Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
優秀なリーダーは、問題を解決せず、置き去りにする
コピーしました コピーに失敗しましたシリコンバレーを訪問した際、起業家のスタートアップ支援を専門にする人物と話す機会がありました。
私が、かつて社員100人の企業が300人規模に拡大する過程をコーチした経験をお話すると、彼は興味深そうに頷き、そのような起業家に対して、自分がいつもするアドバイスがある、と言い出しました。
「100人の経営で問題があるなら、1,000人にしてしまえ。そうアドバイスします。そうすれば、今の問題は、問題ではなくなるでしょう」と。
シリコンバレー流なのでしょうか、刺激的な発想でした。
確かに、100人の組織の問題解決を十分に検討したからといって、1,000人の組織になるアイディアが生まれるのかは、やや疑問です。むしろ、どうすれば1,000人を目指せるか、そう考えた方がより創造的にアイディアが生まれそうです。
彼の発想・視点は、実は、私たちがコーチをする際にも役立つ視点だと思います。
新人コーチが陥りやすい、負のスパイラルとは?
コーチングを学び始めた頃、よく指摘されたことが「クライアントの問題を解決しようとするな」ということでした。別の言い方をすれば、「いまクライアントが『問題として話していること』に、コーチは巻き込まれるな」ということなのですが、これがなかなか難しい。
相手の話を十分に聞こうとする。すると、相手と同じ気持ち、同じ目線で相手の語る問題を把握しようとする。そうこうしているうちに、相手と同じ土俵=「問題」を見つめている状態に入ってしまいます。
相手の問題について最も熟知しているのは相手なのですが、それを理解しようと思えば思うほど、情報を詳細に集め、ますます、問題を抱える「相手と同じ目線」になっていく。そういうスパイラルが高速回転しはじめ、がんじがらめになっていきます。
コーチングを職場実践している方であれば、一度は、経験したことがあるのではないでしょうか。私も、コーチングを学び始めた時、こうした罠からなかなか抜け出せずにいました。何かヒントがないのか、そう思っていた時、少し違った視点を与えてくれたエピソードに出会いました。
・喧嘩別れしそうな夫婦が居た
・2人は、お互いの立場や言い分を向き合って話し合う必要があると思った
・それを高名なアドバイザーに相談することにし、電話をかけた
・アドバイザーは、話し合いを持つ前に1つの条件を提示した
「まずは気分転換に、この町にある山に、2人で登山して来なさい。その山頂まで2人で協力して辿り着いたら、本当に私のアドバイスが必要なのか、もう一度話し合ってみること。その上で、私のところに来ると良いでしょう」
その夫婦は、結局、アドバイザーの元には訪れなかったとのことです。山頂を目指して協力し合い、その過程で関係を取り戻した、という趣旨の逸話でした。お互いの「問題」を見つめることを一旦保留にし、「違うもの」に焦点を当てた結果、当初の問題は、もはや問題ではなくなっていたのでした。
問題を乗り越えてその先に行くための方法として、問題を直視し、分析し、解決する以外に、あえて「問題を置き去り」にし、違う次元に移動してしまう方法があるのかと、ちょっとした感動を覚えた記憶があります。
問題を「あえて」置き去りにする
私自身、コーチングを始めた頃、クライアントが抱えるジレンマに親身に寄り添い、否定せずに話を聞き続けたことがありました。
「人の話を聞くことができず、役員が一枚岩でない」という周囲からのフィードバックについて淡々と語る中堅企業のトップA氏。
私が聞けば聞くほど相手の声の調子は暗く沈んでいき、途中、本人も「聞いてほしいと思って話し始めましたが、本当はこういうことを話したい訳ではないのです」と言い始めました。
そこで私は、あえてその問題を脇におき、聞きました。
「今の状態がすっかり解決した時に、Aさんはどうなっていたいですか?」
するとA氏の声は、徐々に生気を取戻し、
・業界で最も安く最も品質の高いサービスを開発し世の中に届けていたい
・そこに必要な人材と投資を呼び込めるようになっていたい
など、自身が長年取り組みたいと思っていたことを、いきいきと語り始めたのです。
その後、3年経たずしてA氏の会社は売上も人数も3倍以上の規模を達し、上場も果たしました。「目の前の問題」に焦点を当てていたときに想定していた半分程度の時間で、クライアントが前に進める状態まで到達したことに驚きました。
さて、今あなたが行っているコーチングの焦点は、どこに当たっているでしょうか?
「問題」とその解決に焦点が当たっていると感じた場合、「目標」に目を向けることで、その問題からクライアントを「解放」できるかもしれません。
「問題」は解決せずに、置き去りにする。
シリコンバレー流が、時に有効かもしれません。
この記事を周りの方へシェアしませんか?
【参考資料】
コーチング研究所調査
「クライアントを目標達成に導くコーチの特長」(2015年)
※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。