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リーダーは意図して「小さな勝利」をつくりだす

リーダーは意図して「小さな勝利」をつくりだす
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ハーバード大学のテラサ・アマビール教授は、ビジネスパーソン238人を対象に、その日の感情と仕事の進捗を7段階で評価する日記をつけてもらいました。最短で3か月、長くて1年間のデータです。

結果は、全般的に気分が良くなればなるほど創造性は上昇し、生産性も高まります。そして、不機嫌な気分の日に比べ、気分が良い日には、創造的なアィデアが生まれる可能性が50%ほど高まると報告しています。

では、どんなことが、人の気分を良くしていったのでしょうか。

その要因は大きく3つに分かれます。
一つ目は、仕事で必要な支援を受けること。
二つ目は、褒められる、激励を受けるなどの経験を持つこと。
三つ目は、仕事上で小さな成功を得ることでした。

ここで注目したいのは、最も気分が良くなることに効果があったのは、褒められることや支援を受けることよりも、「小さな成功を得ること」でした。

報告では、小さな成功を体験した人の76%の人が最も気分が良くなり、それに比して、支援を受けることは45%、褒められることは25%にとどまっていました。

すなわち、人は小さな成功体験を得れば得るほど、「生産性」や「創造性」が高まる可能性が高いということです。

小さな成功体験は、脳内にドーパミンという報酬物質を放出し、喜びをもたらします。それが、困難な状況でも、やる気を引き出す原動力にもなります。

それにも関わらず、管理職700名に対するある調査では、小さな成功を体験できる支援が、メンバーを動機づける大切な関わりであることを意識していた管理職は、約5%程度だという報告があります。

私たちはつい、長期的な目標の達成や大きなブレークスルーを求めるあまり、その通過点である、小さな成功体験をないがしろにしてしまうことがあります。だとしたら、現代のように、何が正解かわかりにくく、大きな成功にはいくつもの困難が伴うような経営状況下では、リーダーが、意識してメンバーから小さな成功を引き出すことが、組織の「生産性」や「創造性」を高めるひとつの方法といえます。

私のエグゼクティブ・コーチングのクライアントであったある本部長は、売り方やターゲットなど、大きな戦略変更を伴う営業変革のプロジェクトリーダーでした。

コーチングを進めていく中で本部長は、この大規模変革を一気に進めると、メンバーの混乱や抵抗を招き、変革のスピードを遅らせる可能性すらあることを懸念していました。

そこで、本部長は「新規の顧客に対して新商品販売を40%拡大する」というチャレンジングな目標を、「新規顧客へのアプローチを現行の3倍にする」といったいくつもの小さな目標に分け、メンバーに明確に提示しました。

さらに、マネージャー層には、メンバーに関わる際、「新しいお客さまに会うために、まずは『何』をするのか?」「『何』があれば、お客様は新しい商品に興味をもってもらえるか?」など、「何?」という問いかけを通して、具体的、かつ達成可能な行動を引き出すことを促しました。

複雑で大きな目標に取り組むには、「何」という問いかけが有効であることは、 社会心理学者で目標達成研究の権威であるハルバーソン博士が唱えています。

「何」という視点が、目標に至る行動を細かいステップに分けていくからです。

また、時に現場を回りながら、
「今日の私たちの勝利は『何』?」
「ここまで、達成できたことは『何』だろうか?」
「今日の自慢は『何』?」
など、ささやかな成功体験を引き出すために、意識して『何』を使った問いかけをメンバーに投げかけていました。

本部長の問いかけは、体験している本人でさえ気づいていない、ささやかな成功体験に光をあてるものでした。

本部長曰く「今日の小さな勝利が前に向かう原動力になる」

実際、その営業組織では、変革に伴う抵抗や混乱は少なく、変革を自分のものとして前向きに実行していくメンバーの姿がありました。

時には、「こうやったらもっとうまくいく」などの新しい提案も現場から出てきました。

結果として、30個を超える変革のポイントをすべてクリアし、新しい営業のシステムやスタイルで事業を活性化させていきました。

成功は、どんなに小さなものでも、私たちを無力感から解放し、自己効力感を高めていきます。

今日の小さな勝利が明日の勝利を創り出す。

リーダーは、チームを大きな勝利に導くために、今ある「小さな勝利」をメンバーから引き出す存在と言えます。


【参考文献】
T.A.Amabile and S.J.Kramer,
"The Power of Small Wins,"Harvard Business Review, May 2011

『やってのける ~意志力を使わずに自分を動かす~』(大和書房)
ハイディ・グラント・ハルバーソン、児島修 (翻訳)

『変革の知』(角川新書)
ジャレド・ダイアモンドほか(著)、岩井 理子 (翻訳)

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。

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