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プレゼンスは頭の中から始まる

プレゼンスは頭の中から始まる
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YouTubeで社会実験をしている動画がありました。目の前を歩いている人が突然倒れた時、周囲はその人を助けるのか、という実験です。

ただし、倒れる人は「ビジネスマン」か「ホームレス」のどちらかに扮装しています。見た目の違いにおける周囲の反応の差を見ることがこの実験の目的です。

結果はどうだったでしょうか。

男性がビジネスマンに扮していた時には10回中10回助けてもらえました。
しかし、ホームレスに扮していた時には10回中2回しか助けてもらえなかったのです。(※1)

この実験は極端な例ですが、「見た目」の印象が相手に無視できない影響をもたらすことがある、と我々は日頃の体験から知っています。このような「見た目から受ける印象」のことを、ここでは「プレゼンス」と呼ぶことにします。(※2)

たとえば、新車の購入を検討している時、スーツがシワだらけで靴がボロボロのしかめっ面の担当者が出て来たら、一瞬にして「この人からは買いたくないなあ」という気持ちになるかもしれません。こういった感情になるのは、「プレゼンス」から影響を受けているからだと言えるでしょう。

また、新入社員を一目見て「その髪型でお客のところに行って欲しくない」と思ったとしたら、「プレゼンス」が相手に及ぼす影響を予測している、ということになるでしょう。

エグゼクティブ・コーチングではアドバイスは行いませんから、クライアントに「こういうプレゼンスにするといいですよ」というようなことは言いません。

しかし、エグゼクティブ・コーチングでプレゼンスを扱う場面は少なからずあります。大きな「トランジッション」のタイミングはそのひとつです。たとえば、クライアントが社長に昇格することが決まった時は、プレゼンスは必ず扱わなくてはならないテーマになります。

今年社長に就任されたAさんには、就任前にこのような質問をしました。

・初対面の人にはどのような社長だという印象を持ってもらいたいですか?
・社員にはどのような社長だと思われたいですか?
・何を変えるとそう見られますか?
・これまではどのように見られようとしていたのですか?
・プレゼンスについて誰からフィードバックをもらいたいですか?

もちろん、社長に重要なのはプレゼンスばかりではありません。しかし人は、協力するかどうか、話を聞くかどうか、話しかけるかどうか、この人についていくかどうか、などをプレゼンスによって判断する部分があります。

社長という役割に就くと、社員の前だけでなくアナリストやマスコミなど、人前に出る機会が急に増えます。つまり、これまで以上にプレゼンスに意識を向ける必要が出てくるのです。

社長のプレゼンスが業績に影響を及ぼすという調査もあります。

タフツ大学で研究を行っていたニコラス・ルールとナリーニ・アンバディは、CEOの「見た目」で「会社の業績」を予測できるかどうか、という実験を行いました。(※3)

CEOのことを知らない被験者に、フォーチュン500の上位と下位25社ずつのCEOの写真を数秒間見せて、このCEOのリーダーシップについてどう感じるかを7段階で評価してもらったところ、CEOの会社の業績と見事に一致したというのです。

また、MRIを使った実験では、CEOの見た目に対してポジティブに感じている時だけ脳の扁桃体のある部分が活発に反応するということも分かりました。

これらの実験結果から、ルールとアンバディは、顔写真だけでもCEOの業績が予測できると述べています。

見た目だけで業績が予測できる理由は定かではありません。しかし、人がプレゼンスによって行動を変化させる傾向を持っていることや、「組織」がつまるところ人間の集まりだということを考えると、組織のトップのプレゼンスが組織全体の動きに何らかの影響をもたらしていても不思議ではないでしょう。

ところで、このコラムを書こうとしていた時にたまたまこんな記事を見つけました。

ドラマ「花子とアン」で頼りがいのあるガッチリとした体型を見せていた俳優の鈴木亮平さんは、その後のドラマ「天皇の料理番」では結核に侵され死んでいく役を演じました。その際、その役に自分の「プレゼンス」を合わせるため数か月間で20キロ体重を減らしたのだそうです。

さらにその後、映画「俺物語!!」の主人公を演じるために、またそこから30キロ体重を増やしたというのです。

ある雑誌の取材で鈴木さんは、徹底的に役作りにこだわる理由を「外見は中身に影響を与える」からだと答えています。(※4)

人生において、役割が変化することは度々あります。Aさんのように社長という役割に就くこともあれば、技術職から営業職になる、海外で買収した会社のトップになる、全く新しい会社に転職するなど、大きく役割が変化するタイミングがあるはずです。

役者のように演じる、というと言い過ぎかもしれませんが、新しい役割には、その役割に合ったプレゼンスが存在するのではないでしょうか。

今の自分のプレゼンスは過去の役割には合っていたけれど、今の役割には合ってない、ということもあるかもしれません。

また、見た目を今の役割に合ったプレゼンスにすることが自分の内面を成長させ、結果として今の役割での自分を成功させる、ということもあるでしょう。

鈴木亮平さんのことが書かれた雑誌の記事では、鈴木さんの完璧な役作りについて「役のイメージが頭の中にはっきり描かれていなければ、まずこうはいかない」と書かれていました。

プレゼンスは、頭の中から始まるのです。



【参考資料】

※1 Appearances Matter? Homeless Vs Businessman(Social Experiment)
※2 その人の「存在感」につながる全ての要素を含めて「プレゼンス」とする場合もあります。
※3 Nicholas O. Rule, Nalini Ambady, 2008,The face of success: inferences from chief executive officers' appearance predict company profits
※4 「Tarzan」No.681 (2015年10月8日号)

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