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アクセシビリティを高める

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先日、急成長を遂げる日本企業3社のグローバル人事部門の方々と、グローバル人材の開発について勉強会を行いました。

この3社は、グローバル展開を急加速しており、若手をいち早くグローバル人材に育て上げるという共通テーマを持っています。

勉強会の前日、外資系コンサルティングファームの社長さんとお会いする機会があり、勉強会のヒントになる視点を得られないかと、質問をぶつけてみました。

「どういう人がグローバルで活躍できると思いますか?」

社長は間髪いれずに、一言。

「明るい人ですね」

相手は、泣く子も黙る、ファームの社長。

ストラテジックに「○○ができること」とか、「プライマリーには○○」といった難解なカタカナ用語などが出てくるのかと思いきや、シンプルにただ一言、「明るさ」と。

この社長さんのファームでは、20代のトレーニーを海外の現地企業に派遣するなどして、グローバル視点を学ばせるということをするようです。

東南アジアに派遣したトレーニーの様子を見に行ったときのことを話してくれました。

トレーニーの女性は、現地企業のマネジメントチームからの評判がとても良く、まさに「人気者」という言葉がふさわしい状態でした。

いつもニコニコ笑っていて、下手な英語でどんどん周りに自分から話しかけに行く。その姿を目の当たりにし、海外で生き残るには、「明るさこそが大事だ」と社長は確信するに至ったそうです。

先月、世界経済フォーラム主催の「東アジアダボス会議」に出席するためジャカルタに行きました。

700人の出席者のうち、日本からは70人が参加。多くの参加者が日本人同士で固まる中、異彩を放っていたのが、あるベンチャー企業の女性社長でした。

彼女は、とにかく、いつでも笑っていました。

はち切れそうな笑顔をずっと携えている。だからなのか、いろいろな国の人が次々と彼女に話しかけにくるわけです。

日中姿を見ないな、と思っていたら、夕食時に、「たまたま声をかけられた人と盛り上がってしまって、一日中、商談してました。いい仕事になりそう」と。

逆のケースとして、大手監査法人の理事長に、次のようなお話を伺ったことがあります。

提携している海外の会計事務所に若手を送る制度があるのだが、最近、相手先から「もう送らないでくれ。現地の企業との関係が悪くなるから」と言われて困っている、と。

理由を聞くと、これまた一言。

「暗いんです」

グローバル人材の要諦を、「明るいか暗いか」だけで語っていいのかわかりませんが、一つ言えるのは、明るいと、周りからの「アクセシビリティ」が間違いなく高くなる、ということです。

要は、周りが近づきやすくなる。だからいろいろな情報が入るし、周囲との関係も圧倒的に早く構築される。

逆に、暗ければ誰も近寄ってきません。人は、基本的に他人に対して防衛を働かせているわけで、国が違う人同士であればなおさらです。言葉の通じない異国の人が暗い表情で黙っていたのでは、近づきにくいのは当然でしょう。

最近、日本人の海外駐在員の方をコーチする機会が増えています。

コーチをする際には、その駐在員について周囲の人たちがどのような思いを持っているのか、フィードバックをとります。

フィードバックの中で特に多いコメントが、
・何を考えているかわからない
・話を聞いてくれない
・上からもの言う
など。つまり、ローカルの社員からすると、自分からあまり発信せず、表情も硬いことが多い日本人は、得体の知れない不安を覚える存在だということでしょうか。

海外で起きていることの多くは、ローカル社員との関係性ができていないうちに日本でのやり方をそのまま伝えることに執心し、ガバナンスを効かせてしまう、あるいは、下手に話を聞いてしまったら炎上してしまうのではないかと不安に思い、一方的にきつく言ってしまう。そんな悪循環に陥っているのではないでしょうか。

悪循環から脱却するには、まずは表情の「照度」を高め、周りからのアクセシビリティを高め、近づきやすい人材になることが求められます。

京都大学霊長類研究所教授の松沢哲郎氏によると、人の「ほほ笑み」は、サル類から進化したものだそうです。(※)

同氏は、新聞への寄稿で、次のように書かれています。

「ほほ笑みは、唇を真横に引いて端をぎゅっと上につり上げ、かすかに唇を開いて歯を少し見せる。これはサル類に共通した『恐れの顔』に由来する。(序列のあるサルの社会の中で【筆者注】)自分が劣位であることを示している」

「人間はこれをさらに一歩進めて、恐れがなくとも相手の顔を見ながら、前もってこの表情をするようになった。これがほほ笑みだ。自ら進んで劣位の表情を見せることで、敵意はありません。仲良くしましょう、という信号を発しているのだ」

日本という同一社会の中では、むやみにほほ笑む必要はないのかもしれませんがさまざまな国の人が集まるグローバルカンパニーの中では、お互いの距離を縮めるためにも、絶対に必要な「表情」なのだと思います。

海外においてだけでなく、日本でも会社の中にたくさんの外国人がいる時代です。

ほほ笑み、明るくするだけが能ではありませんが、どうすれば自分が「アクセシビリティ」の高い人材になれるかを真剣に考えさせてもいいのではないか、3社のグローバル人事部門の方々には、そう伝えました。

単に、英語力を高めるだけが手段ではないように思います。


【参考資料】

※松沢哲郎「チンパンジーと博士の『知の探検』」(2015年5月24日 日本経済新聞)

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。

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