Coach's VIEW

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「集中」と「解放」のレッスン

「集中」と「解放」のレッスン

知人が困った顔をして話しかけてきました。

「昨日、あるものをどこかに置き忘れてしまった。
 タクシーに置き忘れたとしか思えないが、
 確かな記憶がない」

忘れ物だけでなく、最近は
電話会議中に話が耳に入ってこず、
途中であわててしまうことも度々あるというのです。

マイアミ大学のA.P.ジャ教授によると、
「自分が意図していないところで意識が外れてしまう」といった、
集中力散漫な状態は、ネガティブな気分に結びつくそうです(※1)

リーダーがそんな状態に陥ってしまったらどうでしょうか。

大きな権限を持つリーダーが、
集中力が散漫になり、ネガティブな気分まで引き出されてしまったら、
迅速に決済できなくなったり、誤った判断をしてしまったりと、
個人だけでなく、組織にとっても大きなリスクです。

しかも、そういった立場の人ほど
すぐには休養をとれない状況にあるように思います。

皆さんは、「マインドフルネス」という
集中力トレーニング法をご存知でしょうか。

集中力をコントロールする訓練により、
脳のパフォーマンスが向上するとして、
近年、期待が高まっています。

特に、マサチューセッツ大学医学校の
ジョン・カバット・ジン名誉教授が、
この方法をもとに開発したプログラムは、
米グーグルや米インテルなどで正式に取り入れられているそうです。(※2)

この訓練は、
意識を「集中させること」と「解き放つこと」の組み合わせで
構成されています。

まず、「身体の一部」あるいは「ある一つの事柄」に意識を集中し
それを一定時間維持します。

次に、意識を解放します。
自身の外側の視点に立って
自分の思考や感情、感覚を眺めるイメージを持ち、
その状態を一定時間維持します。

この訓練の効果を調べるために、
特に高いストレス下で業務に従事する
医者や看護士、海兵隊員を対象に実験が行われました。

その結果、
「物事を認知するスピードが上がる」
「脳の一時記憶部位の能力および集中力が向上する」
などの成果が報告されました。(※1)

このマインドフルネスと同様の効果を、
異なるアプローチで得たエピソードがあります。


海外現地法人で指揮を執っていたAさんは、
他の海外現地法人の統廃合が進んだ際、
地域本社のトップに着任することになったのです。

管掌する規模が広がれば、接する関係者も当然増えます。

Aさんのもとに入ってくる情報量は何倍にも増え、
方々から決裁を求められるようになりました。

「明らかに自身のキャパシティを超えている」
と、非常に焦りを感じていたそうです。

次第に、
Bさんの話を聞いているのに、
Cさんと話したことが気になって集中できない、
といった状況に陥るようになったのです。

Aさんはコーチングの際、
日頃の想いを吐露した後、こうつぶやきました。

「コーチングで学んだメタコミュニケーションを
 部下との対話に活かせないだろうか」

「メタコミュニケーション」とは、
コーチングスキルの一つ。

自分の外側に、もう一人の自分を置いて、
他者とのコミュニケーションについて、客観的に見直すスキルです。

コーチングでは、
クライアントが話し続けた後や、
長い対話が一段落した時などに
「話してみて、いかがですか?」といった形で使います。

このようにコーチが問うと、
クライアントは、懸命に考えたり、言語化したりしていたモードから
ふと切り離されます。

こうした時間を持つことで、クライアント自身が、
客観的な意識でコミュニケーションを振り返る機会を得ることになり、
改めて自分にとって大事なことや必要なことを
把握し直すことができるのです。

Aさんは次のように取り組み始めました。

しばらく相手の話にぐっと集中して聞いたら、
心の中で
「ここまで『聞いてみて』どうかな」と自問自答する。

まず、意識を外側に置いて考えるようにしたそうです。

メタコミュニケーションを活かしたこと、
そこに仕事に対する慣れも相まって、
次第にストレスは軽減され、部下に権限を委譲することに成功。
Aさんは一段高いリーダーへと変わっていきました。

Aさん自身は、
マインドフルネスの訓練を受けていたわけではありませんが
コーチングスキルであるメタコミュニケーションを活かすことで
同じような効果を得ていたのかもしれません。


グローバル化やSNSの普及、価値観の多様化など、
企業を取り巻く状況は複雑化しています。

ロンドン・ビジネス・スクールのリンダ・グラットン教授は、

リーダーに求められるのは、
社内で働く存在を示すことではなく、
社外に出て世界でどのように立ち振る舞うかということ。

より賢い群衆となった部下の協力者として
責任を持てる存在だと、著書の中で述べています。(※3)

集中力を高めつつも、今よりもう一段高い視点で
自分自身と、自身を取り巻く状況を広く把握し判断することが
求められていく、ということなのでしょう。

意識の「集中」と「解放」は、
今後のリーダーにとって価値ある訓練の一つになるかもしれません。

【参考文献】
Amishi P. Jha, March/April 2013,
Being in the Now. Scientific American Mind,
24, 26 - 33. doi:10.1038/scientificamericanmind0313-26

【脚注】
※1 『日経サイエンス』, 2015年1月号
※2 「グーグル、インテル『瞑想』の効用」, 2014.10.15, 日経ビジネスオンライン
※3 リンダ・グラットン, 2014.8.7, 『未来企業』, プレジデント社

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。

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