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システミック・コーチング™

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「仕事ができる」ということと、「リーダーシップ」という能力は別のものです。そして、現在は、その両方が求められる時代に入りました。

エコノミスト誌のリサーチ部門Economist Intelligence Unitが、日本で展開している多国籍企業の上級管理職180名に実施したサーベイによれば、日本人社員の「専門技術(technical skills)」に関しては、多国籍企業の60%が「満足」していました。

しかし、日本人の「リーダーシップ」に「満足している」と答えたのは32%で、彼らの「マネジメント能力」に「満足している」のも、わずか34%という結果になりました。(※1)

堺屋太一氏は、かつて、著書『組織の盛衰』の中で、次のように書いています。


「今日の日本人は、『戦後』という特定の時代に長く生きてきた。その間に、この特定の時代を『当たり前の状態』と思うようになった。そんな日本人が寄り集まって作る組織も、『戦後』の環境に適応し、それ以外を考えなくなってしまった。私の組織論の研究は、断続的ではあったが、既に二十年を超えた。その間に社会も技術も、世界も経済も、様々に変わった。ただ日本の組織だけは基本的に変わっていない。むしろ、戦後という特殊な時代にますます過剰に適応しているように見える。冷戦構造と高度成長という環境の中で、あまりにも多くの成功体験を積み上げてきたからである」と。(※2)

本書は1993年に出版されたものですが、いまだに、この傾向は続いているように思います。

「戦後」という環境が、個人と組織に刺激を与えたおかげで、ビジョンやミッションの共有も無理なくできたでしょう。方向性を示すリーダーやリーダーシップが無くても、同じ方向を向くことを可能にしたでしょう。

日本の組織の特異性とその課題

日本の組織の特異性については様々な見解がありますが、今ある課題の一つは、「リーダー/次世代リーダーの開発の遅れ」にあります。

「リーダーの条件」について質問を受ける機会がありますが、私の答えの一つは、「次のリーダーの開発にすみやかに着手している人」です。

しかし、企業もリーダーを必要としていて、リーダー開発を急務と考えていながらも、結局これまでのやり方から抜け出すことはありません。

競争に勝ち残った者を選ぶ、または、自分の経営方針や哲学を踏襲する者、あるいはこれまでの業績などと「リーダーとしての能力」を識別しているわけではないのです。

「世の中では、組織に属する個人が優秀なら、その組織は優秀だと錯覚し易い」(※2)とは、上述の堺屋太一氏の言葉ですが、コッター・インターナショナルの Justin Wasserman 氏も、「リーダーシップは、組織コンピテンシーである。個人のコンピテンシーではない」(※3)と書いています。

「一人ひとりの『リーダーシップ・コンピテンシー』を積み上げていっても、それは、『組織コンピテンシー』にはならないのである」と。(※3)

残念ながら、欧米や日本のコーチングにおいても、「リーダーシップ」を「組織の現実」から切り離し、個人の「リーダーシップ・コンピテンシー」を棚卸し、それをインストールすることに大きな比重が置かれています。

しかし、一人のリーダーの能力を最大化するということは、組織から切り離した文化的孤島で開発されることではなく、同時代性の中で開発されるものだと思います。

「リーダー開発」と「組織開発」、「風土開発」は、分けては考えられません。

リーダーを組織から切り離して開発する試みがなされるケースがありますが、リーダーは、組織を俯瞰することはあっても、また、現場を離れることはあっても、そのダイナミズムの中に「在る」ことに変わりはありません。

リーダーが「組織」を考えるとき、二つの視点を持つことを、ソニーコンピュータサイエンス研究所の桜田一洋先生から教えていただきました。

「外部観察者視点」と「内部観察者的視点」

一つは、「外部観察者視点」、 もう一つは、「内部観察者的視点」。

「外部観察者視点」は、「機械的視座」としても考えることができます。

例えば、半導体を、エンジニアが設計する。それと同じように、組織もエンジニアのように「設計」することを意味します。

しかし、「組織」を、設計・デザインするリーダーや経営者は、機械のエンジニアとは違い、その組織の「一員」なのです。

「内部観察者的視点」に立てば、「組織開発」や「組織変革」は、エンジニアが機械を設計するようなものではなく、「同時代的」な感覚を研ぎ澄まし、探索的に、その場でコミュニケーションを交わし、神経回路を開き、相互作用を起こしつつ、未来を予測し、現実化させていきます。

桜田先生はこのことを、言語学者池上嘉彦著『日本語と日本語論』の(※4)川端康成の「雪国」を用いて説明してくれました。

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」

これを読んだときに、自分も汽車に乗っていて、長いトンネルを抜け、自分の目の前に、雪景色が広がってくるのを窓越しに観る。これが、「内部観察者視点」。

それに対し、自分は、ヘリコプターに乗っていて、汽車がトンネルから出てくるところを上空から観ている。それを「外部観察者視点」と言っています。

「リーダー開発」と「組織開発」を分離させることなく、自分も汽車に乗って、組織を汽車に乗せた状態でデザインする、その一連のプロセスを推進することを目的としたものを、「システミック・コーチング™」として私たちは開発しました。

コーチングの用途は多角化しており、どれも同じコーチングとして評価することはできなくなってきています。その中にあって、効果的なリーダー開発に向けられたコーチングの開発は、エビデンスを基に、実現しつつ有るように思います。

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【参考資料】
※1 Economist, 2011, Multinationals in Japan: Addressing the human capital challenge, Economist Intelligence Unit Limited

※ 2堺屋太一(1993)『組織の盛衰 ~何が企業の命運を決めるのか~』(PHP研究所)

※3Wasserman, Justin, 2014, With Leadership Development for All, MediaTec Publishing Inc.

※4池上嘉彦(2007)『日本語と日本語論』(筑摩書房)

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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