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「文化」を開発する
2016年02月10日
ビジネス環境が大きく変わったことについて、スイスにあるIMDビジネススクールのMukherjee教授は、フォーブスのコラムで、次のように説明しています。
「2つの大きなトレンドが、ビジネスの環境を根本的に変えてしまった。1つは、『上司が一番知っている("the boss knows best")』という『家父長主義(paternalism)』が、もはや機能しなくなったことだ。2つ目は、企業というのが、もはや『単体』でなく、『ネットワークの一員』として、競争するようになったことだ」(Mukherjee, 2016)
では、この新しい環境の中でも、企業を飛躍させるリーダーシップとはどのようなものなのでしょうか?
Sally Helgesen氏は、1970年代以降に盛んになった「ヒーロー型リーダー像」について以下のように警鐘を鳴らしています。
「ここにパラドクスがある。コラボレイティブ(連携する)チームを築き、促進することは、今では、組織が強く希求する目標(聖杯)となった。それにも関わらず、人々はいまだに、『組織リーダー』を、『すべての制圧したヒーロー』か『臆面もない悪者』か、どちらかだとする見方をする。スティーブ・ジョブズに対する私たちの激しく相反する態度、『彼はヒーローなのか? 悪者なのか? 彼のあの悩ましい人格を理由に、私たちは彼を嫌うべきなのか? それとも、天才として彼を崇拝すべきなのか?』というものは、『ひとりの個人』を『組織全体が具体化された化身』と捉えると同時に、『善』と『悪』を『分けたい』という我々の欲求が、象徴的に現れたものだ」(Helgesen, 2016)と。
さらに、組織や人々の中にある「ヒーロー」願望に対しては、
「実際には、組織が『繁栄する能力(ability to thrive)』は、『たったひとりのリーダー』よりも、その『文化』にかかっている。そして、『文化』は、(その組織の)すべての階層にいる社員たちによって形作られるのである」 (Helgesen, 2016)と。
組織にとっての「会社の文化」の重要性については、『主体的に動く ~アカウンタビリティ・マネジメント』の原著者であるRoger Connors と Tom Smith氏は次のように書いています。
「会社の文化が機能していないとき、それは、会社が業績を達成する上で、あまりにも大きすぎる障害となる」(Connors and Smith, 2012)
この点が、多くの企業・組織にとっては"挑戦"かもしれません。
というのも、「『組織文化』のパラドクスとは、確かに、『文化』は、大きな違いをもたらすのだが、そもそも『文化』というものが、小さな行動、小さな習慣、小さな選択で構成されている、という事実にある」(Heffernan, 2015)からです。
つまり、組織の文化とは、従来の「指揮統制」モデルのトップダウンによって組織のトップが「こうすれば、ああなる」という類のものではないのです。
「会社の文化」のマネジメントには、これまでのやり方を超えたものが求められているのだと思います。
では、「文化」とは、何から、どこから、生まれるのでしょうか?
「『文化』とは『話し方』、『聞き方』、『議論の仕方』、『考え方』、『視点/捉え方』のことである」(Heffernan, 2015)
「『組織文化』は、そのほとんどが、私たちが、お互いに、どのように対話しているのか(the way we talk together)によって生み出される」(Hersted and Gergen, 2013)
これらの言葉から、「『文化』は『対話』を通じて生み出されている」ということが言えそうです。
「組織」が「対話」の上に成り立っていることについて、アメリカ海軍のビジネススクールNaval Post Graduate Academyで経営と組織行動を教えるFrank J. Barrett氏は、次のように表現しています。
「組織というのは、『対話』を通じて作られ、維持され、そして変容される。われわれの対話が、(その組織の)慣習や生き方を支持/確認したり、あるいは、それに対して挑戦したりするのである」と。(Bushe and Marshak, 2015, p70)
「ひとりあるいはごく一部の選ばれしリーダーが会社を引っ張る」という従来の考え方を持つことに、会社経営の限界があるように思います。
「『組織文化』は、非リニアなシステムであるがゆえに、ごく少数の称えられたリーダーだけに頼るわけにはいかない。そうではなく、すべての社員、関連会社、共同経営者、顧客といった広範囲にわたる『集団知能』からエネルギーを引き出すのだ」(Heffernan, 2015)
「集団知能」に関する研究の中で、MITのトーマス・マローン氏は、『創造的な問題解決』において、並はずれた効果を発揮しているチームを分析し、興味深い発見をしています。
「その結果わかったのは、『個人の知能(IQで測定)』は、大きな違いをもたらさないということだった。『高い知能』の『総和』も『ひとりかふたりのスーパースターがいること』も重要なわけではなかった。より高く上に上がり、より有効なソリューションを出す集団には3つのポイントがあった。その1つが、『互いに、だいたい同じ時間しゃべらせていた』ことだ。...達成率の高い集団では、誰ひとりとして、会話を独占する人も、傍観者もいなかったのだ」(Heffernan, 2015)と。
「リーダーシップ」は、いまや「文化」になったと考えるべきかもしれません。企業に必要なのは、スティーブ・ジョブズではないのです。
ハーバード・ビジネス・スクールのRosabeth Moss Kanter 教授の言葉「成功している企業というのは、『ひっきりなしに動き続ける組織文化』を開発している」(Jones et al., 2004)のように、リーダーがフォーカスしていくべきは、「会社の文化」を動かし続ける「対話」なのかもしれません。
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【参考資料】
Bushe, G. and Marshak, R., 2015, Dialogic Organization Development,
Collection only by Gervase Bushes and Robert Marshak
Connors, R. and Smith, T., 2012, Change the Culture, Change the Game, Penguin
Heffernan, M., 2015, Beyond Measure, TED Books, Margaret Heffernan
Helgesen, S., 2016, We Don't Need Another Hero CEO, PwC
Hersted L. and Gergen, K., 2013, Relational Leading, Taos Institute Publications
Jones et al., 2004, 10 Principles of Change Management, PwC
Mukherjee, A., 2016, It May Be Time To Get Rid Of 'SMART' Management, Forbes
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