Coach's VIEW

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変革のステップ

変革のステップ

春の異動を受け、新天地での生活を
スタートされた方も多いのではないでしょうか。

最近は、組織に求められる変革の規模が大きくなり、
人の異動も、よりダイナミックに行われているように思われます。

ダイナミックな異動は、異動する一人ひとりにも
ダイナミックな変容を求めることになります。

以前、初めての海外赴任、
しかも、買収した現地企業との合弁会社の建て直しという
これまでに体験したことのない大役を任されたAさんがいました。

目下の目標は、「単年黒字化」。

Aさんは、この機会を経営を学ぶ素晴らしいチャンスだと捉え、
意気揚々と飛び立ちました。

ところが、、、つたない英語による
現地部下とのコミュニケーションは
誤解ばかりが発生し、業務が前に進みません。

合弁企業との契約の交渉も、本社の理解と同意が一向に取れません。

そして、受注もなかなか上がらない状態が続きました。

Aさんは徐々に、何かにつけて、

「やっても無駄だ」
「自分には無理だ」

と思うようになったといいます。


私たちは、「自分の行動が機能していない」
という感覚が続くと、漠然とした無力感に襲われるようになります。

米国の心理学者マーティン・セリグマンが発表した
「学習性無力感」という概念があります。

実験で、犬にベルの音を聞かせた直後、不快な電流を流します。
犬はそのとき、囲いに入れられており、そこから逃げることができません。

それを数回繰り返すことで、
「ベルがなると電流が流れるが、逃げられない」という
「条件付け」をします。

しばらくは、その環境から何度も逃げようとしていた犬も、
ひとたび「条件付け」をされてしまうと、
逃げることが可能な場所に移されたとしても、
「逃げる」という行動を取らなくなるのです。

つまり、「学習性無力感」とは、
困難なストレスにさらされ続けると、
その状況から逃れようという意欲や行動すら起こらなくなる、
という現象をさします。(※1)

この現象は、私たち「人」にも同様に起こりうることが、
その後の研究者たちに検証されています。(※2)

行動することをあきらめてしまえば、
当然、目標としていた結果は手に入りません。

しかし、「学習性無力感」の最も重大な問題は、
「結果が出ない」ということよりも、
むしろ、人が無力感を「学習する」過程で
自発性そのものを失ってしまうことにあります。

成長に向けてダイナミックな変革にチャレンジする人材は、
組織が最も求める存在です。

ところが、与えられた目標が大きすぎたり、
難しすぎたりすることによって、
その人の意欲と自発性自体が失われてしまっては、
損失は計り知れません。

もし、「やっても無駄だ」「私には無理だ」という
台詞が浮かんでしまったら、
いち早くその状態から抜け出す必要があります。

その台詞が頭の中に充満し、無力感を学習してしまう前に。


社会心理学者で、コロンビア大学ビジネススクール・
モチベーションサイエンスセンター副所長を務める
ハイディ・グラント・ハルバーソン氏は、
目標達成のメカニズムにおける研究の第一人者です。

「ダイエットをする」ことに対して、
「食べる量を減らす」よりも、「1日1500キロカロリー以下にする」という
計画を立てた人の方が、食べる量は減る。

「レポートを提出する」ことに対して、
最終期限のみ伝えた学生よりも、
「いつ、どこで、どのくらい作業をするか」の計画を立てさせた学生の方が
期限内の提出率が高い。

など、数々の実験を行っています。

それらを通して、ハードルの高い目標に対しては、
行動計画を具体的に細かく噛み砕く方が、
行動率も目標達成率も上がることを証明しています。(※3)

冒頭のAさんは、計画の立て方を見直しました。

月の数字・行動目標を立てていた習慣を改め、
1日の行動目標まで落とし込みました。

・今日は、合弁企業側の副社長と30分話す
・今日は、本社の開発部長を電話で捕まえ下打合せをする
・今日は、本社向け説明資料作成に着手する

黒字化を目指すためには重要な基盤となるにもかかわらず、
おざなりにしてきたと思われるものから、優先的に計画に落とし込みました。

何も考えず行動に移せるレベルで具体的に落とし込み、
確実に実行することに専念しました。

1ヶ月ほど経つと、
「物事が進んでいる手ごたえを感じられるようになった」といいます。

実際に、合弁企業の関係者との関係性にも変化が見られました。
合弁企業の役員が、本社との電話会議に、
一緒に参加してくれるようにもなりました。

Aさんに、再び大きな目標に向かって
チャレンジするエネルギーが、補給されたようでした。

ダイナミックな変容には、新しいことにチャレンジする勢いが必要です。
ただし、チャレンジし始めたことを、継続していく力も求められます。

最終的な目標の達成だけを「達成」とみなすのではなく、
その道のりに、いかにたくさんの達成感や満足感を自ら作り出していけるか。

これが、最終的に自分の変容を支え、
組織に変革をもたらすひとつのポイントになるのではないでしょうか。


【参考資料】

※1『無気力なのにはワケがある―心理学が導く克服のヒント』 (NHK出版新書)
大芦治 (著)

※2『人を伸ばす力―内発と自律のすすめ』(新曜社)
エドワード・L. デシ、リチャード フラスト (著)、桜井茂男 (翻訳)

※3『やってのける ~意志力を使わずに自分を動かす』(大和書房)
ハイディ・グラント・ハルバーソン (著)、児島 修 (翻訳)

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。

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