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経験 vs 学習
コピーしました コピーに失敗しました先日、米国通商代表部の日本担当部長やエアバス・ジャパンの会長を歴任し、現在アメリカ進歩センターのシニアフェローを務められている日系3世のグレン・S・フクシマさんとお話しする機会がありました。
経験は大事だが、これだけ変化の激しい時代にあっては、行動力や新しいことを学ぶ力、吸収する力の方がリーダーの能力として求められている、ということだそうです。
そうした考えからか、シンクタンクなどでは、40代の人を優先してリーダーのポジションにつけ、60代の人は後回しにされる、と60代のフクシマさんは少し苦笑いしながらおっしゃっていました。
もちろん大事なのは「学ぶ力」なわけですから、60代の人の方でも、それが高ければ選択肢となることは言うまでもありませんが。
サーチ会社、コーン・フェリーのレポート"The agile enterprise" (俊敏な企業)でも、「学習の俊敏さ(learning agility)」は、IQやEQ、あるいは学歴よりも「リーダーとして成功するか」を予測する有効なツールになっている、と述べられています。
私たちがエグゼグティブ・コーチングを実施するときには、クライアントの上司にあたる方からクライアントに対する期待についてヒアリングすることがあります。
この1か月の間に、異なる会社の上司お二人から、好対照な意見を聞きました。
かたや、長い歴史を誇る大企業の専務。かたや、新進気鋭の新興企業の専務。
ヒアリングの対象となる私のクライアントは、ともに新任の執行役員で、いずれも優秀なマネジメント能力を有しています。
大企業の専務の方は、こう言いました。
「私の本心は、彼に本当にコーチングが必要なのか、ということなんです。コーチングは『視点を変える』と言いますが、そもそも、彼はすでに能力があって役員になったわけですから」
一方、新興企業の専務は、次のように言いました。
「彼は非常に能力が高い。でもそれは、この会社で、このポジションに上るまでの優秀さだと思うんです。今後は、経営者として、より外にネットワークを作り、外で学んだことを会社に活かせるようになってほしい。でなければ、他社との競争に勝ち残っていけません。エグゼクティブコーチの鈴木さんには、そこを支援してほしいと思います」
たまたまかもしれませんが、前者の企業は今、思ったような成長ができず苦戦していて、後者は破竹の勢いで快進撃を続けています。
私の知る限り、大きな成長を遂げている企業の経営トップは、とにかくよく外に出て、人に会いに行きます。経済人の集まりなどで、たまたま出会った人と話すのではなく、自ら狙いを定め、会いたい人に、直接会いに行く。そして、その人からたくさんのことを学ぼうとする。
常に新しいチャレンジを続けているアパレルメーカーの経営トップの方も、ある時、日頃から尊敬するグローバル企業の経営者にブランド戦略を学びたい、と思い立ち、矢も盾もたまらず自ら海外に赴き、直接話を聞かれたそうです。
私がお付き合いのあるコンサルティング会社の社長は、「東京に住む最も大きな利点は、たくさんの会いたい人に会えることだ」と断言します。彼は「必ず、週に1人新しい人に出会う」と決めて、それを実践しています。その数、年間50人! 本を読んで「会いたい」と思ったら、手紙を書く。書き方のノウハウはあるのかもしれませんが、「ちゃんとお願いすれば、だいたい会ってもらえるよ。そして、みんな親切にこちらが知りたいことを教えてくれる」と。
大企業の社内ベンチャーで、この5年間に3つの事業を起こした方がいます。
「どうしてそんなに次々と違う事業を立ち上げられるんですか? コツがあるのですか?」と聞くと、その方は、「とにかくたくさんの人に会いに行って、いろんなことを教えてもらうことですね」と、さらりとおっしゃいます。
変化の激しい経済環境の中でリーダーとして成功するには、常に学び続ける高い「learning agility」が求められています。
脳のシナプスを活性化させ、一気に学習を加速させるのが「人との出会い」なのです。
うまくいっているリーダーは、常に「誰から学べるだろうか?」という問いを自分の中に「内在化」させて、頻繁に起動させているように見えます。
一方、スタックしやすいリーダーは、「過去にどういうやり方で自分はこの状況を乗り越えただろうか」と、自分の経験にアクセスし続ける。
まさに、自分の経験を「過大評価」しているわけです。
自分の経験にアクセスして、何か足りないと思ったらすぐに踵を返して、「誰に学べるだろうか?」という問いを駆動させる。この切り替えの速さが、「learning agility」につながるのだと思います。
職人として何かを極めるのであれば、自分の経験を元に、自分の手先を、体を、動かして乗り越える、でいいのかもしれません。
しかし、この時代のリーダーは、それでは務まらないように思います。
みなさんも、時間があるときに、日ごろ「なんとかしたい」と思っていることを10個列挙してみてください。
そして、そのひとつひとつに対して、誰から乗り越えるための方法や考え方を学べるか、名前を書き出してみてください。
制限を外して、「そんな人には会えないよ」という人まで入れてみてください。会おうと思えば、きっと会えますから。
もちろんその人は、とても身近にいる誰か、かもしれません。
MITラボのアレックス・ペントランド博士が言うように、「最高のアイディアを持っているのは、最も頭のいい人ではなく、最高のアイディアを引き出すことができる人」なのですから。
【脚注】
※1 Korn Ferry, 2014, "The agile enterprise", Korn Ferry Institute
※2 Pentland, Alex, 2014, "Social Physics", The Penguin Press
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