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「失敗を活かす」人になる
2016年06月01日
周囲から「優れた経営者」だと言われている方にお会いすると、いつも思うことがあります。それは、「意外と失敗体験が多い」ということです。あの時はこんな失敗をした、その後もこんな失敗をした、と失敗体験がとにかくたくさん出てくるのです。
大企業の経営者ともなると、いくつもの成功を積み重ねてCEOに就任されるイメージもありますが、実際には「失敗体験の数が多い」ことも優れた経営者の一つの傾向ではないだろうか、と感じるほどです。
先日、大手メーカーのCEOであるAさんがこんな話をされていました。
「若い頃、私が英文の契約書の重要な部分を見落としたんです。それが原因で提携企業と揉めて、部長と一緒に飛行機に乗って謝りに行ったんですよ」
「開発部長の時は、私が営業担当役員と関係が悪かったせいで、顧客に間違った製品情報が伝わり社長から叱られました」
こんな話を次から次へとされるAさんの話を聞きながら、ふと、「Aさんは失敗を自責で捉える力が高い」と感じました。
Aさんが、すべての失敗の原因を「自分の責任である」としっかりと捉え、それらの失敗が、今どのように活かされているかをお話になっていたからです。
失敗を活かせる人の傾向とは?
ハーバード・ビジネス・スクール教授のフランチェスカ・ジーノらは、失敗原因の捉え方とその後の成功の関係を調べるために、被験者に2つの異なる「難しい課題」を出しました。その結果、「最初の課題で失敗したのは自分の責任である」と受け止めた人は、次の課題で成功する確率が3倍にもなりました。(※)
失敗の数は同じでも、その失敗を「自分が失敗した」と「自責」で捉えられるかどうかが、次の成功に大きな影響をもたらすというのは興味深い結果です。
「失敗の数」と「自責」の関係は、下図のように整理できるのではないでしょうか。
横軸に「失敗の数」、縦軸に「失敗を自責で捉える力」をおきました。そして、第1象限から順にA~Dを振りました。
最も失敗を活かして成功しやすいのは、「失敗の数」が多く、かつ「失敗を自責で捉える力」が高いAのグループにいる人だ、と考えられます。
Bは、「失敗を自責で捉える力」は高くても、その力を活かす「失敗の数」が少ないグループです。Aのグループに行くポテンシャルはありながら、何年も同じ仕事を担当していたり、長く新しいことにチャレンジしていなかったりするグループ、と言えるかもしれません。優秀な人材であっても、長期間新しいことにチャレンジしていないと、このグループに留まりそうです。
Dは、多くのことに挑戦して失敗の数が多いものの、自責で考える力が高くないために、そこから成功につながる学びが十分に出来ないグループです。次から次へと仕事を変えたり、職場を移ったり、役割が変わっても、失敗の原因を「他責」にしていることが多いグループともいえます。「自責で捉える力」を高めればAグループに行く、と言えるでしょう。
では、自らの組織でAの人たちを増やしたい時、つまり組織の中で「失敗から学習する人」の数を増やしたい時には、どのような方法があるでしょうか。
「失敗から学習する人」を増やす方法とは?
まず、横軸の「失敗の数」を増やすには、「新しいことへの挑戦」が欠かせません。失敗の数を増やすと言っても、人命に関わるものは絶対に失敗してはいけませんし、経営に大きなダメージを及ぼす失敗も増やすわけにはいきません。しかし、仕事内容にもよりますが、日常的に起こる失敗の多くは、しっかりと学ぶことさえ出来れば、許容される範囲の失敗ではないでしょうか。
過去の経験が全く活かせない部署への異動や、上位職への抜擢、買収企業への出向、新規事業を任せるなど、新しいことに挑戦する環境を次々に与えられれば、おのずと失敗の数も増えます。新しいチャレンジには失敗がつきものだからです。さらに、「たとえ失敗したとしても新しいことに挑戦する姿勢を高く評価する」仕組みが社内にあれば、挑戦の後押しになるでしょう。
次に、縦軸の「失敗を自責で捉える力を高める」にはどうすれば良いでしょうか。
実は、これまでのエグゼクティブ・コーチングの経験では、「あなたの役割は何ですか?」とお聞きした時、その返答が曖昧な人、つまり「自分の役割をはっきり説明できない人」や「自分の責任範囲が不明瞭な人」ほど、自責で物事を捉える力が低いという傾向がありました。
「失敗した時に自分の責任にされたくない」という気持ちがあると、自分の役割や責任をはっきりさせなくなるのかもしれません。
なんでもかんでも「全てが自分の責任だ」と捉えるのは行き過ぎですが、日頃から自らの役割や責任をはっきりさせておくことは「失敗を活かして成功する」ために重要な要素の一つかもしれません。
あなたは最近、どんな失敗をしましたか?
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【参考資料】
※「4つのバイアスが人の行動を型にはめる ~なぜ「学習する組織」に変われないのか~」
フランチェスカ・ジーノ、ブラッドレイ・スターツ
(ハーバード・ビジネス・レビュー 2016年5月号)
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