Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
部下の能力を高める「リーダー同士」の対話
2016年08月03日
ここタイでは、昨今、日系企業の拠点は、「製造拠点」から東南アジアの「統括拠点」にとても早いスピードで変貌しつつあります。ホワイトカラーによる、より重層化した組織が生まれる中、日本人がいかにタイ人をマネジメントするかに加えて、タイ人リーダーがどれだけ早くタイ人の部下を育成できるかも、大きな課題として浮上しています。
この春からタイに拠点長として駐在している私自身も、傘下のタイ人マネージャーに、いち早くタイ人スタッフを育ててもらえるように腐心しています。赴任前は、「タイ人マネージャーにコーチングの技術を伝えれば、うまくいくだろう」と楽観的な予想を立てていましたが、なかなかそう簡単に事は進みません。
そこで、自分の同僚である上海や香港の拠点長と定期的に対話する機会を持ち始めました。
・タイ人マネージャーが拠点長に一番期待していることは何か?
・日本人マネージャーの育成と比べ、最も変えなければいけないことは何か?
多くの質問を投げかけてくれる同僚拠点長との対話は、自分の部下育成能力向上にとても役立っているという実感があります。
そこで、このコラムでは、部下の能力を高めるためのアプローチとして、「リーダー同士」が対話することの価値に注目していきたいと思います。
「リーダー同士の対話」と「部下の能力向上」の関係とは?
コーチング研究所の調査に、「上司は、私の能力を伸ばすような関わりをしている」という部下の実感と最も相関が強いリーダーの関わりは、「上司は、他の上長(リーダー)と十分なコミュニケーションを交わしている」というものがあります。その相関係数は、0.85と非常に強く、上司が部下育成をできている組織では、「上司同士が連携できている」ということが言えるでしょう。(※)
では、こうした「管理職同士の連携」は組織の中でどのように作ることができるのでしょうか。
部下育成力を高める「リーダー同士の対話」の構造化
タイを重要拠点とする、ある日系企業の現地化促進にむけた取り組みをご紹介します。
社長さんが長年理想としてきた、「部門長同士が部下育成について意見交換し続ける組織」にむけ、「部門長同士」が対話する場を「構造化」した取り組みです。
3人の部門長が「社内コーチ」となり、同僚である他の部門長5人(=ステークホルダー)の部下育成ゴールに向け、8ヶ月にわたって2週に1回ずつ、継続的にコーチングを行う長期プロジェクトでした。
「上司が部下をコーチする」のではなく、「部門長が他の部門長をコーチする」というコンセプトは、私にも、新鮮でした。
社内コーチたちが行ったのは、次のようなことです。
・部門の目指す姿を明確にする
・部下一人ひとりの育成ゴールを決める
・部門長自身の成長目標を決める
・部下への具体的な関わりを計画する
・部下の変化や成長を確認しながら、次の行動を決める
・ゴールへの進捗を確認する
この間、社内コーチは「聞き手」に徹し、さまざまな角度から質問し、気づいたことや感じたことをステークホルダーに伝えていきました。
8ヶ月のプロジェクト終了後、コーチを受けたステークホルダーたちは、何を得ていたのでしょうか。
もっとも多かったのは、「自分の目指すリーダー像が明確になった」という声でした。
具体的には、
「あなたは、どんな部門をつくりたいのか?」
「あなたは、どんなリーダーになりたいのか?」
「あなたは、部下に何をしたいのか?」
などを繰り返し質問されるうちに、「リーダーはかくあるべき」という思い込みから解放され、新たなリーダー像や、自分の役割を「選択」できるようになったということです。
他には、
・部下の成長のためにできる行動の幅が広がった
・部下に明確に期待を伝えたことで、部下のやる気があがった
・部下に仕事を任せられるようになり、部下のできる仕事が増えた
などの声がありました。
「リーダー同士」の対話の取り組みは、部下育成に関する情報交換だけでなく、「部下にどう関わるのか」を考え続け、自らリーダーシップを強化する機会となったようです。
「リーダー同士」の対話が機能する理由
ではなぜ、「リーダー同士の対話」が機能したのでしょうか?
「業務に必要な情報交換の場はあっても、部下育成の悩みを共有し、
部下との接し方について議論する場は、なかなか無い」
ということが、ひとつの要因だと考えられます。
社内コーチの部門長は、自分と同じ立場や役割を担い、「部下育成」という共通課題をもつ同僚部門長たちの職場での活動や部下との関わり、育成ポリシーなどを「そもそも知らない」ため、関心高く話を聞くことができます。
つまり、「共通課題でありながら、利害関係のないこと」を前提に、対等な立場での対話の場だからこそ、正直に自分の考えを話し、思考を深めることができる場になったのではないでしょうか。
「リーダーと部下」の対話を通して部下の能力を高める"前の段階"として、「リーダー同士」の対話からスタートするのは、ひとつの効果的な方法であるようです。
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【参考資料】
コーチング研究所調査
調査対象: 123組織(企業・病院など)の部下14,004人
調査期間: 2011年9月~2014年12月
調査内容: リーダーシップおよび組織の状態に関する調査 (Executive Mindset Inventory)
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