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自分をさらけ出す上司

自分をさらけ出す上司
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先日、上海にある日系企業の総経理の方々と、ローカルスタッフの開発についてディスカッションを行う機会がありました。

中国でよく耳にするのは「老板(ラオバン:『上司』の意味)は絶対!!」

そんな権力や序列に敏感な中国人次世代リーダーたちにとって、気兼ねなく発言できる雰囲気や心理的な安全の場をつくろうと、総経理たちは、

・総経理室のドアをオープンにする
・「何でも話そう」とスローガンを掲げている
・「問題があればいつでも話に来なさい」と声をかける
・サポートが必要であればリクエストしてほしいと伝える
・飲み会を開くなど、オフタイムを利用して彼らの話を聞く

など、さまざまな工夫をしていました。

しかし、話を聞いているうちに、彼らは、部下側から行動を変えてくれることばかりを期待しているように思えてきたのです。

そのような状態で、本当に「心理的な安全の場」を生み出せるでしょうか?


ハーバード・ビジネススクールのエイミー・C・エドモンドソン教授は、著書の中で、(※1)

「『心理的安全』とは、関連のある考えや感情について、人々が気兼ねなく発言できる雰囲気をさす」

と定義づけ、

「率直に発言することにメリットがあるにもかかわらず、内在するリスクとそれに伴うはっきり意見を言うことへの不安のために、組織としてみな押し黙っていることが当たり前になっている。ある研究によれば、インタビューを受けたマネージャーとスタッフの85パーセント以上が、懸念を口にすることはないと認めていた(※2)」

と考察しています。

さらに、組織の現状について次のようにも述べています。

「心理的に安全なところで仕事をしたいのかどうか尋ねられたら、ほとんどの人がイエスと答えると思ってまず間違いない。しかし、ある研究によれば、さまざまな国のさまざまな環境における心理的安全の中央値(全体で中央の順位にあたる数値)が、100ポイント中76にとどまっていることがわかった。(※3)これは世界規模の労働人口のうちかなりの割合が、心理的安全のレベルがチームワークと組織学習に、最適なレベルに達しない組織で仕事をしていることを示すものである」


では、「心理的安全」を構築しているリーダーは、どんな行動をしているのでしょうか?

前述の著書の中では「心理的な安全を高めるためのリーダーシップ行動」も挙げられています。(※1)

・直接話のできる、親しみやすい人になる
・現在持っている知識の限界を認める
・自分でもよく間違うことを積極的に示す
・参加を促す
・失敗は学習する機会であることを強調する
・具体的な言葉を使う
・境界を設ける
・境界を越えたことについてメンバーに責任を負わせる

つまり、心理的安全を生み出すには、リーダーが「自ら」行動しなければならないのです。

これを実践したリーダーがいます。


課題に取り組むにあたって、プロセスより成果や結果を重視して、リーダーシップを発揮してきたA氏。

しかし、彼は3年間である拠点の立て直しを任されたものの、結果、業績を回復させることができませんでした。

その後、新たな組織とプロジェクトに関わるのを機会にリーダーとしての変革に取り組んでいます。

A氏との関わりについて、中国人の部下に40項目におよぶアセスメントを取り、 最も気になった項目について尋ねたところ、

「(A氏は)知らないことを人に聞くのは苦手だ」

A氏自身も、「リーダーは正しくなければいけない、すべてを知っていなければいけない、と思っていたが、それを好ましいとは思っていなかった」

と話していました。

では、本当はどうしたいのかを尋ねると、

「相手の本心を知りたい。本当に考えていることが、垣間見えると安心する」

そして、相手の本心を知るために 「何を始めるのか」を考えてもらいました

・前の組織で業績を上げられなかったことを認めて、話をする
・わからないことは「教えてほしい」「聞かせてほしい」と質問する
・どのような仕事がしたいのか聞いて、その考え方を認める

部下とこのような関わりを続けたある日、A氏は部下の一人からこんな言葉をかけられたそうです。

「何でも話せる『上司』ではなく、相談できる『仲間』になりました」

「心理的安全」を確信した瞬間です。そして、A氏は嬉しそうに私にこう話してくれました。

「『教えてほしい』『聞かせてほしい』と関わると、相手は、自分が話したいように話せるので、ストレスを感じずに、本心を語ってくれていると思います。そして、『自分も間違うことや失敗することがあるんだ』と話せたことによって、気が楽になりました」

プロジェクトは現在進行中ですが、お互いに協力し合い、率直な発言が増えたことで、成果が見えつつあります。


組織の目標達成や課題解決は、上司一人で行うわけではありません。

上司が独裁者のような態度をとったり、自分の弱さを認められなかったりすると部下はアイデアを共有したり、ミスを検証したりしたがらなくなります。

上司が「心理的な安全」を生み出すことによって部下が上司に質問をしたり、アイデアを提案するチャンスに出会う頻度が増えれば、組織のパフォーマンスに良い影響を与えるのではないでしょうか。

【脚注】

※1 エイミー・C・エドモンドソン, 2014,
  『TEAMINGチームが機能するとはどういうことか』,英知出版

※2 F.J Milliken,E.W.morrison,and P.E.Hewlin,
  "An Exploratory Study of Employee Silence
  :Issues That employees Don't communicate Upward and Why,"
  Journal of management Studies 40,no 6 (2003):1453-1476

※3 D.A.Garvin A.C.Edmondson,and F.Gino,
  "Is Yours a Learning Organization?"
  Harvard Business Review 86, no.3(2008)

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