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相手の貢献をリストアップする

相手の貢献をリストアップする

事業部長のA氏は、あるミーティングの場で、
1年間の活動を総括しました。

将来の見通しや、直面する課題について
一通り概観すると、最後に、その解決責任こそが、
自分と、ここに集まるリーダー全員の役割だ、と伝えました。

その場には、ピンと張りつめた厳しい緊張感が走りました。

次に、A氏は、この組織の足跡を語りはじめました。

これまで、何をしてきたのか、
どのように現在位置まで辿りつけたのか。
「誰がどんな貢献したか」、
一つひとつを、バイネームで次々と列挙しながら。

退職した社員を含め、20名を超える人の名前が登場しました。
参加者は、それに聞き入りながら、徐々に頷き始めました。

一人ひとりが、どのような貢献を残してくれたのかが言及されました。

当初の緊張した場の空気は一変。

人の名前と貢献が語られる毎に、頷きの数は増え、
会場に一体感が充満しました。

A氏は、厳しい。
しかし、彼の元には人が集まる。

その理由が良く分かった瞬間でした。

実は、数年前までは、A氏も「人心掌握」に苦労していた時期がありました。

「伝えることは十分伝えた。
 与える環境も、十分に与えた。
 それでやれないのは、彼らの意識と能力の問題だ」


強く言い切るA氏からは、常に部内への欲求不満が伝わってきました。

自分は相手のことを考えているが、
自分は周りから理解されていない。

「リーダーの行動リスト」には多くのチェックが入るが、
「メンバーの貢献リスト」は空白だらけ、そういう印象でした。


そもそも、人には、「相手の貢献に比較して、自分の努力を高く見積もる」
という性癖があるようです。

心理学の言うところの「責任のバイアス」というものです。

例えば、カップル同士で、お互いに対する具体的な貢献度をリストに挙げた場合、
一般には、自分がしたことは平均11個書けるが、
相手のしてくれたことは8個しか書けないと言われます。

このように、我々は、「相手に対する自分の貢献度合い」を過大評価し、
相互に「分かり合えない」という状況に向かって行くのです。

自分の努力に関する情報量と、他者の努力に関する情報量には、
当然、格差があります。

その中で、自分を良く見せたい気持ちが拍車をかけるのです。

1年間の総括の場でのA氏の言動は、
まさに「責任バイアス」から逃れる工夫が盛り込まれていたのです。

ある、サービス業のトップセールスに調査をしたことがあります。

1,000人超のセールス部隊の中でも、
平均の4倍以上の売り上げを上げる
「トップ5」の猛者達への調査でした。

共通項は、単純でかつ印象的でした。

「周りのおかげです」

その言葉を、「心の底から」語っていました。

インタビュー時間の大半は、
バックオフィスの人たちがいかに有能か、
ということを聞く時間だったのです。

ナンバーワンの女性が教えてくれたことも
興味深いものでした。

自分で頑張っていた頃は、そこそこの成績だった。
が、あるクレーム対応をきっかけに
バックオフィスの協力の重みを感じ、以降、
お客様に対するのと同じように社内の彼等の元を訪れ、
貢献への感謝を伝え続けて来た。
そこから流れが変わった、というものでした。


A氏の転機も、「相手の貢献」を全面に出すことから始まりました。

コーチングで実施した360度フィードバック。
「結果をどう活かせるのか」を考えた上で実施した、
あるちょっとした行動がきっかけになりました。

「フィードバックで発見した自分の強みと弱み、
 そして今後の課題を部下たちに発表する。
 そして、変化のきっかけを与えてくれた『部下の貢献』に感謝を伝える」
というものでした。

自分がどれだけやっているか、という
「自分が払っている努力」を脇に置き、
あなたの何が自分の役に立っているか、という
「他人の貢献」に着目したのです。

そして、この小さな行動が、職場に違った流れを引き起こしました。

以降、A氏は、部下から声を掛けられることが増え、会話を通じて
「自分が、A氏からどれ位助けられているかを理解していなかった」という
言葉を多数聞くようになったのです。

人との関係で、今の「枠組み」から離れてみたいとき、
「自分の払った努力」の前に「他人による貢献」に
着目してみてはどうでしょう?

相手のしてくれたことを「11個」+「1個」挙げてみるだけです。
シンプルですが、パワフルな変化をもたらすかもしれません。


【参考文献】
『GIVE & TAKE ~「与える人」こそ成功する時代~ 』(三笠書房)
アダム グラント(著)、楠木 建 (翻訳)

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