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主体性の入り口

主体性の入り口
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企業の皆様と「実現したい組織」について話す中で、頻度高く出てくるもののひとつが、「主体性」だと思います。
部下に主体性のある人材になってほしい、組織全体を主体性のある集団にしたい、社員の主体性を引き出すために、何ができるのかを知りたい、と。

そもそも、「主体性」という意識は、どう始まるのか、今回は、それを考えるためにひとつの参考事例をご紹介します。

Aさんは、ある企業で金融事業部門を担当する経営幹部です。Aさんの組織は大きな再編を控え、急激な変化の最中にあり、Aさん自身も、数ヶ月間、休みなく激務をこなし続けていました。そして、もはや、意向に沿わぬ人は異動・解雇し、体制変更によってことを終結させるしかないと考え始めていました。

「今、組織は変わらねばならない。各グループ長は、自ら主体的に変革をリードして欲しい。その覚悟がない人には、降りてもらうしかない...」

ある日のコーチング・セッションは、Aさんのこの言葉からスタートしました。
Aさんは、「部下たちの主体性」について語っているようでしたが、私には、この問題の捉え方の中に「Aさん自身」の主体性がどう関与しているのか、そこが気になりました。

そこでまず、現実に起きている現象について対話を始めました。次々と、登場人物の名前が出て来ました。私も、一人ひとりの名前を手元の紙に書き留めていきました。
次いで、相互の影響力を矢印で付け加えることになりました。すると、影響を及ぼし合う人たちの塊がビジュアル化されていきました。

ふと、Aさんの言葉が止まりました。何か、うまくいかない原因に思いあたったのでしょうか。ゆっくり頷きながら思考を深めるAさんに「Aさん自身は、この図の中のどこにいるのか?」を聞くと、苦笑し、しばらく無言になりました。

私たちは、Aさんが語る「現実の中」でのAさんの居場所を見つけるべく、さまざまな質問で対話を進めました。Aさん自身も、「今、目の前で起こっている現実の一部である」という前提に立ったのです。

・今、起こっていることに対して、Aさんは、どこにどう影響を与えているのか?
・Aさんが言動を変えた時、誰にどんな変化が生まれる可能性があるのか?
・現実に変化をもたらせる当事者として、Aさんは、どんな変化を創り出したいのか?
・人は、そもそもどのように覚悟を手に入れると考えられるか?
 各グループ長が覚悟を手に入れる過程において、Aさんは、どのように参加・協力できる可能性があるのか?

話しながら、「起きている」ことの多くに、Aさんが影響を与えていることが明らかになってきました。

「偉そうなことを言っているだけ。自分は結局、何もしていないじゃないか...。まぁ、そういうことだね」
そう語るAさんの気づきは、次のポイントでした。

・起こっている現実から「自分」を切り離し、傍観者になっていたこと
・自分の問題を、組織の問題にすり変えていたこと
・そして、責任を逃れていたこと

Aさんは、異動・解雇の話を一旦、考え直すことにしました。その人たちへの打ち手は、的外れだと思い直したからです。
そして、Aさんが決意したこと。それは、「最も避けていたその人たち」との対話の場を、自ら主体的に設定することでした。

さて、Aさんのこの1コマの出来事には、「主体性」を扱う際のシンプルな指針があるように思います。それは、「起きている現実の"中"にその人を繋げる」こと。
つまり、起こっている現実に、その人がどう関与しているのかについて、対話すること。

「自分は/あなたは、現実を構成する一部である」

という前提に立つこと。

「学習する組織」で著名なピーター・センゲは、ことの原因がよその誰かや、何かから来ているとする態度から、自分自身がそれを構成するシステムの一部だという態度への変化、この変化が「自ら変化し続ける組織」の核心にあることを指摘しています。

Aさんは、この前提に立ったことで、かつてと同じ現実の中に、かつては見えなかったもの、すなわち、「新しい自分の役割」を見出しました。

皆様が「主体性」というテーマを考える際のひとつの参考になればと願っています。



【参考文献】
『最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か』
ピーター・M. センゲ (著), Peter M. Senge (原著), 守部 信之 (翻訳)

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