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「AI(人工知能)は問いを生み出せない」ことに触れた興味深い論文があります。ヤフーのチーフストラテジーオフィサー安宅和人氏が「ハーバード・ビジネス・レビュー」に寄稿された「人工知能はビジネスをどう変えるか」で、以下のような、「問い」に関連する記述が随所にあります。(※1)

  • AIは、問いを投げかける力を持たない。計算はできるが問題や式をつくれない電卓に似ている。生産的な批判もできない。
  • 人間の知性の源といえる「複数の視点から本質的なポイントを見つける」「コンテキストに合わせた現象の総合的な理解とその意味合い出し」というような広く深いパターン認識も期待するのは困難だ。
  • 正しい相手に対して、正しいタイミングで正しい質問を投げかける力はコンピュータに当面、あるいは永遠に期待できない。目指す姿を定めることも同様だ。

AIはさまざまな分野で実用化され、分野によっては人の何倍もの効率を上げていますが、問いかけを中心とする、「コーチング」は、人にしかできない領域なのかもしれません。

安宅氏は、AIが進歩していく中でのマネジメントについて、「目指す姿を設定し、正しい問いを投げかけることが業務の中心に」なると示唆しています。

コーチングの効果は何によって高まるのか?

コーチング研究所は、組織内で行われた2,000件以上のコーチングのデータをもとに、その効果(目標の明確化、自発的な行動の促進、など)とコーチの関わり方について調査を行ないました。

その結果、コーチングの効果と最も相関の高いコーチの関わり方は、「新しい視点を得るような問いかけ」(r = .63)であり、これらの間には強い関係があることが分かりました。(※2)

コーチングの目的は、生産性の向上などの目標達成にあります。変化や改善がなければ、よくても現状が維持されるだけで、今以上の生産性向上を期待するのは難しい。変化や改善のための第一歩は「新しい視点を得る」ことなのだと思います。

「新しい視点を得る」とは?

ティーチングやアドバイスによって、相手に新しい視点を提示することは簡単なことだと思います。ところが、どんなに的を射たアドバイスであっても、「アドバイスされた側」が、それを「自分のもの」として受け取れないことがあります。世の中には、さまざまな視点や考え方、やり方があるにも関わらず、それらを自分のものとして取り入れることができないことがあるのです。

その理由には、「アドバイスの内容を正確に理解できないから」など、いろいろなものがあるでしょう。しかし、新しい視点を取り入れられない理由のほとんどは、「人は、自分の視点、自分のやり方、考え方にこだわってしまうもの」だからだと思います。さらにここで問題なのは、自分が「自分の視点、自分のやり方、考え方」にこだわっていること自体を、当人は自覚していない、つまり、気づいていない、ということです。

体の一部のようになっている視点ややり方、考え方は、当然のごとく“自分にとって”は正しいものだと思っているので、意識もせず、自動的にそこに固執してしまう。数ある視点の中から、その視点を「自分が選んでいる」こと、そして、無意識にも「自分がこだわっている」ということに気づくことができれば、それを手放し、それとは別の新しい視点を「選ぶ」ことが出来るのだと思います。

私たちが、自分で無意識的に選んでいる視点や、考え方、行動について気付くためにできることは、「自分にとって」は当たり前のこと、日常のルーティンの中では見過ごされていくようなことなどについて、改めて考え、自分自身を振り返ることです。

ところが、これを「自分ひとり」でやることは難しい。

自分が選んできた視点や考え方を基準に自分に問いかけるわけですから、答えは最初から用意されているようなもので、そこから「新しい気づき」を得るのは至難の業といえます。自問自答には限界があります。

自分の選んでいる視点、考え方に気づくためには、「そのこと自体」をテーマに、「他者から」の問いかけに答える必要があります。

コーチの立場からすれば、その人にとっては「当たり前」となっていること、日頃は見過ごしていることなどについて、さまざまな角度から問いかけ、その話を聞くことなのです。

  • 何のためにやっているのか?
  • 誰のためにやっているのか?
  • なぜ、そのやり方をしているのか?
  • やりたいと思っていることは何なのか?
  • 相手の立場からどう見えるのか?

などなど。

たった一つの「問いかけ」によって、劇的に視点が変わることもあるでしょう。しかし、「新しい視点を得る問いかけ」とは、たった一つのスーパークエスチョンだけではなく、さまざまな角度からの「問いかけ」による、大量の対話の中で自分自身に気づくこと。

自分がそれを「選んでいる」ことに気づけば、自ずと新しい視点、考え方や行動を選ぶことができるのだと思います。

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【参考資料】
※1
安宅和人「人工知能はビジネスをどう変えるか ~『ヒト・モノ・カネ』から『ヒト・データ・キカイ』へ~」
 (「ハーバード・ビジネス・レビュー」2015年11月号)

※2
コーチング研究所調査
調査対象: コーチングをうけた60組織(企業・病院など)の2,088人
調査期間: 2015年6月~2016年2月
調査内容: コーチの関わりやコーチングの効果に関する調査(D-meter)
      「コーチの関わり方(13項目)」「コーチングの効果(4項目)」他

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