者のスティーヴン・バーグラスとエドワード・E・ジョーンズは、次のような実験をしました。(※2)
まず、学生たちを集めて、彼らでは解けないであろう難しいテストを受けさせます。
そして、テストの結果に関わらず、全員に「あなたは満点だった」と伝えます。
テストが満点と言われたことで彼らの自尊心は高まりますが、それと同時に、彼らはテストが難しかったことに不安を感じます。
その状態のまま、「これからもう一度同じようなテストをする」と伝えます。
1回目と異なるのは、次の2つの条件から一方を選んでテストに参加してほしいと伝える点です。
・能力を「上げる」可能性のある薬を飲む
・能力を「下げる」可能性のある薬を飲む
すると、多くの学生が「能力を下げる可能性のある薬を飲む」を選びました。
「難しいテストだから次は失敗するかもしれない」という不安感から、「自分は、能力が下がる可能性のある薬を飲んだのだから、テストの結果が悪くても仕方がない」と、言い訳できる方を選んだと考えられるのです。
このようなセルフ・ハンディキャッピングは日常にあふれています。
身近なシーンでは、試験当日の朝、「昨日は夜中までテレビを見てしまった」と言う友人や、ゴルフコンペの朝、ゴルフ場に着くなり、「朝までお酒を飲んでいたので、まだ二日酔いです」と言う同僚など。
しかも、セルフ・ハンディキャッピングの怖いところは「その人が本当にその行動をとっている」という点にあります。試験前日に夜中までテレビを見ていたことも、ゴルフコンペの直前に朝までお酒を飲んでいたことも、嘘ではなく「事実」です。
「失敗した時にダメな奴だと思われたくない」といった気持ちが「失敗しやすくなる行動」を実際に起こさせたと考えられます。しかも、その行動をすることが最も適さないタイミングで。
そのように考えると、テスト前になると、普段は読まないような小説を読みたくなったり、年度末が近付くと、目標シートには無い仕事に時間を割き、周囲に見せたり、大切な顧客先でのプレゼン前日に、熱を出したりしてしまうのも、セルフ・ハンディキャッピングなのかもしれません。
できることならセルフ・ハンディキャッピングはしたくないものです。
なぜなら、セルフ・ハンディキャッピングをすると、本来のパフォーマンスを下げることはあっても、上げることはないからです。
失敗する条件を自らつくっているのだから、それは当然でしょう。
ちなみに、コーチとしての私の経験から、セルフ・ハンディキャッピングを行いがちな人たちには、共通点があると感じています。
それは、「~しなければならない」という言葉を多く使うことです。
個人差はありますが、「~しなければならない」という言葉を多く使う人は「~したい」という言葉を多く使う人よりも、セルフ・ハンディキャッピングをする傾向が強い、と私は思っています。
もしかすると、「~しなければならない」と言う、いわゆる「やらされ感」を持って過ごすことが多い人は、いつも、「しなくてもいい」理由を探しているのかもしれません。
あなたは最近、ムニョムニョと言っていませんか?
【脚注】
※ Berglas, Steven, Jones, Edward E.,Drug choice as a self-handicapping strategy in response to noncontingent success.,Journal of Personality and Social Psychology, Vol 36(4), Apr 1978, 405-417.,
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