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組織文化を創る

組織文化を創る
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組織文化の概念を構築したとされるエドガー・シャインは、その著書『組織文化とリーダーシップ』で「組織風土や文化を創造し、管理するのがリーダーとして唯一重要な仕事」と述べています。(※1)

組織文化と業績の関係性についてはさまざまな研究がありますが、2014年に国際コーチング連盟が行った調査では、強いコーチングカルチャーを持つ組織群の方が、そうでない組織群よりも、収益成長率が高かったことが報告されています。(※2)

「組織文化を創る」ことは、企業の持続的成長を使命とするリーダーにとって、重要な役割であると言えます。

では、組織文化はどのように形成されていくのでしょうか?


ある企業のA氏は、CEO就任以来、そのカリスマ的なリーダーシップによって業績を飛躍的に成長させてきました。

しかし、親会社にコミットメントした2020年の業績目標は、自分のこれまでのリーダーシップだけでは達成が難しいと判断し、「組織文化を変える」ことを経営戦略の中枢に据えることにしました。

A氏は、1年に渡って繰り返し、繰り返し目指す組織の状態について全社に発信し続けました。

それはもう、「口酸っぱく」言い続けたのです。

「今までの延長線では、2020年の目標は達成できない。いまの私たちに必要なのは、まったく新しい発想だ。新しい何かにチャレンジすれば、当然、失敗もついてくる。しかし、失敗からも学ぶことはできる。失敗からは、新しい発想も生まれる。とにかく、新しいことに取り組んでほしい」と。

A氏のとった「何度も伝える」という方法は、多くのリーダーが取るアプローチではないでしょうか。

組織には組織図があり、合理的に情報が伝達されるようにできています。

「情報は、組織図に沿って流れることで伝わる」

その前提に立てば、実現したい「組織文化」についてリーダーが組織図に沿って情報を「流す」のは、至極全うなアプローチだと言えます。

A氏も、あの手この手を使って発信し続けました。

しかし、一向に変化を感じることができないA氏は、エグゼクティブコーチをつけることにしました。

エグゼクティブ・コーチングでは、「将来の経営人材」として期待される次世代リーダーを対象としたインタビューから始めることにしました。

彼らへの質問は次の2点。

[1] あなたは今、どんな「組織文化」に属していますか?
[2] 2020年に向けて、まったく新しいことに自由に取組めるとしたらどんなことに取組みたいですか?

このインタビューでは、とても興味深いことがありました。

まず、[2]の質問に対して、多くの人が、「この答えで合っていますか?」とコーチである私に聞いてきたのです。

「正解を求める組織文化」であることを感じた瞬間でした。

また、[1]に対して興味深いことをおっしゃった方がいました。

「今の組織文化では、『できなかった』とか、『うまくいかなかった』など、失敗ととられることは言えないんです」と。

「失敗が許容されない組織文化」であることが感じられた瞬間でした。

この結果に、A氏は大きな落胆の表情を見せました。


改めて、組織文化はどのように形成されるのでしょうか?

ケネス・ガーゲンとローン・ハーステッドの共著"Relational Leading"に、興味深い一文があります。

「『組織文化』とは、主に『対話』の産物である」と。(※3)

では、「対話」とは何でしょうか?

"Relational Leading"で見えてくる「対話」の姿は、「相手の話をよく聞き、人を魅了するようにはっきりと伝えるプロセス」ではなく、「お互いに意味を作り上げる、継続的な連携のプロセス」ということです。

A氏が組織に変化を起こすことができなかった理由は、ここにあるのではないでしょうか。

エグゼクティブ・コーチングが進む中で、A氏は、直属の部下である役員たちと、1対1の対話の時間をとることを始めました。

「2020年の目標を達成するために、私たちには何が必要なのか?」
「私たちは、どのような組織文化を創っていく必要があるのか?」
継続的に対話を繰り返しました。

しばらくすると、役員である直属の部下たちが、さらにその部下たちと1対1で対話の時間をとり始める、という変化が起こりました。

A氏は振り返ってこのように話します。

「『こんなことを試してみたい』と新しいアイディアを私に持ち込んでくる社員が増えたんです。あれだけ言っても起きなかった変化が起こり始めています。1年前に私のやったことは、メッセージを変えただけで、伝えるアプローチが変わっていなかった。そんなことに気づきました」と。

ガーゲン氏はこうも言っています。

「賢明なリーダーは、『変化を起こす』まさにそのプロセスで、社員が参加できるような『対話』を持ち込む。そうなったとき、社員は、もはや『変化するよう要求された立場』ではなく、『変化』の『発起人』であり『共同設計者』となる」と。

A氏は今、「組織文化を創る」ことに手応えを感じつつあります。「伝える」のではなく、自ら「対話する」ことによって。


【参考資料】
※1 エドガー・H.シャイン(著)、 梅津 裕良・横山 哲夫 (翻訳)、『組織文化とリーダーシップ』、ダイヤモンド社、2012
※2 Building a Coaching Culture
※3 Lone Hersted and Kenneth J. Gergen,"Relational Leading", The Taos Institute Publicationss, 2013

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