Coach's VIEW

Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。


リーダーが次のリーダーを開発する

リーダーが次のリーダーを開発する
メールで送る リンクをコピー
コピーしました コピーに失敗しました

次世代リーダーである経営幹部候補者を開発するために、経営者のみなさんは今、何をされていますか?

私のエグゼクティブ・コーチングのクライアントである経営トップの方は、多くが、「次世代リーダーの開発」をテーマとされてます。

エグゼクティブコーチとの対話によるセッションの中で、自分がどのようにその幹部候補者に関わり、どのような影響を与えることが効果的なのか、自身の考えや思考を深め、戦略を実践していきます。

さまざまな対策の中でも、とりわけ重要なのが、経営者が候補者と「直接対話」していくことです。

「対話」では、
・リーダーシップというものをどのように捉えているか?
・それはなぜか?
・それはどのように機能するのか?
・これから自分は、具体的にどのような行動をしていくのか?
など、次世代リーダーが、「自分が体現しようと考えるリーダーシップ」について 言語化し、実際の行動を促進していく場となります。


「リーダーシップの言語化」に関して、神戸大学の金井壽宏教授は、次のように述べています。

「注目しておきたいのは、リーダーシップの持論を語ることがもたらすコミットメント効果である。ここでコミットメントとは、本気でやるぞという言質にほかならず、公言することで生まれる真剣なかかわり合いのことを言う。(中略)持論を語ることには、学習促進効果と本人へのコミットメント効果がある」(※1)

ある大企業のA社長の事例をご紹介します。

A社長の会社には、業績面で圧倒的な実力を誇るBさんがいました。A社長は、Bさんを将来の経営幹部にすることを意図して、事業部門長に抜擢しました。

しかし、Bさんは、部下や他部門の幹部から「高圧的な人物」と言われるなど、360度フィードバックの評価も良くない状況だったため、抜擢と同時に、社長自らBさんの育成に関わることにしました。

A社長はまず、自分にエグゼクティブコーチをつけました。

その一環として、A社長自身の経営者としてのあり方や組織の状態、次世代を担うリーダー層の意識や行動の状態をリサーチしました。

リサーチ結果を踏まえたコーチとの「対話」で、A社長は、自分の組織への影響力を振り返りながら、自分が何をして、どのようにリーダーシップを発揮していくのかを自分の言葉で言語化し、行動を起こしていきました。

行動のひとつに、Bさんを含む直属の部下と「対話の時間をもつ」ことを盛り込みました。

半年後、直属の部下に行ったアンケートでは、
・「A社長は、私と定期的に1対1で話す時間をとっている」
・「A社長は、私の統括組織への思い、成長の期待を伝えている」
・「A社長は、私の統括組織が目指すべき事について考えさせる質問をしている」
などの項目が、開始前と比べて、倍以上に評価が上がりました。

Bさんとの「対話」の場で、A社長は何をしていたのでしょうか。

経営やリーダーシップについて、Aさん自身の考えを語る一方で、Bさんにも、Bさん自身が目指すリーダーシップについて考えさせていたのです。

Bさんは、考え、言葉にしたことを行動に移し、A社長との「対話」の中でその結果について考えを深め、また新たな行動をする、という取り組みを継続していきました。

対話をスタートした半年後には、Bさんの部下や他部門の幹部に実施したアンケートでは、「Bさんは、部下や同僚と分け隔てなく接している」という項目について、「100%実践している」という結果が出るまでになったのです。

それは、業績面の成果にも表れました。

周囲との関係性に変化が起こったことで、自部門と他部門の連携による、これまでにない新しい事業の取り組みで実績が出てきたのです。

いま、A社長のこの会社では、組織力を更に高めていくために、次世代リーダーが部・課長と「対話」し、さらに、その部・課長が、現場のメンバーと「対話」するという新たなプロジェクトがスタート、組織全体で、次のリーダーの開発を実践しています。


私は、企業においては、経営者から経営幹部、ミドルマネージャー、現場メンバーへと、「リーダーが次のリーダーを開発する」という、「対話の連鎖」が組織風土として体現されると、とても強い組織力を生み出すと考えます。

それにはまず、経営者が「自分の次」のリーダーを開発するための「対話」をすることが起点となります。

GEの元会長のJ・ウェルチは、会社を変革させるリーダーシップを連鎖させていくためのカルチャーづくりをしていました。

金井教授は、著書で以下のように紹介しています。

「自動車にエンジンが備わっているおかげで動けるように、ある組織体に組織を動かすリーダーシップのエンジンが存在するとしよう。その所在が、偉大な創業者やその時点のCEOだけであったらだめだ。彼らは、いつか組織を去る。(中略)GEにリーダーシップのエンジンがあったとしたら、それはウェルチ個人のなかにあるのではなく、世代間でリーダーシップが連鎖して生まれていく仕組みのほうを指す」(※2)

ビジネスを変革させ続ける強い組織力を生み出していくために、あなたは今、誰とどのような「対話」をしていきますか?

この記事を周りの方へシェアしませんか?


【参考文献】
※1 金井壽宏 『リーダーシップ入門』 日本経済新聞社、2005、pp.169-171
※2 金井、前掲、p.155

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

権限移譲/後継者育成

コーチング・プログラム説明会 詳細・お申し込みはこちら
メールマガジン

関連記事