Coach's VIEW

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「はじめに」からはじめよう

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ある情報通信業CEOのKさんは、社員からの信頼の篤いリーダーです。

「部下に、『最近、社員のカジュアルデーの服装が少し乱れているね』と言ったら、しばらくして、重厚感ある『カジュアルデー"HOW TO" マニュアル』が出てきたんですよ」

と、エグゼクティブ・コーチングの中で苦笑しながら話されました。

ジーパン姿の社員がたまたま目にとまり、コメントしただけだったそうです。

マニュアルには、夏場の袖の長さ、爪やマニキュア、サンダルや靴、髭のことまで、こと細かに書かれていたそうです。

「マニュアルなど作っているようではダメだ。一人ひとりが自律的に考え、現場現場で判断できる集団でなければ、とてもグローバルでは戦えない」

Kさんは、経営陣や本社主導で判断し、指示するこれまでのやり方の限界を懸念されています。そして、社員が本質を深く考えることなく、すぐに【HOW TO】に落とし込みたがることをなんとかしたい、と。


私たちは、ややもすると、すぐに【HOW TO】を考えたくなります。それはなぜなのでしょうか。また、なぜそれではいけないのでしょうか。

サイモン・シネック(※)は、著書や講演で、次のようなことを述べています。

企業や組織が、「自分たちのサービスやモノ【WHAT】」、あるいは「手法【HOW】」といった、見た目に分かりやすく、明確なものから伝えたくなるのは当然である、と。

しかし一方で、人は、「何を【WHAT】」や「どのように【HOW】」だけでは動かず、知らず知らずのうちに、その根底にある「なぜ【WHY】」につき動かされる存在である、と。

実は、4年前のKさんは、エグゼクティブ・コーチングでの社員インタビューで、 こんなことを言われていた役員でした。

「Kさんには、細かいことでなく、大きな方向性や、ご自身がどうしたいのかを語ってほしい」

-会議室の椅子は、この色にしよう!
-提案書のフォントはこれに統一だ。
-〇〇会社への提案には長年の付き合いがある私が行こう。

当時、Kさん率いる本部では、方向性やビジョンなどが示されないままに、Kさん自らが【HOW(どのように)】ばかりを提示していたことが分かってきました。そして、職場の活性度は、今では考えられないほど、低いものだったのです。

サイモン・シネックは、次のようにも言っています。

顧客に選ばれるためには、あるいは、リーダーが社員をインスパイアーしていくためには、まずは、企業や組織の理念や大義、あなたの存在意義である【WHY(なぜなのか)】を明確にし、その次に【WHY】と整合性のある【WHAT(何を表現したいのか)】や【HOW(どのように)】を考え、伝える。まずは【WHY】からだ、と。

あの頃のKさん。部下の声をまとめたレポートを読みこみながら、考えました。

「彼らは僕に、社史の『はじめに』みたいなものを語れ、と言っているのではないか。なぜ、この色を会議室の椅子に選ぶのか、提案書のフォントはなぜこれなのか、『なぜ』が共有されないから、すべて細かな指示になる。僕の役割は、『僕や本部、会社が大切にしているもの』、つまり、このビジネスの『意義』を共有していく、ということなのかもしれない」と。

Kさんはその後、「はじめに作戦」と銘打ち、さまざまな場で、部下たちに【WHY】を伝え、共に考える場を創ってきました。


あれから4年。CEOになったKさんは、熾烈なグローバル競争に晒されながら組織全体の意識改革に挑んでいます。

先日、20人ほどの次期経営層を集めた1日がかりのワークショップに参加させていただきました。

終盤、Kさんは自らが実現させたい組織ビジョンを掲げながら、

「ところで、この変革に、あなたが参画する意味・意義はなんですか? 『あなたにとって』を聞かせほしい」と、参加者一人ひとりと、丁寧に、かつエネルギッシュに関わりました。

聞かれた皆さんは、少し緊張しながらも、だんだん言葉が紡ぎ出されていきます。そして、少しずつ場の空気が高揚していくのが分かりました。

Kさんはいま、次期経営層の意識改革に成功しつつあるように感じます。


後日談があります。

Kさんが、「例の『カジュアルデー"HOW TO"マニュアル』を採用することにしました」と。

私が驚いていると、

「あれ、冒頭に『はじめに』があるのですね。あれを作った社員達に、そこだけを採用して、現場で意見交換してこい、と言ったんです。『はじめに』以外は絶対しゃべるなよ、ってね」

「あ、これもHOW TOですかね」と笑いながら。

次は、社員たちが周りや部下との間で、どれくらい「はじめに作戦」を展開できるかが試されているようです。

あなたは、社員や部下をインスパイアーするためにどんな【WHY】を問いかけ、どれくらい扱っていますか。

【参考資料】

※『WHYから始めよ!―インスパイア型リーダーはここが違う』(日本経済新聞出版社)
サイモン・シネック (著), 栗木 さつき (翻訳)

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。

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